第15話 ギャルと小悪魔
(マズイ……これはマズイ状況だ……俺の安寧の高校生活が早くも破綻したかもしれん……)
現在は昼休み中であり、普段ならお手製の自作弁当を作ってくるところだが、寝坊してしまったので、一度売店へパンを買いに行ってから人気のないお気に入りスポットである校舎裏のベンチへ行こうとすると、そこには先客である茉奈がいた。
(誰を待っているんだ……まさか俺を待っている?……いや、小鳥遊さんは昨日の件でハッキリと分かった。あの人は小悪魔さんだ!俺がいったら絶対に揶揄われる……)
勘違いじゃなければ茉奈は零士を待っているのだろうと察しが付いていた。こんな場所で一人昼食を食べているなんて、今のところ茉奈くらいしか知らないからだ。脚をプラプラとさせながら、周りをキョロキョロとしていた。その様子を見ながら、少し胸の中に罪悪感を感じながら、音を殺して立ち去ろうとすると背中からバチンと衝撃を受ける。
「痛っ!」
「やあやあ、後輩君。こんなところで会うなんて奇遇だね♪」
「み、宮本先輩!」
「バイト以来だね、高坂君。それでぇ、こんなところでコソコソと何をしているの?傍目からでもすっごく怪しかったよ」
「そ、それは……」
「あれ~零士君だ~!それに……貴女は宮本先輩……ですよね?」
(終わった……小鳥遊さんにバレた)
あれだけ茉奈の後ろの方で、麗華と零士が騒いでいて気付かない訳がない。茉奈は普段の可愛らしくもあざとい笑みを崩さなかったが、零士が逃げようとしていたのを薄々と感づいていたからか零士の肩をギシッっと音が出そうなほどに強く握られた。
「そうだけど……何でウチのこと知っているの?」
(ほんと高校入学して一週間か?全員の名前でも知っているんじゃないか……)
「流石に全員は知らないよ~」
「えっ……」
「零士君ってば顔に出すぎだよ~。それで私が宮本先輩を知っている理由ですよね?それは単純明快で宮本先輩が二年生で有名人だからですよ」
「……ウチが?」
「そりゃあ、有名にならない方がオカシイですよ。宮本先輩……すっごく綺麗じゃないですかぁ~長い金髪も凄く綺麗ですし、頭脳明晰で――」
「わ、分かった!分かったから止めて!」
「えぇ~まだまだ言い足りないですよ~」
「も、もういいから、う、ウチがその……うぅ」
「……罪な女だ」
「何が~零士君?」
「何でもないです」
ピアスや派手なネイルと更に染められた金髪の印象で、怖いギャルに見られていた。そして普段から強気な口調で学内に友人すらいない麗華にとって、これだけ他人から褒められるという経験は無かった。羞恥心から耳まで真っ赤にさせた顔を両手で隠しながら、そして指の隙間から何度も茉奈の方をチラチラと見ていた。まるで恋する少女のようであった。
「宮本先輩……ううん、麗華先輩って呼んでもいいですか?」
「な、名前呼び……う、うん。ウチは構わないよ」
「ありがとうございます!そうだ、一緒にあそこで話しましょうよ」
「……うん」
少し逡巡しながらも麗華は茉奈に握られた手によりベンチの方へと連れて行かれる。茉奈に劣らない美少女ながらも、何処か近寄り難い雰囲気を醸し出しているギャルっぽい麗華に対して、初見でも一切恐れずに明るく話しかけれる茉奈の凄さを零士は改めて認識した。
(あれ……俺、取り残された……どこか他の場所でも探すか……)
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