真夏の告白

夢僮亜樹

第1話 告白

ミーン ミーン

せみの鳴き声がする夏の日。

ここは中学校の裏庭。

人はあまり来ない校舎の裏にある狭いスペース。

たまに私のように告白する人がいるくらいかな。


私は岩崎美桜(いわさきみお)中学3年生。

おとなしい方だと思う。目立って可愛い訳でもない。平凡でつまらない女の子だ。

そんな私が一大決心をした一学期の終業式の朝。

私は吉岡君の下駄箱に手紙を入れた。


『吉岡陽斗様

  お話したいことがあるので放課後

  裏庭に来てください。

            岩崎美桜 』


吉岡陽斗(よしおかひろと)君とは中2のときのクラスメートだ。

でも、特別仲が良かったわけでもなく、どちらかといえば、私が一方的に見ていた感じだった。

そんなにしゃべった記憶もないけど、大好きなんだ。

吉岡君は、目立つタイプでもお祭り人間でもない。

スポーツマンでもなく、秀才でもない。

極普通の男の子だ。

瞳が大きくって黒目も大きくって、可愛い感じのイケメン♡

それに声がすごくいいの♡

でもね、私が好きになったのは性格なの♡

優しいの。とにかく誰に対しても優しいの♡


吉岡君は押し付けられて図書委員になったんだけど、放課後遅くまで、本の整理を嫌な顔一つしないでしてるし、

私は、わざと、吉岡君がひとりになる遅い時間に本を帰しに行くんだけど、いつも、笑顔で対応してくれるの。

「遅い時間にごめんね。本の返却お願いしてもいいかな?」

「いいよ。岩崎さん、今日も本借りる?」

私は一応断ってみる。

「えっ、いいよ。もう、時間も遅いし...。」

吉岡君はさらに笑顔で対応してくれる。

「かまわないよ。まだ、片付けしてるし、ゆっくり選んできて。」

「ありがとう。」


あるときなんか、私の友達の美幸が、内緒で持ってきたスマホ失くしたの、吉岡君は、夕方遅くまで一緒に探してくれてたし、もちろん、私も一緒に探したよ。

結局、スマホは落とし物として職員室に届けられ、没収されていた。

吉岡君と私は美幸と一緒に先生に謝って、反省文、原稿用紙2枚で返してもらえた。

あのときの、吉岡君、自分のことのように必死だったな。


それとか、クラスの男子が中庭で見つけたとか言って、箱に入れて、教室に蛇をもってきたことがあったんだ。

女の子は、キャーキャー言いながら逃げ回ってた。

そんなとき、吉岡君が男子から蛇の入った箱を取り上げて、中庭に逃がしたこともあったけ。


私が色々回想に浸っていると、吉岡君が来てくれた。

「岩崎さん、遅くなって、ごめん。」

なんか、友達に私に呼び出されたことバレて、わちゃわちゃしてたらしい。

ひとりでくるの苦労したみたい。

「私の方こそ、呼び出してごめんなさい。来てくれて、ありがとう。」

この状況なんだから私が告白するのはわかってるんだよね。

「話したいことって、なに?」

それでも、そう聞いてくるか?

私は、言葉をつまらせながらも、がんばって告白したんだ。

「私...2年生のときから、吉岡君のこと好きだったんです。」

吉岡君は優しい笑顔で返事してくれた。

「ありがとう。うれしいよ。」

「でも、ごめん。今、僕は彼女とか考えられないんだ。」

「いい友達でいいかな?」

すまなそうな表情で答えてくれた。

「うん。話聞いてくれて、ありがとう。」


吉岡君が校門のところまで戻ると、友達たちがいて、冷やかされてた。


私は想いが叶うとは思ってなかったけど、やっぱり、ショックだった。


叶うわけはない...でも、3年になってクラスが別々になっても、想いは変わらなかった。

失恋しても、想いを伝えたかった。

後悔はない。


それから、9か月が過ぎ、私は高校生になった。


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