第3話
「こんにちは、梅さん」
「こんにちは!」
桃色担当、サクラ梅。一ヶ月前にグループに入ったばかりの新人歌い手。ライブオーディションの効果で、YouTubeチャンネル登録者数22万人。その歌は透き通る声で人々を魅了し——その姿は、体型で悩む女性の希望の星である。しかし、アンチもかなり寄ってくる。
「かなりのアンチコメントが目立ってますが、メンタルはどうですか?」
「ああ、もうあまり気にしてないですし、見ても削除してるので」
「Xでマシュマロを置いてもらってますが、そこでも酷いアンチコメントがあれば、開示請求を行うこともできます」
「あ、でも、ネタにできるので、今のところは大丈夫です!」
ころっと笑顔で言える辺り、肝が据わってる。流石元ホテル従業員。
「体型のことはやっぱり言われてしまいますけど、でも、可愛いってコメントもいっぱい来るんですよ。だから、負けません!」
「その意気です! ……ですが、かなりの数配信をされているのが見受けられます。やってもいいのですが、無理はしないように」
「無理はしてませんよ! 配信楽しいし、それに……」
「それに?」
「無名の新人だから……今頑張らないと……」
梅さんが拳を握った。
「グループの登録者数が、100万人、行ったんです。私が、ここで止まるわけにはいきません。せっかく憧れのリコネに入れたんですから、貢献したいんです!」
「……お気持ちは嬉しいです。ですが、焦りは禁物です。ゆっくりやっていきましょう」
「はい! ご指導よろしくお願いいたします!」
「もし悩んでることなどあれば、気軽にご相談ください」
「ありがとうございます!」
梅さんの今後に期待だ。
さあ、本日これで最後の面談である。
「お疲れ様です。
「お疲れ様です。——藤原さん」
白髪の女性があたしの正面席に座る。彼女こそ、このRe:connectを5年間支え続けたリーダー、白色(シルバー)担当、
レズビアンであることを公表しており、女性ファン6割、男性ファン4割の数字を持つ。その歌声はアーティストとしてトップレベル級。彼女のお陰でアニメの主題歌も決まった。アニメMVのオリジナルソング動画は億再生が行くほど。個人アカウントの登録者数は70万人を超えたばかり。最近海外勢にも知られたようだから、もっと伸びるかもしれない。
とにかく、いろんな可能性を秘めている、Re:connectにはいなければならない存在。それが彼女である。
「——という動きをしようと、運営から話が出てます」
「なるほど」
「最終決定は変わらず白龍さん次第となります。企画データをお送りしたので、お手隙の時にご確認をお願いします」
「わかりました」
「で、バースデーイベントですが、3Dライブのスタートを切っていただきたいので、スタジオで、キャプチャスーツを着て行っていただきます」
「はーい」
「主にファンからのリクエストのある曲を中心に、それと、新曲もそこで歌っていただければと」
「うんうん」
「運営からは以上です。白龍さんからは何かありますか?」
「バースデーイベントは19時から21時までの認識でいいですか?」
「はい。なので、雑談枠はその前にやっていただけると助かります。スタジオでやっても大丈夫です」
「わかりました」
「あと、これはメンバー全員に聞いてるんですけど、白龍さんなりの新たな試みなどは考えてますか?」
「他事務所の人ともっとコラボはするべきかなぁーとは考えてます。色々企画してくれてるし、誘いも受けてたんですけど、ライブで手一杯だったから断ってたんですよね。運営さんは、そこらへんどうですか?」
「それはもう、ぜひやってください。認知度拡大は大事です」
「それで、考えてる大規模企画があるんですけど」
「はい?」
「既婚者コラボ枠。相手の惚気話を多く言えた人が優勝。どうですか?」
あたしは——無言で白龍さんを睨んだ。白龍さんは笑顔だ。
「……惚気話……なら、そうですね、炎上はしないと思いますけどね。でも、ファンがどう思いますかね? 白龍さんは最近パートナーシップを結ばれたばかりでしょうし」
「だからこそですよ。藤原さん。既婚者の配信者はいっぱいいます。男も女も呼んで、惚気を、大いに、自慢したい惚気を、言ってもらって、発表してもらって、アンチを沸かす! 新婚リスナーもついでに釣っていく。同性愛の話も、配信だったらいくらでもできる。ね? いい企画だと思うんです!」
「何話すんですか? 事と内容次第では断りますけど」
「どうして藤原さんが断るんですか? 俺は、愛しの彼女の、妻となった、ピリィちゃんの話をするだけですよ?」
「リンちゃん」
——じっと、相手を見つめる。
「何話すの?」
「……そうやってむくれて見つめてくる顔が、可愛いって話かな?」
指輪がはめられた左手に、彼女の手が重なる。
「ね? 面白そうでしょ?」
「……恥ずかしい話とかやだよ?」
「夜の話とかはしないよ? ただ、ツゥがどれだけ可愛くて、どれだけ毎日私に尽くしてくれてるか、自慢してやりたいなって思ってるだけ」
「……マシュマロ置いて、リスナーの質問に答えていく形式だと面白いかもね。上とは掛け合ってみる。多分許可されるだろうけど」
「んふふ。ありがとう」
にこにこして、あたしを見てくる彼女は——この指輪で、愛を誓い合った相手である。
「ツゥ、今日は終わるの何時?」
「19時」
「じゃあ、ご飯作って待ってる」
髪をかき分けた彼女の左手には、形は違えど、同じ宝石が埋め込まれた指輪がはめられている。
「愛してるよ。月子」
「……会社ですよ。白龍さん」
うちの会社の看板タレントグループ。Re:connect。
そのリーダー、
さらに、復縁して、パートナーシップという名の擬似結婚もしてしまって、それが半年間の出来事だったなんて、自分でも驚きだ。
(冬に向けて、これからの動きを考えておかないと。全てはグループの数字を伸ばすため。あたしのお給料を上げるため!)
「ところでツゥ、私の誕生日さ、配信の次の日じゃん? 旅行しよ? もう予約取ってるから」
「……え? 初耳なんですけど……」
「うん。今初めて言った」
「……え、どこ行くの?」
「秘密〜!」
あたしは顔をしかめた。
「二日間、有給とっておいて。仕事はなし」
「……そういうことは、早めに言っておいてよ……」
リンちゃんはいつも自分で勝手に決めてしまう。
(その行動力が、……昔から憧れていたところなんだけど……)
ああ、惚れた弱みだ。にこにこするこの笑顔が好きでたまらない。この後、……あたしの奥さんのためにも、有給申請に行かなければ。
「沢山写真撮ろうよ」
「あの……そろそろ配信部屋の写真、外しませんか?」
「え? なんで?」
「いや、だって、あの部屋行くたびに毎回自分の写真が壁一面にあるって……あの、パートナーシップも結んだことですし、そろそろ……」
「やだ」
即答。
「不安だから部屋に写真貼ってると思ってるの? それ違うからね?」
「……というと?」
「だから、いつでもツゥの顔が見られるように貼ってるの。あれないと落ち着かないし、良い配信できない」
「……」
「うん。だから、外さないし、更新してく」
にこにこする顔は可愛いのだ。本当に可愛いのだ。ただ、……最近気になってることがある。
(リンちゃんの恋愛観がちょっとよくわかんない……)
「旅行楽しみだねぇー!」
(寂しがりや……? 不安性……? 構って欲しがりや……? いや、なんだろう? 何なんだろう……なんで高校時代から知ってるのに……そういうところはいつまで経ってもわからないんだろう……)
こうして、打ち合わせの時間は終わりを迎えた。
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