第13話 ◯◯確定

 とうとう吉田君に告白してしまった。


 吉田君は、非常に驚いている。飲んでいた砂糖いっぱいに入れた紅茶を落としそうになる程に。


「小鳥遊さん、本当に? 朱音さんじゃなくて?」


「うん、わたし」


 そんなに見られると恥ずかしい。藤井君が告白した時に逃げていたのを思い出す。


 ただ、今は逃げられない。


「わたしと付き合わへん?」


 実はこれは、吉田君を試す行為。本気で告白している訳ではない。


 ——朱音は吉田君にヴァレンタインで本命チョコを渡している。その返事は勿論まだない。もしも朱音の告白に、吉田君がイエスと首を縦に振れば、2人は晴れて恋人確定。


 ただ、吉田君も男の子。


 藤井君の一件から、わたしが男に不信感を抱いているように、朱音も不信感を抱いている。吉田君がイエスと返事をしたところで、本当は双子ならどっちでも良かったのでは無いかと……。


『彩音は、吉田君のこと何とも思ってへんのやろ?』


『う、うん。けど……』


『お姉ちゃんを助けると思って、な、お願い!』


 朱音にお願いされると断れない。


『分かった』


 ——というわけで、朱音がついさっき『この間のこと、やっぱり無かったことにして』と、告白を一旦白紙に戻している。


 そして、その後……というか今だが、わたしと吉田君が2人きりになる。そこで、わたしが吉田君に告白。


 もしも、OKの返事をもらえたなら、朱音を手に入れ損ねたから、わたしに乗り換えた。クズ男確定。


 それでも朱音が良いと言えば、朱音は信頼して付き合える。


 2人とも断られたなら、元々わたし達双子には恋愛感情が無かった。ただ、それだけ。


 吉田君は、顔を真っ赤にしながら言った。


「僕も小鳥遊さんの事……前から好」


 クズ男確定。


 最後まで聞きたくなくて、わたしは立ち上がった。そして、誤魔化すように言った。


「はは……受験前に変なこと言ってごめんね。忘れて。わたしもトイレ行ってくる」


「小鳥遊さん……」


 それから、どうやって帰ったのかは覚えていない——。


◇◇◇◇


 帰宅してからは、必死に参考書に齧り付いた。何かをしていないと、吉田君のことを考えてしまうから。


 もしもあの時、吉田君の話を最後まで聞いていたなら、朱音を差し置いて、そのままわたしと付き合うことになっていたのではないだろうか。もしもあの時……。


 でも、そんなズルいことをしたら、朱音と今の関係は続けられないかもしれない。それこそ、わたしもクズ女。


 それに、姉妹の絆にヒビを入れてまで誰かと結ばれたいなんて思わない。


 これで良い。わたしは前から吉田君への気持ちに蓋をすることに決めていたのだ。それをそのまま川にでも流してしまおう。


「って、結局考えてるやん。わたし」


 パンパンと頬を叩いて、目の前の参考書に目をやる。


「大丈夫? 彩音」


 朱音も集中出来ないよう。さっきから同じページのまま進んでいない。


 そうだ。わたしなんかよりも朱音の方がショックなのに、わたしが落ち込んでどうする。わたしが朱音を励まさないと。


「お姉ちゃん。大学行ったら、もっと良い出会いがあるよ」


「そうね」


「それにさ、何でも2人で乗り越えて来たじゃん」


「そうね」


「この際、2人で生きていくのもありだよね」


「……」


 朱音が黙ってしまった。


「ごめん。わたし、慰めるの下手やね」


 すると、朱音にギュッと抱きしめられた。


「彩音」


「お姉ちゃん……泣いてんの?」


「泣いてへんし」


 顔は見えないが、朱音は多分泣いている。


 わたしも朱音の背中に手を回し、頭をポンポンと撫でる。


 いつもは、わたしが落ち込んだ時に朱音が言ってくれる言葉。今日はわたしが言ってみる。


「今日は一緒に寝る?」


「……うん」


「わたしがヨシヨシしてあげるな」


「今日は彩音がお姉ちゃんやな」


「あ、魔法の本読んだろか? あれ、ほんますぐ眠れんねん」


 魔法の本を勧めれば、朱音に苦笑された。


「遠慮しとくわ。せっかく良い感じやったのに台無しや」


「台無し……?」


「うん、台無し」


 良く分からないが、朱音は知らない人からもらった本は読みたくないのだろう。


「明日、大事な受験やから。もう寝よか」


「せやね」


 こういう時、双子の姉妹で良かったと思う。一人だと中々立ち直れそうにない。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ご機嫌よう、七彩 陽です。

今朝、恋愛の週間ランキングが75位だと通知がきて驚きました!

これも皆様のおかげです。

ありがとうございます(*´꒳`*)

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