第12話 宝石

 その後、わたしたちはゲームセンター内をまわり、真矢ちゃんに教えてもらいながらゲームを楽しんだ。

 両替した100円玉を使って、シューティングゲームでゾンビを倒したり、レースゲームで対戦したり、リズムゲームで太鼓を叩いたり……。


 どのゲームも真矢ちゃんは上手で、よく学校サボって来るのかな〜なんて思った。さっきのクレーンゲームも1回で取ってしまったらしいし。

 彼女の新たな特技を見つけて、なんだか嬉しい気持ちだ。昔の真矢ちゃんはわたしのすることを一緒にやるという感じだったから、真矢ちゃんが自分のやりたいことをやっているのは喜ばしい。

 なんて思いながら真矢ちゃんを見ていたら、「何ニヤニヤしてんの」と気持ち悪がられちゃったけど。


 そんな感じでゲームセンターを満喫して、そうしたらちょうど昼時でお腹も減ってきたので、カフェに入って食事をした。

 時間帯も時間帯なので人は多かったけれど、待ち時間無しで席に座ることができた。そこでわたしはタマゴサンド、真矢ちゃんはペペロンチーノを食べ、のんびりお昼を過ごす。

 休日に外食するのは家族とはあっても、友人と2人でというのはあまりなかったから新鮮だった。


 食べ終わったあとは、また2人で行き先も考えずにぶらぶらと町を歩く。

 真矢ちゃんに「さっきはあたしの行きたいとこに入ったから、次はあんたが決めたとこに入る」なんて言われたので、今度はわたしが気になった場所に入ることになった。


 それでわたしたちが入ったのは、キラキラと色とりどりに光る宝石が、ネックレスやブレスレットになって並んでいるお店だった。



「……こういうの好きなの?」


 そう言って近くにあったエメラルドのネックレスを手に取り、尋ねてくる真矢ちゃん。わたしは首を縦に振りながら返事する。


「うん。こういうの眺めてるだけで楽しい」

「そういうもんかしら」


 そう呟いてからネックレスを戻し、店内を物色し始めた。わたしは彼女が見ていたそれを眺める。


 わたしたちが足を運んだのは、ジュエリーアクセのお店だった。お母さんがよくそういうのを集めていて、母の部屋にある、小さなショーケースに並ぶそれを眺めるのが好きだった。だから自然と、このお店に目がいったのかもしれない。


 ちらりと真矢ちゃんが見ていたエメラルドのネックレスと、横に並んでいたピンクトルマリンのネックレスを手に取ってみた。周りにも細かい宝石が散りばめられているペンダントで、宝石の色合いも相まってとても可愛らしい。

 そういえばこのエメラルド、真矢ちゃんの目の色に似てるなぁ。彼女の目の色は透明度の高い綺麗な緑色で、このエメラルドよりも綺麗な色だと思う。でも当然、こちらも綺麗だ。


 彼女の目の色も、彼女の体内に流れるヒョウの血からきている。ヒョウの目の色は結構色々あるらしく、黄色かったり青かったりもするらしい。

 もちろん獣人種ではないわたしは普通に黒いんだけどね。獣人種は見た目に個性が出やすい。こういうところは羨ましいなと少し思うけれど、真矢ちゃんはどう思っているんだろう。


 だいぶ前だと獣人種は危険で野蛮だなんて言う人もいたらしいし、実際真矢ちゃんは……その……暴力的なところがある、けど。


 今ではそんなことを口にした人の方が、批難を受けることの多い時代だ。だけどまだそういう考えを持っている人はいるのかなぁ。いるんだろうなぁ。

 最近獣人種の人が自分の能力を使って犯罪を犯す事件が、ニュースで取り上げられていることが増えた気もする。もしくは獣人種の人を利用して、普通の人間が犯罪を犯させる、なんてこともあるらしい。そういうニュースが流れるたび、獣人種を非難するコメントや空気ができてしまったりする。


 なんでそんなことするんだろう……。獣人種がみんな悪い人ではないのに。

 袋井さんのように優しい人も、竹田さんのような人も、みんな獣人種であるかないかなんて関係ないのに。


 ――――って、そんな暗いこと考えてても仕方ない。

 そう思って、手に取ったネックレスの値札を、なんとなく見てみる。


 ええっと、値段は、いち、じゅう、ひゃく、せん、まん…………

 …………うん。知ってた。わたしに買える額ではない。


「お客様、どうでしょうか? このネックレス」

「ふぇ!?」


 わたしが値札の額を見て目を回している時に、店員さんに声をかけられてしまった。外出することが少ないせいか、知らない人に声をかけられるのはドキドキする。


「それ、人気の商品なんですよ。この店では比較的安くてお手に取りやすい――」


 話しかけてきてくれたのは年上のお姉さんだった。胸元にはこのネックレスに似たものを下げている。宝石は濃い紫色に輝いていたから、アメジストかな。

 って、これでもこのお店では安い方なんだ……わたしにはまだ早い場所だったか……。


「す、すみません。わたし今日全然お金持ってきてなくって……」


 そう言葉尻を窄ませながら言うわたしに、店員さんはにっこり笑って


「そうですか! でしたらまた来て下さった時に、ぜひ!」


 と言ってくれた。咄嗟に出てきてしまった言葉に、「お金ないんだったら来んじゃねー!」なんて顔されると思ったけれど、優しい人で良かった……!

 その後、店員のお姉さんは頭を下げてから、別のお客さんに声をかけに行ったようだ。


「ハム子」

「あ、真矢ちゃん」

「どうすんの? それ買う?」


 店員さんと入れ違いのような感じで、今度は真矢ちゃんが声をかけてきた。わたしは苦笑いして首を横に振る。


「ううん。わたしに買える額じゃなかったから」

「ふーん……」


 そう言い横目でちらりと、わたしが元に戻したネックレスを見る。そしてくるりと背を向けた。顔だけ振り返ってわたしを見る。


「んじゃもう出る?」

「そうだね……じゃあ次は真矢ちゃんの行きたいところに――」


 そうわたしが提案しかけた、その時――――








「――――動くなッッ!!」

 その怒号とともに、先ほどの店員さんの短い悲鳴が、店内に響いた。

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