ひといちみしい。

うちべこ

1人目

 どうしてこんなめに。

 私は今、とある民家のトイレの中でガタガタと震えている。

 もちろん用を足す為ではない。隠れているのだ。化け物から。

 口から溢れそうになる声を必死に抑えながら、震えで軋む床の音を止めるために身体に力をこめる。

 これはきっと悪い夢だと言い聞かせながら、私は記憶を遡った。


 きっかけは本当に些細な事だった。

 友人からとある都市伝説を聞いたのだ。どうやら私の住む地域に、いわくつきの民家があるらしい。しかし詳しい場所までは分からなかった。どうしても気になった私はその場所を調べる事にした。そしてとうとう、民家の場所を特定するに至った。

 その時ホラーにどっぷりハマっていた私は好奇心に勝てるはずもなく、1人民家へと赴いたのだ。

 そしてあの化け物と出会い、今に至る。


 ちくしょう。

 ホラーにハマってなかったら、調査なんかしなければ、こんな事にはならなかったかもしれない。

 まさかこんな事になるなんて。

 誰か教えといてくれよ。


 ブブッ


 後悔に苛まれていた時、私のスマホから通知音が鳴った。

 マナーモードにするのを忘れていた。

 最悪だ。

 慌ててスマホの画面をみる。

 友人からの連絡だった。


「起きてるか?」


 そう一言。

 そういえば友人とゲームをする約束をしていた。

 画面の左上を見る、とっくに約束の時間は過ぎている。

 ふざけるな。

 ゲームなんかしてる場合じゃないんだ!

 画面を睨んでいると、今度は漫画アプリからの通知。


 そうだ、今日は好きな漫画の更新日だっけ。

 いい所で終わってたんだ。


 とりためたアニメも観なきゃ。

 仕事も中途半端に投げ出したままだし…。

 あれもこれも、やりたい事がどんどん思い浮かぶ。


 こんな所で死んでいられない。

 まだやり残した事が山ほどある。

 気がつけば震えは消えていた。

 必ずここから出る。

 そんな強い思いが私の脳内を駆け巡り、勇気に変わっていく。


 取り敢えずトイレから出よう、ここでうずくまっていても何も変わらない。

 化け物と出会ったら...ぶん殴ってやる!

 意を決し、私はドアに手をかけようとして











 目があった



 扉の隙間からこちらを覗いていた目と



 ゆっくりとドアが開く

 軋む音が耳を刺す

 震えが止まらない




 最悪だ

 どうしてこんなめに






 最悪だ



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