【BL】騎士は敵国を退けた褒美を乞う
椎葉たき
上
ああ、恋しい。
長く王都を離れ、野営ばかりだったから恋しくて恋しくてたまらない。
柔らかい肌触り、温かく包み込んで極上の安心感を与えてくれる――布団。
「この度の戦、大儀であった。マイアス卿の活躍は聞いている」
王宮の謁見の間、国の重鎮たちに囲まれ国王陛下の賛辞を聞きながら頭の中では布団のことを考えているなんて誰も知る由がない。
「天下無双、実にあっぱれ」
「騎士として当然の働きをしたまで」
レイバー・マイアスは国王陛下の前に膝を付いたまま、布団の事しか考えていないのを隠し、殊勝に答えた。
「此度の目覚ましい働きに、褒美を取らせよう。報酬とクラヴェル伯爵位を授ける。騎士団にも報酬と休暇をやろう」
「はっ。謹んでお受け致します」
実家はマイアス公爵家であるが、三男坊で家を継ぐ立場にない。騎士団を率いるのだし、濃く陛下に天下無双とまで言わしめた実績がある、レイバーはクラヴェル伯爵を名乗ることとなった。
「うむ。しかし、卿の活躍にはつまらない報酬だ。他に欲しいものはないか」
国王は終始上機嫌だ。
攻めてきた隣国を退け国を守り抜いた男、レイバーは答えに窮する。
こだわりの布団は元より最高級のものを既に揃え愛用している。
休むことも訓練だと寝具にこだわり始めたのが切っ掛けだった。布団が恋人と言っても、出不精でも体を鍛えるのが億劫でも寝穢いでもない。一日の終わり、眠りに落ちる最高の安心感と開放感を与えてくれる瞬間に快感を覚えるだけで。
長い遠征から帰ってきた後に潜り込む布団は、最高に気持ちいい。布団を恋しく思っただけ、満たされた瞬間は何にも代えがたい。
労働の後の布団が好きなので、休みが欲しいでも寝具が欲しいでもない。
チラリと重鎮の最前列に居る金髪の美丈夫を見やる。二八歳というのに、線が細く十代だと言われても納得してしまいそうな容姿をしていた。
目が合い、ニコリと微笑まれた。
――欲しいものがないでもないが、口にするのは憚れる。
「これ以上の褒美は私には勿体ない」
「遠慮するでない」
「……直ぐには思い付きません」
「なら、五日間猶予を与えよう。さて、二日後、夜会にて戦勝祝賀パーティーを行う。それまで、しっかり体を休めるといい」
どうにも褒美を貰わなければ国王陛下の気がすまないらしい。
王宮から騎士団へと帰った後も仕事が山積みだが、詳細な報告書は後日作成する事になった。凱旋後の休暇は予測してスケジュールを立てていたし、頂いた報酬の振り分け、戦死した騎士たちの遺族給与金やら、会計士に任せてある。というか、団長が休んでくれなきゃ自分たちが休めない、と部下たちに泣きつかれた。
「布団が恋人なんでしょ。とっとと恋人に会いに行って下さい」
前に、恋人を作らないのかという部下に冗談で言ったそれが今さら返ってきた。そこまで言われては、さっさと自室に帰る以外なかった。
久しぶりの布団の感触に、帰ってきた安心感と共に体が疲れを思い出し、あっという間に眠りに落ちた。
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