後章(後編)
数週間後の午後、喫茶店のドアベルが鳴った。
「悠人さん!」
いつものようにカウンター席に座ると、陽菜は胸の前で封筒をぎゅっと握りしめた。
「ついに、結果が届きました」
悠人はカップを置き、彼女の様子をじっと見た。
「開けなくていいのか?」
「開けます。でも、ちょっと怖いです」
陽菜は苦笑しながら、震える指先で封を切った。
悠人は彼女の表情を見守る。
——そして、次の瞬間。
「……受かった」
陽菜の小さな声が、店内に響いた。
「私、受かりました……!」
手紙を握りしめたまま、陽菜は顔を上げる。
その瞳には、涙が滲んでいた。
「おめでとう」
悠人は静かに微笑んだ。
「やったな」
陽菜はぐっと唇を噛み締めた後、大きく息を吐いた。
「はい!」
その声は、今までで一番力強く、晴れやかだった。
「悠人さんの方は?」
陽菜が尋ねると、悠人は苦笑しながら、自分の封筒を取り出した。
「俺も……まあ、開けてみるか」
封を開けて、手紙を広げる。
そして、静かに目を通した。
『今回は見送りとさせていただきます』
悠人は小さく息を吐いた。
「……まあ、そんな簡単にはいかないか」
陽菜が心配そうに顔を覗き込む。
「悠人さん……」
「大丈夫だよ」
悠人は、封筒を机の上に置きながら、静かに言った。
「次があるさ」
その言葉は、不思議とすんなりと出てきた。
昔の自分なら、落ちたことでまた諦めていたかもしれない。
けれど、今は違った。
「俺は、もう一本書くよ。次こそ、もっと納得のいくものをな」
陽菜はしばらく悠人の顔を見つめ、それからぱっと笑った。
「悠人さんなら、絶対にいけます!」
「根拠は?」
「そんなの、必要ないですよ!」
陽菜は無邪気に笑った。
「悠人さんは書くのが好きなんです。それなら、続ければいいんです」
悠人は少し驚いたように陽菜を見た。
——書くのが好きだから、続ける。
シンプルな言葉なのに、それが今の自分には、すごくしっくりときた。
「……そうだな」
悠人はコーヒーカップを手に取り、陽菜と視線を交わす。
「じゃあ、また一緒に頑張るか」
「はい!」
二人は、カップを軽く掲げるようにして、小さく乾杯をした。
陽菜は、新しい世界へ踏み出した。
悠人もまた、自分の歩幅で前に進み続ける。
それぞれ違う道を行くけれど、同じ空の下で——。
喫茶店の窓の外には、春の陽射しが穏やかに降り注いでいた。
そして、その温もりは、どこかでまた交わるような気がした。
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