異世界へ五人の落ち人~聖女候補とされてしまいます~
かずき りり
第一章
第1話
……闘技場?
見える風景から最初に思ったのは、そんな事だった。
荒れた土。その周囲を囲むように観客席のようなものが円状に組まれており、そこには大勢の人が居てこちらを見ていた。
「贈り人が現れた!」
正面にある一際豪華な場所から声があがる。
それと同時に回りの人達も身を乗り出してこちらを見ているのだけれど……全てが異様だった。
石造りの建物。周囲の人達が来ているのはドレスや襟のあるコートのようなものだけれど、現代で着られているようなものではない。
そう……言ってしまえば中世時代のとある国だ。
「何が……」
ぽそりと呟きながら、私は自分の身に起こった事を思い起こす。
――バシンッ!
耳元で鳴った大きな音と痺れるような痛みで、自分の頬が平手打ちされたのだと気づく。
咄嗟の事に対しては、脳が追い付かないのか、一瞬理解が遅れるというのはこういう事か。
あまりの事に対して妙に冷静な自分が、目の前に居る相手へとゆっくり視線を向けた。
「瑞希、いい加減にしてよ!」
目に涙を浮かべて私を睨みつけているのは、親友である榎本理沙だ。
「瑞希が辛いのは知ってる。悲しみが早々癒えないのだってわかるよ!? でも、一緒に居ても全く笑ってもらえない私の気持ちも分かる!? 少しは前を向いてよ! ネガティブすぎるよ!」
「……」
理沙の悲痛な叫びに、私は返す言葉が見つからない。
全ては事実で、前からずっと言われていた事でもあるからだ。
今日も放課後に中庭へ呼び出された時から、この話ではあると思ってはいたけれど……まさかの平手打ちから始まるとは予想外だった。
私はそこまで理沙を怒らせていたのか。
「心配で仕方ないのに……」
消え入るような声で言う理沙に、私の心は罪悪感で痛む。
心配からくる怒り。それはどれだけ私の事を考え思ってくれていたのだろう。
だけれど、どうしても……心の傷はまだ癒えないのだ。
「もう瑞希なんて知らない!」
理沙は溢れている涙を拭う事もなく、背を向けて駆けて行く。
私が変わらないと関係回復なんて難しいのは分かっている。もう呆れられたのだろう。
私から離れた方が良いのではないかと心のどこかで思うものの、悲しんでいる理沙をこのまま放っておく事も出来ない。
――ただ一人残された、私の大事な人だからだ。
「理沙っ」
遠のいて行く親友を追いかけようと、声をかけて一歩踏み出した瞬間だった。
いきなり浮遊感が起こり、私は落下するような感覚にただ身を任せるしかなかった。
「……瑞希……?」
理沙の声がかすかに耳へと届く中、私の視界は急に闇へと飲まれた。
頬に走る痛みから、夢ではない事と、私は確かに先ほどまで理沙と一緒に居たのだと理解はする。
理解はするけれど……ここはどこ?
周囲を見渡せば、ふと近くに私と同じように戸惑っている人が四人居た。
「異世界からレキソングス国へようこそ。我は国王のアルフレッド・レキソルスという」
金の短髪に碧眼、厳しい目つきに威圧感のある男性が言葉を放った。
国王!?
つまりは国のトップという事なのはわかるけれど、全くもって馴染みがない。
というか、異世界とは?
「私は枢機卿のソウラと申します。いきなりの事で驚かれていらっしゃるでしょうが、皆さま方の生活は神殿の方で保証させて頂きますのでご安心下さい。」
今度は肩まであるシルバーアッシュの髪をひとつに束ね、赤い瞳の穏やかな顔をした、白い神官のような服を着た人が声をかけてきた。
またも馴染みのない言葉だ。
宗教的なものという事だけは分かっているけれど、それがこの世界でどういった立ち位置にあるのか全くもって分からない。
だって、異世界と言ったのだ。
今まで持っていた常識や知識が通用するなんて思えない。
「衣食住にかかる費用は国が持つ。ただ……その贈り人としての力を国へ貢献してもらいたい。あとで護衛も付けよう」
何か変な条件が付けられた。
そしてまた新しい言葉が出て来た。
てか護衛って何……。SPみたいなものを想像するけれど、そんなのは国の偉い人にだけだろう。一般市民であった私には映画の中でしか見た事のないような存在だ。
もうお腹いっぱい……いや、脳がいっぱいだ。情報過多すぎる。
だけれど周囲を囲っている人々は、わっと歓声の声を上げた。
「国の繁栄だ!」
「聖女様が誕生される!」
「安泰な国の世になるぞ!」
国王に枢機卿とくれば、囲っている煌びやかな衣装を着ている群衆は、いわゆる貴族というものなのか。
まさに見世物状態な現状に、頭が痛くなってきた。
こんな風に晒される事なんて、たった16年しか生きていない小娘な私の経験にはない。というか、一生経験する事ではないのだろうか?
思わず半歩後ずさった時、同じ年くらいで、襟足長めの金髪に碧眼をした綺麗な顔立ちの男性がこちらに向かってきた。
「俺はレイモンド・レキソルス。王太子だ。良ければ名前を聞いても?」
歩み寄るような言葉だが、とても上から目線だ。
王太子という身分から考えれば当然なのかもしれない。
名前を名乗るべきなのだろう。けれどどこか疑心暗鬼な自分が居る。
どうしようかと思っていれば、誰かがスッと前へ出た。
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