14 馬車の中で魔力充填


 辺境領ネシェル・ラムに入ると、アガット教官の婚約者でエドモンの従兄ヴァランだと紹介された大男が、アガット教官を迎えに来た。アガット教官が馬車を降りると、どういうわけか私の両隣にエドモンとジョゼフが来て、広い馬車の中、大男二人に挟まれて座席に座ることになった。


「よし、メイ。魔力の交換をして相性をよくしておこう」

「そうだな、こうやって手の平を合わせるんだ」

 エドモンが言い出して、ジョゼフが私の手を取って指を組んで手を繋いだ。エドモンも反対側の手を掴んで指を絡める。


 ちょっと待って、これは恋人繋ぎとかいうヤツではないだろうか。私を真ん中にしてイケメン貴族令息二人と恋人繋ぎ。何と贅沢な……、って、そうじゃなくて。


「ええと、あの……」

 何と言えばいいのか言葉を探していると、さらに私の手を二人は両手でしっかりと握った。

「えっ、あの、あの……」


「よし、これで魔力交換をするんだ」

「魔力を交換して相性を高めておけば、戦闘の際、非常に有利になる」

「魔力が高まるし、使った魔法の威力も上がる、後はこうして魔力の回復も図れる。いいことばかりだ」

「はあ」

「まずメイから私たちに魔力を充填の要領で流し込むのだ」

「はい」


 こういう場合どっちが先とかにならない方がいいだろうなと、私は余計なことを忖度してしまうのだ。

 それで、一生懸命、二人に同時に充填することに集中した。


 人の身体というものは、外敵がたやすく侵入できないように、薄い保護膜が幾重にも張り巡らされているのだ。魔力を持つ者は更に魔力の防御膜がそれを覆う。魔法の攻撃に対して魔力を持つ者は耐性が高い。同じ属性の攻撃に対しては更に防御効果が高い。

 それがお互いに魔力を充填することによって、魔力の道というものが通じてしまう。


「確かに受け取った」

「メイの魔力は可愛い」

「俺たちも行くぞ」

「いいか、魔力を流すぞ」

「はい」

 エドモンの言葉を合図に、二人の魔力が同時に私の身体の中に流れて来た。


 ジョゼフの手のひらから熱い何かが流れてくる。これは魔力だ、充填装置に流すのと同じだ。しかし、自分の魔力ではないし相手は大男だ、体温と同じように熱くて力強い。それが私の魔力を押し包み、飲み込むように流れてくる。

「ひゃあ」

 思わず声が漏れる。


 エドモンも魔力を流してくる。熱い熱い魔力が斬り従え征服するように入ってくる。

「はふう」

 二人の力強い魔力が手からどんどん身体の方に伸びてくる。二人の熱に当てられて私の身体まで熱くなってくる。

「色っぽいな」

「なかなか」


 二人の魔力と私の魔力が身体の中で混ざり合っている。身体の中からポッポと熱くなって何だか怖い。

「あの……、身体が熱くなって」

「最初はそういうものだ」

「大丈夫だ。こうやって握っていてやるから」

「はあ……」


 私の身体の中で何が起きているのか、熱い何かがぐるぐるぐるぐると回っている。私は二人の手にしがみ付く。

「よしよし、いい子だ」

「こうやって混じり合って融け合うんだ」

 混じり合って解け合って……、何だか侵されている感じ。


「どうだメイ。こうやって混じり合って、溶け合って、気持ちよくなって、お互いの相性を高めるのだ」

「相性が良くなる……?」

「そう、魔力交換の第一歩は相性をよくする為に行う。私たちはどんどん相性が良くなっている。すぐに相性抜群になるぞ」

「メイはもうちょっとリラックスした方がいいぞ」

「身体の力を抜いて、すべてを受け入れるのだ」

「気持ちを楽にしてー」

「……はい」

「そうそう、いい感じだ」


 相性抜群になったらどうなるんだろう。どこに行くんだろう。

 だが私は段々気持ちがよくなってきて眠くなってきた。二人の大男に挟まれてくったりと眠ってしまった。



 相次ぐ戦闘で疲れたのか、長旅の疲れが出たのか、何でどうしてこうなったのか。目が覚めると二人の大男が私の肩を枕に眠っていた。手は眠ってしまう前と同じで、二人と恋人繋ぎのままだ。


 繋いだ手をどうしようとか、起こさない方がいいかとか思っていたら、二人とも目を覚ました。


「いい所ですっかり眠ってしまったな」

「仕方がないな、私たちもメイに引きずられるからな」

 エドモンとジョゼフは私の手を握ったまま口元に持って行く。そしてそれぞれの持った手にキスをした。


 驚いて目を真ん丸にしたけれど、私の手は二人に握られたままだ。二人の男はにっこりと笑う。

「メイは俺たちのどっちがいいんだ」

「は?」

「私たちのどちらかを選べというのが酷なら選ばなくてもよい」

「違うぞ、その言い方だと語弊がある。どっちも選ぶという選択肢がある」

「辺境の奴らはメイを俺たちの嫁にしたいんだ」

「お前なら魔力が多いし二人いけるよな」

「どっちにどうこうって分け隔てしていないしな」

「ええと、何を言っているのか」


「つまり、俺たちのどちらかの嫁になるか」

「私たち二人の嫁になるか」

「二つに一つ、いや三つに一つか」

「言っていることが分からない。私に選択権はあるの」

「もちろんだ。しかしメイの性格からして一択だろうな」

「そうだな、一択だな」

「そういうわけで向こうに着いたらすぐ結婚式だ」

「えええ、私は魔力充填係に──」

「もちろん俺たちに充填してくれ」

「私たちはメイの為に頑張って働くぞ」


 これはプロポーズなのだろうか。イケメンのお貴族様の旦那様が一度に二人もできた。何でこうなった。

 ここまでの旅で何か特別なことがあっただろうか。いや何もない。魔物に襲われたり、野盗に襲われたり、魔獣に襲われたり。大概怖い目にあった。ロマンチックなんか一つもなかった。


 ただ、二人のプロポーズに私の心は喜ぶのだけれどコレはどうしてだろう。こんなに不安で一杯なのに。

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