12 辺境に着く前に


 土人形は4体。そこに私の深謀遠慮があるわけではない。だが4体目を作った時にふと魔が差したのだ。これ5体目は私で合体したら彼らが私の鎧になって──。


「ふっふっふ……」

 試してみる価値はある。やってやろうじゃん。この際私が一般人でちんちくりんのチンクシャだろうが構いはしない。だってひとりの馬車の中だもん。


「行くわよ、ぼんちゃん、ぬいちゃん、ふわちゃん、ぶいちゃん」

『ぽ!』

『ぺ!』

『ぷ!』

『ぴ!』

「ぱーーー‼ ぱぴぷぺぽ戦隊合体ーーー‼」


 両手を広げた私の身体に土人形たちがビタンビタンと貼り付く。しかし、何となく不格好になった。着ているTシャツやジーンズの形を拾っている所為だろうか。ぴったりと貼り付いていなくて隙間がある。


「解除」

 私の身体からころころと落ちる土人形たち。

「うーん、下着になったらいいかしら」

 馬車の外を確認する。誰もいない。もしもの為に馬車のカーテンを下ろして、よし、サササとTシャツとジーンズを脱ぐ。


「もう一度行くわよー。ぱぴぷぺぽ戦隊合体ーーー‼」

 両手を開いた私の身体に土人形たちが貼り付く。

「じゃーん」

 なんかいい感じに鎧っぽくなった。重さも軽いし動きやすい。


 そんな時におあつらえ向きに魔獣が襲い掛かって来たのだ。イノシシ型魔獣だが、背中に縞模様のあるうり坊を何匹か連れている。親イノシシが馬車よりも数倍大きく、うり坊も馬より大きい。


(わーーん! おあつらえ向きとか思ってごめんなさい。イノシシさん、一家で来ないでください)


 私は馬車の中で震えた。親イノシシが足で地面を蹴って戦闘態勢を整える。あんなのが突進してきたら、このガタガタの馬車は一撃で木っ端微塵になる。


 まだ迎えに来るはずの辺境騎士団は来ない。

 ドッドッドッドと地面を蹴っていた親イノシシがスタートダッシュして巨体で突進してくる。


(怖い、速い、ヤバイ‼)

 突進してきた親イノシシを見たらパニックに陥って、もうどうしていいか分からない。

(来る、来る、来る)


 しかし、馬車のすぐ横に勢いよく氷魔法の壁がドシュドシュと突き刺さって、イノシシは氷に体当たりして滑って逸れて行った。エドモンとジョゼフはそちらに向かった。

 氷の所為で少し頭が冷えた。


 大きな親イノシシは行ってしまった。しかし、後からうり坊たちがドッドッドと土を蹴って突進してくる。

 これは悠長に馬車の中で観戦している場合ではない。及ばずながら私も戦わねば。何のための合体なのか。


 そういうわけで私も馬車の外に飛び出た。しかし、手ぶらであった。戦ったことがない私は武器も何も持っていない。剣も槍もないし盾もない。持っていても使い方も知らないが。我ながらあまりの迂闊さ加減に落ち込みたくなる。


 無謀にも馬車の外に出た私を見たアガット教官が、

「何という格好を──、いや、とにかくストーンバレットだ」

 と指示を出す。


「はい。えーと、石、勢い、まっすぐ飛べ、ストーンバレット」

 アガット教官の適切な指示に従って、石の礫をうり坊に向かって撃つ。

 ポーン、ポーンとピッチングマシンのように石が飛んで行く。

「もっと早く」


「はい、石、勢い、まっすぐ、どんどん飛べ!」

 バババババ……!


 今度は自動小銃のように石が飛んで行く。ちょっと爽快かも。勢いで照準がずれそうになるが、鎧が補佐してくれて勝手に照準が合う。土人形たちが照準を合わせてくれている。

 しかし、さらにアガット教官の指示が出る。

「もっと強く! 石を大きくしろ!」

「はい!」

「石、飛んで」

 人使いの荒い教官に返事をして必死にサイズと強さを調整する。

(こっちに来るなー、うり坊‼)


 その時、ズシン……、と大地が揺れて土煙が舞った。

 大イノシシがエドモンとジョゼフの手に寄って倒されたのだ。すぐにこちらに向かってくる二人。私のストーンバレットでうり坊は足止めを食らい、エドモンとジョゼフの剣の餌食になった。


「無事か、メイ」

「危ないことはするな」

 二人が口々に心配する。

「大丈夫です!」と、意気揚々と手を上げたら、身に着けていた土人形たちが、急にぼとぼとと落ちて地面に転がった。


「きゃあああああ!」

(なにすんのよ、何でここでっ!)


 悲鳴を上げる下着姿の私。エドモンとジョゼフが目を剝く。すぐ側まで来ていたジョゼフが慌てて私を抱え込んで馬車に放り込んだ。馬車の中で私は急いでジーンズとTシャツを着たのだった。



 着替えて馬車の外に出ると、土人形はまだころころとその場に転がっている。

『ぽ……』

 面目なさそうに4体一緒に頭を下げる。

『ぽま』

『ぺり』

『ぷよ』

『ぴく』

 何だろう、この謎々みたいな言葉は。

「魔力不足じゃないか?」

「そのようだな」


 生みの親の私より彼らの方が理解している。ショックだ。そんな基本的なことも分からないなんて、親失格だわ。大体魔力充填が私の本来の仕事なのに何をやっているんだ。私は4体を抱き上げて魔力を充填しながら「ごめんね」と謝った。


 大イノシシやうり坊の死体がそのまま残っている。それをジョゼフが持っている皮袋に仕舞う。魔獣の巨体があっという間に袋の中に消える。

「その袋は魔道具ですか?」

「そうだ。倉庫一個分だ」

「ジョゼフが作ったんだが、非常に高価なんだ」

「素材がないからもう出来んがな」

「そうなんですか」

「異界人も似たようなものを持っている者がいると聞いた」

「私のは身体の中にあるんです。それに10枠しかありません」

「そうか、倉庫一個で一枠だといいな」

 そして二人は笑う。私はその辺り一帯をジャバジャバと水で流して綺麗にする。土人形は私の頭や肩に乗っかって見ていた。

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