パンパカパーン! で始まった私の異世界ライフ

綾南みか

01 一般人ですが異世界に行きました


 パンパカパーン!


「おめでとうございます! あなたはこの度、この惑星における異世界難民救済措置の難民に認定され転移者に選ばれました」


 突然のファンファーレに続いて、まるで詐欺メールのような勧誘セリフが目の前にある巨大なモニターのような画面から流れた。



 モニターに中世か近世かの北欧風の景色が広がる。そこで生活している人々が映し出される。道には石畳が敷き詰められ馬車が行き交い、お城や大聖堂の尖塔が聳える。

 一転して屋内の画面に変わると、光り輝くシャンデリアがずらりと下がり、赤い絨毯が敷き詰められた王宮らしき建物の大広間では、レースやフリルがたっぷりの豪華なドレスを纏った貴婦人が、これまたレースたっぷり刺繍たっぷりの華美な服を着た貴族らしき男性と優雅に談笑している。


「私どもはあなたに、こちらの世界で楽しく暮らしていただける為の様々な場所をご用意しております。本日は最初のプレゼンということで、そちらの世界でもよくご存じの冒険者としての生活をご案内いたします」


 その言葉が終わると同時に、私はいきなり巨大なモニターに吸い込まれた。返事をする間もない。




 気が付くと夜の町にいた。広場には篝火が赤々と焚かれ、武装した者が集まっている。まるで何かのファンタジー映画の中にいるようだ。


「魔物の襲撃だぞー」という声に呼応するかのように、町を囲う石壁と門に群がって押し寄せてくる魔物たちが見えた。剣や杖を持って対応する人々。弓矢が飛び交い魔法の火炎や雷撃が魔物に浴びせられる。剣を持って戦う人々、飛び散る血。


「あんたも、戦ってくれ」

「え」


 まるで本物とも思えないで突っ立っていた私は、いきなり魔獣の前に押し出された。牙を剥いて襲い掛かる恐ろし気な魔獣。

「ぎゃあああーーー!」



 恐ろしさに喚いて頭を抱えていると元のモニターの前に戻っていた。

「いかかでございました?」とモニターから平然とした声が聞く。

「いや、怖いんですが、これ死んだらどうなるの?」

「もちろん、ハイそれまでヨ、でございます」

 死ぬんかい。



 夢はそこで覚めた。


 はあ、怖かった。まだ胸がドキドキしている。ああ、夢でよかった。あんな怖い所、冗談じゃないわ。



  ◇◇


 世の中は戦争があったり、地震があったり、山火事があったり、人災と災害がこれでもかと押し寄せて来ているのに、逃げることもできないで自分の番をただ待っている。どうせ逃げられないという諦めの境地で生きていた。


 仕事は事務作業で、生きるのにカツカツで何の夢も希望もない。



 夢は次の日も異世界を案内してくれた。


 冒険者になって魔物と戦ったり、思わぬスキルを授かって成り上がったり、お姫様になって王子様と結婚したり、学園に通ってヒロインになってハーレムを作ったり。



 それは何回目の夢だったろうか。

 丸メガネをかけた事務員風の男性がモニターの中に現れて、どうなさいますかと聞くのだ。夢だけれど段階を追っていて、まるで現実にある商品を売っている感じだ。

 私は怖くなった。本当にこれは夢なのだろうか。迷う気持ちもあって一日待ってもらうことにした。



 私の名前は安田芽衣。母子家庭に生まれ母はもういない。容姿はごく普通で、身体能力も普通、頭も普通の出来だった。

 こんな平凡を絵に描いたような私が異世界に行って何ができるというのだ。中身がこんな役立たずでは一秒も持たずに終わってしまいそうだ。


 次の夢で事務員風の男に「私は何の能力もないです」と告げた。

「そういう方も偶におられます。そんな方には異世界モフモフとか、のんびりとか、ゴロゴロとか、何もしない選択肢もございますよ」


 これは悪魔の誘惑だろうか。

 モフモフしてゴロゴロしてのんびりしたい。しかし私は小心者なので、それでは申し訳ないと思うのだ。


「いえ、私のようなものでも仕事があれば――」

 そう、働いて自分ひとり養っていければ異世界でも生きてゆけるような気がする。

「ございますとも!」

 事務員風男はメガネの向こうの目を三日月型ににんやりと笑ませて書類を取り出した。

「こことここにサインをお願いしますね」

 ああ、とうとう契約してしまった。



  ◇◇


 夢はそこで覚めた。私はまだひとりぼっちのアパートにいた。

 異世界になんか行っていない。現実は変わらない。今日も熱波が押し寄せて暑いんだろうな。溜息を吐いて会社に行く支度をする。


 その日も、いつものように仕事をしていつものように仕事を終えた。

 いつもの道を帰る。




 路地裏で猫が鳴いているような気がして、そちらに一歩踏み出したら、異世界に行っていたなんて、あまりにも安易ではないだろうか。


 目の前に石畳の道が広がり、馬車が走り、長いスカートの女性連れ、軍服を着た騎士らしき連れや、商人らしき上着にべストにタイの男性連れ、繁華街の通りらしいが、喋っている言葉もお店の看板も知らない言葉なのに分かるというのは【異世界共通言語】として契約書にあったような気がする。


 どうしようと真っ青になったが、異様な風体で固まっている私を通りすがりの巡回中の騎士らしき連れが、役所に連れて行ってくれた。


 あまりに都合よすぎて、逆に不安になったが「大丈夫、大丈夫」と騎士たちに笑顔で宥められる。頭をポンポンとされたので、子供と間違われたのだろうか。私は化粧も薄いしジーンズにパーカー姿で、この歳で中学生に間違われるほど童顔だ。

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