第53話 抱きしめれば愛
第五十三話 抱きしめれば愛
護が出社の時間になり、玄関の鍵を閉める。
「いってらっしゃい。 護……」 アメノウズメが護に抱きつく。 身体に体温を感じるくらいに強く抱きしめた。
護は顔を赤くし、恥ずかしそうに出社していくとアメノウズメは手を振って見送った。
護は電車に乗り、アパートでアメノウズメに貰ったメモを見ると、
(何? これは文字?)
アメノウズメが書いたメモは『夕方、尊神社に来て』と書いたはずなのだが、現代の文字を知らずに古代の文字で書いてしまったのだ。
「まったく読めない…… 落書きか……」 護はメモをポケットにしまった。
アメノウズメは急いで尊神社に向かう。
着くなり大声で叫んだ。
「おーい、オリガミ~」 オリガミが振り向くとアメノウズメがオリガミの服を振った。
「これ、どうしたの?」
「護のアパートから取ってきた」 服をオリガミに渡す。
着替えたオリガミは気分が良くなり、
「今夜、アパートに帰るね」 これを聞いたアメノウズメが不満そうな顔をする。
「どうしたの? アメちゃん……」 様子を見ていたテマリが声を掛けると、
「ううん……なんでもない」 そう言って境内に行ってしまった。
アメノウズメはオッキーに相談していた。
「ねぇ、オッキー 私って、悪い女かな?」 この言葉で意味を察したオッキーは、
「相手がね……それに、この時代の人を好きになるなんて……」
オッキーは大国主命である。 神様が横恋慕を応援出来るはずがない。 ここはアメノウズメに落ち着くように説得をしていた。
「何の相談かしら?」 ここでテマリが入ってくる。
「―ッ!」 オッキーとアメノウズメは肩をすくめる。
「アメちゃん……まさか……?」 テマリが感づいてしまう。
「まさかとは思ったんだけど……あはは」 アメノウズメは笑って誤魔化しているが、本気を感じ取ってしまったテマリは言葉を失う。
(マズイわね……これこそ神様の分断になってしまう……)
夕方、オリガミは慌ただしく着替えをする。
「やっぱり帰るの?」 アメノウズメは小さい声で聞くと、
「うん……やっぱり私には護が居ないとダメだから……」
オリガミの言葉でアメノウズメがグッと拳を握ると、
「私も護がいい……姫が消えて、護を見守ってきたの。 だから、私も護が好き……」
(言ってしまった……大八洲に戻されるか、神という者から消されるか……)
アメノウズメは歯をくいしばる。
しばらくの時間、沈黙が流れる。 オリガミは目を伏せたままだった。
「護、私の記憶が無いんだよね……?」 オリガミが聞くと、アメノウズメが頷く。
「行ってあげて……」 オリガミは涙を流し、アメノウズメを見送る。
そこにテマリがやってくる。
「オリガミ……アンタ正気? アメちゃんに譲るの?」
「譲るっていうか、私の記憶が無い訳でしょ? 仕方ないよ……」
オリガミが肩を落としたまま言うと、
「生まれ変わってもアホだけど、随分と弱気になったんじゃない?」
「そうかな……? 覚えてないの……」 オリガミは社の階段に座り込む。
そこに向かったはずのアメノウズメが戻ってきた。
「あら? 早いんじゃない?」 テマリが声を掛けると、
「うん…… 連れてきたの……」 アメノウズメが言うと、その後ろに護が立っていた。
「護―ッ?」 テマリとオリガミは驚いている。
「ここでハッキリさせようと思ってさ……」 アメノウズメがニコッとする。
「ハッキリって何よ? 何かを仕掛けるの?」 オリガミが目を丸くすると、
「それはドッキリだよ」 テマリはオリガミの頭を叩く。
「あの……ここで何を……?」 護がオドオドして聞くと、
「えっと……相性テストかな」 テマリは苦し紛れに答える。
ここでテストになってしまう。 護は、意味が解らずにテストをされることになってしまう。
「まず、声の反応から」 テマリが司会となり、護の反応を見ることになる。
「護……」 アメノウズメが名前を呼ぶと、テマリが護の顔を覗き込む。
「護―ッ」 オリガミが呼ぶと、護がピクッと反応する。
(思い出して、護……)
どっちの声にも差がなかった。
「じゃ、これは……? ねぇ護……」 アメノウズメが護に抱きついた。
「ちょっと―」 オリガミ、テマリ、そして護までもが声をあげると、全員が固まり
「あの……大八洲さん、ダメです」 護はアメノウズメの抱擁を突き放した。
「では、オリガミ……」 テマリがオリガミの肩を押す。
「う、うん……護」 オリガミが抱きつくと、護の目から涙が溢れ出す。
「この感触……」 護が言い出すと、全員が次の言葉を待った。
「もしかして……」
(もしかして?) ゴクッと唾を飲み込む。
「ヒサメさん?」 護の回答に、全員が後ろに倒れてしまう。
「なんでよ?」 テマリは声を荒げる。
「この前、ヒサメさんと言う方に抱きつかれて、感触が似てたから……」
護が言うと、オリガミの歯ぎしりが聞こえる。
(私が居ない時に、何してんのよ あのババァ……)
「それと……懐かしさを感じました。 初めて会ったのに不思議なのですが……」
これを聞き、オリガミは涙を流す。
(そりゃ母子だから骨格とか似てるのかもね……) テマリは冷静に分析していた。
「待てよ? これを懐かしいと感じるということは……」 テマリは護の表情を伺うと、
「護は自力で消した記憶を呼び覚まそうとしているの……だから連れてきたんだ♪」 アメノウズメが説明すると、
「オリガミ、抱きつきなさい」 テマリが指示をする。
「は、はい」 オリガミが護に再び抱きつくと
「オ……オリガミ……」 護が名前を口にした。
「そうよ、オリガミです」 涙を流して言うと、
「何か記憶が……前に折り紙で鶴を折っていたら、誰かに叩かれた記憶が……」
(どんな記憶よ……) テマリとアメノウズメが苦笑いになる。
オリガミは真剣な顔で同情していた。
それは、叩いたヤツがオリガミなのだが、本人も記憶から綺麗に消されていたのだ。
「ちぇっ― 負けたわ…… 記憶を消しても出てくるんだから負けよ―」
アメノウズメは、そう言って社務所に戻っていった。
その後、オリガミは護のアパートへ帰っていく。 護と腕を組み、何もかもが懐かしくオリガミは笑顔だった。
部屋に入り、護のベッドを見ると二人で映っている写真を見る。
「護、捨てないでいてくれたんだ……」 オリガミは、また泣いてしまった。
「この写真、やっぱり君だったんだね」 護がオリガミの肩を抱く。
その腕に寄り沿い、顔と顔が近づくと
“じいぃぃぃ……” ベランダにはヒサメが立っていた。
「うわっ―」 「キャー」 部屋に悲鳴が響く。 そしてヒサメは部屋に入ってきた。
オリガミは黙って見ていると、
「お前、また記憶が抜け落ちているのか?」 ヒサメがオリガミを見ると、
「誰でしゅか?」 オリガミはオドオドしている。
「へっ―?」 ヒサメは目を丸くする。
当然、護は抱きつかれたのを思い出していた。
「今晩、ゆっくり休ませてやってくれ」 ヒサメは護にいうと静に頷く。
そうしてヒサメはベランダから帰っていった。
(どうしてベランダからなんだろう……) 護は不思議に思っていたが、前日の夜にオリガミが裸でベランダに居たことは知らなかった。
「ゆっくり休んでね。 オリガミさん……」 護が声を掛ける。 しかし、余所余所しい言葉にオリガミは落ち込んでいた。
“モゾモゾ……”
夜中、護が熟睡しているとオリガミは服を脱ぎ護のベッドに潜り込んだ。
朝、護が腕の痺れで目を覚ます。
「いたた……って、あれ?」 護が気づき、声を出す。
「な、何しているんですか―っ?」
護は、裸のオリガミに腕枕をしていたのだ。
「んんっ― 護、おはよう……」 オリガミが護の声で目を覚ます。
「おはよう……じゃなくて、なんで裸で……?」
「幸せだった」 オリガミの一言が、護の言葉を奪った。
護はオリガミを抱きしめる。 そしてオリガミの顔に護の涙が落ちてきた。
「まさか、護……」
「おかえり、オリガミ……」
「ただいま、護……」
オリガミと護は抱き合ったまま口づけを交わした。
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