【5】 居酒屋での就労体験とその後

【牧口】

 さて、居酒屋さんに就職されて、どんな感じでしたか?



【林】

 これも語りだしますと、それだけで、講演が⼀つできてしまうくらいですので、かいつまんでお話しいたしますね。


 まず、研修ですが、⼤将は実に丁寧に教えて下さり、研修期間も倍に伸ばして、根気よく教えてくださいました。



【牧口】

 なるほど。それは、障がいのことを考えてのことだったのでしょうか?



【林】

 そうですね。それが⼤きいでしょうが、飲⾷業界が初めてだったから、というのもあるかもしれませんね。


 それで、何とか研修は終わり、その後は、⼣⽅のシフトで仕事をしていましたが、いまいち活躍ができず、上の⽅からクビを⾔い渡されそうになったんです。


 で、もう⼀度チャンスを、ということで、⼣⽅の開店作業へ移ることを命じられたんです。



【牧口】

 ⼣⽅のシフトのほうが、仕事が楽なのでしょうか?



【林】

 そうかもしれません。開店作業というのがありまして、これには接客を伴わないませんので、


 そういった作業を中⼼にさせるほうがいい、という判断だったのかもしれません。



【牧口】

 なるほど。で、林先⽣は⼣⽅のシフトではうまくいったのですか?



【林】

 それがドはまりでしてね。業務は全く問題なく、またとても楽しくこなせていましたし、のびのびと仕事ができていました。


 それと同時期くらいの話ですが、それまでは、同僚に対しては「四⾯楚歌(そか)」だった僕ですが、同僚からだんだんと認められるようになってきたんです。



【牧口】

「四⾯楚歌」って、そんなに評判悪かったんですか?



【林】

 はい。なにしろ、同僚にしてみれば、


「仕事もせずに、開店から閉店まで⼊り浸っていた素性のわからぬやつ」


 という認識だったみたいでしてね。かばってくださるのは⼤将だけ、という状態がずっと続いていたんですよ。



【牧口】

 なるほど。



【林】

 はい。でも、そのイメージの悪さが、結果的に逆転しましたので、本当に良かったです。


 その時に、ある同僚に⾔われましたのが、


「まぁ、まじめに仕事しているから、いいんじゃない?」


 という⾔葉でした。「まじめに誠実に」、というのは、僕は無意識に⼼掛けていることですが、伝わってよかったです。



【牧口】

 なるほど。働く⼈としての基本的なことさえ押さえていれば、健常者の中に混じっても、ちゃんと認められるんですね。



【林】

 そうですね。


 それで、しばらく⼣⽅のシフトを中⼼に仕事をしていましたら、ある時、大将に呼び出されましてね。


「来週から活躍してもらうからな」


 とおっしゃるんです。


 僕は、


「少しシフトが増えるのかな」


 と軽く考えていましたが、翌週のシフト表を⾒てみたらびっくり! 僕の担当シフトが今までの3倍くらいに増えているんですよね。



【牧口】

 3倍ですか! それはまた極端ですねぇ!


 でも、それは、⼤将さんが、その時の林先⽣ならおやりになれると、お考えになったからではありませんか?



【林】

 そうだと思います。それに、ほかに⼈はいくらでもいるはずですから、僕を信頼して選んでくださったことは、正直めちゃくちゃうれしかったですね。


 でも、同時に、


「こんなん、ほんまにやれるかなぁ。」


 と、ものすごく不安にもなりました。



【牧口】

 それはそうでしょう。今までの3倍ですからね。

 で、実際やってみたらどうだったんですか?



【林】

 それが意外と難なくこなせましてね。しんどくならないし、⽣活が充実して、むしろちょうどいいくらいだったんです。


 そして、⾃分はもうこんなに働けるほどに回復しているんだ、ってすごい⾃信になりましたね。



【牧口】

 それはすごいですね! かなりのブランクがおありでしたのに、急に⻑時間労働をしても平気だなんて。⼤将さんの読みは当たっていたわけですね。


 やっぱり、本来、林先⽣にはそれだけのお⼒がおありなんですよ!



【林】

 ありがとうございます!


 それで、その後は、その3倍に増えたシフトがほぼずっと続きます。


 ただ、最後はリーダー格の同僚といざこざがあって、泣く泣く退職することになりました。



【牧口】

 なるほど。⼤変苦労されたんですね。


 そういえば、居酒屋さんで勤務中は、病状の⽅はどうだったんですか?



【林】

 最初のうちは、うつの症状が頻発(ひんぱつ)して、本当に⼤変でしたよ。毎⽇、根性で我慢していました。辞めたいと思ったことも何度もありましたね。


 でも、だんだん、症状が出る頻度(ひんど)が減っていって、気づいたらほとんど悩まなくなったんですね。


 それに、いざというときは、⼤将が⾃らシフトの⽳を埋めてくださったりして、本当に助かりました。



【牧口】

 なるほど。⼤将さんのサポートも受けつつ、ご⾃分でも精いっぱい努⼒されて、症状頻発の苦難を乗り越えられたんですね。よかったです。


 それで、居酒屋を退職されてからは、どうされたんですか?



【林】

 かなり苦難の就職活動の末、とある「就労継続支援A型事業所」に通うことになりました。


「A型事業所」は、「B型事業所」と違い、⼀般企業が運営していて、お給料も普通に、最低賃⾦以上の時給でいただけます。


「A型事業所」においては、居酒屋の時とはうって変わって、かなりほそぼそと働いていました。


 出勤のペースも、週3~4⽇、1⽇4時間くらいでしたし、仕事内容も、内職作業が中⼼でした。



【牧口】

 なるほど。居酒屋さんでバリバリ働いたあとの、休息期間という、位置づけだったのでしょうか?



【林】

 というよりは、僕の本来の勤務能⼒が、それくらいだったというのが、実質なんだと思います。居酒屋の時が、ある意味、奇跡だったのかと思います。



【牧口】

 なるほど。そして、林先⽣は、「A型事業所」在籍中に、「執筆活動」に目覚められたんですよね?



【林】

 はい。ある事情で、かなり⻑期の休みを取る機会がありましてね。その時の暇つぶしに書き始めたのがきっかけです。


 まさか、それが今や、⽣涯の職業になるだなんて、当時は思ってもみませんでしたけどね。



【牧口】

 そうだったんですね。そして、その数年後には、⾒事作家デビューされ、「執筆活動」と「啓発活動」に絞って、活動をされるようになったんですよね?



【林】 はい。おかげで、今、本当に幸せを感じて⽣きることができています。


 あとどれだけ、⽣きることができるかはわかりませんが、この命ある限り、「執筆活動」や「啓発活動」という武器で、


 世の中に貢献し続けていきたいな、と思っていますね。



【牧口】

 そうですか。私もどこまでもお供しますよ。いっしょに世の中に、よいものを届け続けていきましょう!



【林】

 はい!




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