無表情少女、吸血鬼にジョブチェンジしたけど周りからはグールと言われてるらしい。

ペン

第1話



「記録1。尋訪ダンジョン一日目、スタート」


無表情でそう呟きながら、私はドローンのカメラに向かって話しかける。


山田愛菜(やまだまな)

ただいま、人生初のダンジョンに来ている。

一人暮らし、愛想なし、バイトの面接には二十連敗。そんな私がここにいるのは、「ダンジョンは金になる」というネットの噂を見たからだ。


「今日は初めてのダンジョン探索です。トラブル防止のため、記録を残します」


探索者になるにあたって、最低限の情報は調べた。曰く――探索者同士のトラブル、想定外の事故、そういったリスクに備えて、録画や配信で記録を残すのが推奨されているらしい。


本当は配信でもよかったんだけど……

真顔モブ女の放送なんて誰も見に来ないだろうし、なにより気が散りそうなので、今日は録画でいく。録画なら後から編集もできるし、運が良ければ広告収益とか、ワンチャンあるかもしれない。


「録画は…よし、問題なし。じゃあ行くか」


私が立っているのは、尋訪(じんぼう)ダンジョンの第一層。ここは断崖絶壁の岩場にぽっかり口を開けたダンジョンで、アクセスは最悪だが、出てくるモンスターは初心者向けの低レベルらしい。しかも、全3層と短めで「楽」と噂されていた。


一本道を、慎重に進む。

3分ほど歩いたところで、最初の敵が現れた。


――【サカナもどき】


ぱっと見は普通の魚。けれど、腹から生えた6本の小さな脚でカサカサと動き回る姿は、どう見てもゴキ◯リ。探索者たちの間では、別名水辺のゴキと呼ばれているとか。


「きも……」


想像以上に気持ち悪い。踏めば倒せるらしいけど、正直、踏みたくない。


それでも――


「……えい」


私は我慢して、足を振り下ろす。

グシャッ、という嫌な音。

道端でうっかりセミを踏んだときのような、あの独特な感触が足裏から伝わってくる。


「うぇ…感触がキモい……。あっ、経験値」


我に返って、ポケットから探索者カードを取り出した。


——————

山田愛菜(やまだまな)

レベル1 ランクG

HP 10/10 MP10/10

——————

スキル 無し

———————


「……これ、経験値って入ってるのかな?」


画面をじっと見つめて首をかしげる。

数値に変化はなし。そりゃまあ、たった一匹じゃレベルは上がらないか…。


「うん、一匹じゃダメですね」


今日の目的は、最低でもレベル2になること。

そしてモンスターから魔石を回収すること。


探索者になるにあたり、講習費や装備代で数万円が吹き飛んだ。その出費、取り返さなきゃ赤字一直線である。


「――よし、頑張りますかぁ」


軽く気合いを入れて、私はダンジョンの奥へと進んでいった。

.

.

.

.

あれから、二時間が経過していた。


一本道のダンジョンをひたすら進みながら、【サカナもどき】を30匹ほど踏み潰す。

……本当に、ひたすら踏み潰すだけ。


それでもレベルは上がらなかった。


「……弱すぎるんだよ、こいつら……」


カサカサと動くたびに、こちらのテンションが下がっていく。こっちは必死なのに、出てくるのは水辺のゴキばかり。魔石なんてひとつも落とさない。


溜息をつきながら歩いていると、

前方に――階段があった。


「お、二層目……」


迷わず、その階段を降りていく。


今の私なら、もう少し強い相手でも

――たぶん、なんとかなる。


————第2層————

第1層は、どこにでもあるようなトンネル型の一本道だった。だが第2層に入った途端、景色は一変する。


迷路のように入り組んだ構造。見通しも悪い…私はスマホを取り出し、ネットで公開されていた地図を確認した。


「この階層から、スケルトンが出てくるらしいです。…ここからが、本番ですね。頑張ります」


ドローンのカメラに向かって一応コメントを残す。後から動画編集する予定だけど、素材は多い方がいいし、喋りの練習も兼ねて。


――と、そんなことを言っていたら。


カラカラ、と乾いた音がして、スケルトンがどこからともなく現れた。生まれて初めての人型モンスターに、ちょっと緊張する。


ポケットから、私の武器を取り出す。


金属製のメリケンサック。


初心者に人気の剣や弓なんて、学生の財布には優しくなかった。何か安くて使えそうな武器はないかと探していた時―某大手通販サイトで見つけたのが、「ダンジョンでも使えるメリケンサック!」という謎のうたい文句。


気がついたら、購入ボタンを押していた。


「……ちゃんと、ダメージ通るのかなぁ」


不安半分、でも構えるしかない。スケルトンは、こちらに向かってゆっくり歩いてくる。


低レベルのスケルトンは、殴るしか知らないらしい。動きも遅い。動画で予習済み、たぶん問題ない。


私はその場に落ちていた小石をひとつ拾い、

タイミングを見て――投げた!


石がスケルトンの頭蓋に命中し、カクンと首が傾く。その瞬間、私は一気に踏み込み、右手のメリケンサックを振り抜いた。


「はぁっ!」


メリケン右ストレートがスケルトンの頭部にクリーンヒット。ガキィン!と甲高い音がして――次の瞬間、骨の体がバラバラに砕けて崩れた。


……倒せた。


「……案外、いけるかも」


バクバクと鳴る心臓を抑えながら、その場に立ち尽くす。思わず深呼吸を繰り返して、落ち着こうとする。


ようやく息が整ったところで――私は、次の標的を探すべく、再び足を踏み出した。


今日の目標はダンジョンに慣れる事と、

レベル上げだからスケルトンを狩りまくる

.

.

.

さっきの戦法を繰り返しながら、黙々とスケルトンを撃破していく。数えてみれば、もう二十体近くは倒しただろうか。


そのとき、スマホからアラームが鳴った。


「――もう、19時か」


夢中で戦っていたからか、時間があっという間に過ぎていた。初日としては上出来だと思う。今日はこれで切り上げて、また明日。


「帰る時間ですので本日の探索は終了です」


一応、ドローンに向かってそれっぽく宣言してみる。その前に冒険者カード、確認しておく


——————

山田愛菜

レベル3 ランクG

HP19/19 MP30/30

——————

スキル 無し

——————


「おお、レベル3 !」


HPもMPも、ちゃんと上がってる。レベルが上がるとテンションも自然と上がってしまう。ひとりニヤニヤしながら、私はダンジョンの帰り道を歩いていく。


そして――ダンジョンの出口付近で、

不意に足が止まる。


一匹のコウモリが地面に横たわっていたのだ私の方を、じっと見つめている。


「…ん? コウモリ…あ、ケガしてるのか」


よく見ると片方の羽に傷を負っている。

飛べずにうずくまっているらしい。

不思議と、放っておけない気持ちになる。


私はリュックから低級ポーションを取り出す


「1万円もしたけど、何か可哀そうだしね」


ポーションをコウモリの羽に振りかけると羽はケガ一つ無い状態に修復される。回復したコウモリは元気に飛び回り、最後は私の肩に着地して来た。


「ん、ちょっと可愛いかも…でも、ごめんね君を飼うことは私には出来ないから…」


コウモリを肩から優しく引き剝がし地面に置き私はダンジョンを出ていく。この時私は気づかなかった…コウモリがリュックに引っ付いてる事に。

.

.

.

.

.

ダンジョンを出て、自転車で帰宅。

家に着いたら、まずお風呂で汗を流し、

次にコンビニの夜ごはんで腹を満たす。


「今日は……色々あって、疲れたな」


けれど、どこかおかしい。

体が熱い。頭がズキズキする。

風邪だろうか。急に寒気までしてきた。


「……早く寝よ」


体が鉛のように重く感じる。

私はその重さに身を任せるようにベッドに倒れこみ、気絶するように意識を手放した。

 

––––夢を見ている



漆黒を思わせるような黒い綺麗な長い髪に

真っ赤な血を連想させる赤色の目を持ち

口の端からは牙の様なものがチラっと見える

そんな妖美な女性が私に話しかけてくる。


「わ–––かわ–––––––––ご」

「あ––––––わ–––い–––ま」


女性は私に近づき、軽い抱擁をした。

首元に顔を埋めて来て擽ったい感覚が来る。

見知らぬ相手なのに、なぜか嫌悪感はまったく湧いてこない。それどころか、温かさに包まれるような、奇妙な安心感と幸福感が体の奥に広がっていく。


――チクリ。


首筋に、小さな痛み。驚いて目をやると、その女性が私の首に――歯を突き立てていた。


痛みとともに、ぞくりとした感覚が背筋を走る。……それは痛みというより、むしろ――


気持ちいい。


ふわりと意識が白く染まっていく。

溶けるように、ゆっくり、静かに。

.

.

.

カーテンから漏れる日差しに目が覚める。

変な夢を見た…身体中に嫌な汗をかいていて身体に不快感を覚える。私は変な気分のままベットから起き上がる。


「何だったんだ、あの夢…」


あれっ、何だ? 何故、視線が低いんだ?

嫌な予感がしてベットから姿見の方に歩き、自分の姿を確認する。


鏡に写る自分を見て固まり声が出なかった。

鏡に映る姿は昨日までの私の姿ではない。

ダイヤモンドの様に綺麗なサラサラとした銀髪が腰辺りまで伸びていて、インナーカラーは銀髪では無く白い雪を連想してしまう様な白色 そして極め付けは目だ。


血の様に真っ赤に染まっている、赤色の目

夢で見たあの女性の様な赤い目だ…


「えっ…わっ、私か、これ…はっ?」


意味が分からずにほっぺを触ってみた。

柔らかい…夢じゃないな…これ

寝てる間に何があった?

頭をフル回転して考えられる可能性を探す。


「うーん、んー、スキル? …スキル!」


スキルには獣人化などごく僅かだが、人の見た目を変えてしまうレアスキルが存在する。

寝ている間にスキルが発現したのかも。


私は急いで探索者カードを確認する。

——————

山田愛菜

レベル3 Gランク

HP19/19 MP30/30

——————

スキル ・〇〇の吸血鬼の従者

——————


(〇〇の吸血鬼の従者)


最初の部分が文字化けして読めない。


けど、「吸血鬼」……?ダンジョンに関する資料もさんざん読み漁ったけど、そんな存在、どこにも載ってなかった。スキルの詳細も、全部文字化けしているし。


唯一思い当たるのは——あの、コウモリ?


「……とりあえず、シャワー浴びよ。汗まみれで気持ち悪いし」


脱衣所に向かって服を脱ぎ、お風呂へ入る。

鏡に映る自分の姿に、改めて目を見張る。


さっきまでは気づかなかったけれど——


「……肌、すごく白いし。胸……大きくなってない?」


昨日までの自分の胸は、正直言ってAもなかった。でも今は、はっきりCはある。全体的にスタイルも整っていて、顔立ちはまるで西洋の美少女のよう。


変化に戸惑っていたはずなのに——


「…え、これ……メリットしかなくない?」


ちょっと喉が鳴ってしまったのは秘密。


自分の胸を見て一瞬にやけそうになったが、シャワーの水音がそれをかき消してくれた。































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る