ディスパリティ×ナンセンス
KaoLi
File1【邂逅】
case1 すべての始まり
五年前の四月九日、それは突如として起こった。
***
とあるウィルス研究所の研究員が起こした新型ウィルステロは、犯人である首謀者の情報が闇に葬られた、警察創立きっての難事件だった。
一部報道では、その研究所に出入りしていたとされる現総理大臣の娘が起こしたのではないか、とまことしやかに囁かれていた。
だが、はっきりとした情報は現代にいたるまで無い。
分かっているのは首謀者が撒いたとされる新型ウィルスが人体に多大な影響を及ぼすということだけであった。
ただそのウィルスがどのような影響を及ぼすのかは当時の研究では究明されず仕舞いとなったので、単なる言い訳に過ぎない当時の報道に国民は畏怖を唱えた。しかしそう言わざるを得ない状況だったのは、原因としてウィルス発症者がひとりも確認されなかったためである。
のちに、そのウィルスは人体の細胞に深く刻まれている遺伝子レベルの能力値を最大値にまで引き上げるものだと判明した。
その全容は、発症すればたちまち細胞が活性化し、様々な支障が人体に起こるというものだった。
以後、そのウィルスは【ディスパリティ】と名づけられる。
意味は——格差である。
暫くして、ディスパリティ発症による能力者が日本各地で誕生し、それぞれの地域で人間格差が確立した。
能力があることをいいことに、自然発症した者たちはカースト制度を作り、ディスパリティの成分を最先端技術を駆使して
それに伴い【能力者別階級制度】という法案を提示、締結後、警察に設置することを政府は発表した。
【能力者別階級制度】とは階級が六段階に分かれた制度で、第一階級者が最高階級とすれば第六階級まで存在し、ディスパリティを発症した者たちが該当するそれぞれの能力に応じて階級を提示する。
第一階級者は一人につき五つ以上の能力を有する者へ、第二階級者は四つ、第三階級者は三つ、第四階級者は二つ、第五階級者は一つ、そして第六階級者はゼロとなり非能力者とされる。
能力を持つ警察内有能者を国では総称して、能力者である第一~第五階級者のことを【キャリア】、非能力者である第六階級者を階級名から
ディスパリティの中でも能力値の高い順に、サイキック・スティール、エレクトロキネシス、テレパス、テレポート等が該当する。
日本の首都・東京では、政府を始めとし警察官をすべてキャリアで固め、対ディスパリティ用とも言える絶対的国防を図った。しかしその一方で非能力者である第六は現代において弱い立場に存在することを余儀なくされていた。
現在、社会格差問題は深刻化しつつあった。
そうした社会格差問題対策として、警視庁は【警視寮所轄部】を設置した。
これは能力者ではない第六でも警察官として働けるように作られた第六の為の制度である。
能力者別階級制度が確立してからというもの、近年、歳を重ねるごとに警察官の数は増えてきてはいるが五年前までは現在の人数の半分もなかった。キャリアの中でも能力値の高い者たちしか警視庁では雇わなかったためである。
そこで政府が対策案として挙げたのがこの警視寮所轄部であった。
能力の無い第六でも所轄部の仕事であれば危険な事も無い。捜査でアブノーマルと鉢合わせることも無い。無駄な犠牲を払わなくてもいいのだ。
この対策を設置したお陰か、翌年の入寮者数は二倍以上となった。
***
彼は第六でありながら特例で、当時十九歳という若さで警視庁に入庁し、その後の彼の身体能力の才は目覚ましく、三年後の人事異動で警視庁公安部に配属・勤務することになる。公安部では五年間勤め、やはりそこでもキャリアにも勝る才能を発揮していた。
まさに誰もが羨む天才であった。
しかし二年前、彼に突然の降格と所轄部への異動が決まった。
現在、彼は所轄部にて捜査二課の班長を任されている。
異動の理由を彼は、ある捜査中に不慮の事故に遭ったと話す。その言葉をほとんどのキャリアが信じたが、信じない者も少数存在した。
しかし、この格差社会である。信じない派の能力がいくら高かろうと、多数意見には敵わないのだ。
日本はその能力の名の通りに格差社会の一途を緩々と辿っていた。
カツンカツンと、一人の足音が地下へと続く部屋へと伸びていく。音を鳴らしている人物——
その一室には、あの五年前の事件の首謀者とされている
その実、五十嵐夏香が本当にあの事件を起こしたのかどうかは未だに分かってはいない。その真実を見つけ出すことこそ、御園井に与えられた任務だった。
しかしこの五年間、彼女は一度も口を開いたことは無い。
「……………………こんにちは、五十嵐さん」
「……」
「ここだと光が射さないので、今が『いつ』で『何時』なのかなんて分からないですよね。……今日は二〇××年六月二十日の正午です」
「……」
「……今日もだんまり、ですか。まあいいでしょう。時間は沢山ありますから気長にね。……ああ、そうそう。今日は花木さんがこちらに顔を見せに来る日、でしたね」
ぴくりと彼女の呼吸が一瞬乱れたのを、御園井は見逃さなかった。
「会いたいのでしょう? 彼に。その為には貴女を救う必要がある。……もう五年です。貴女がここに来てから五年も経っているんです。もう、いいでしょう?」
御園井は優しく夏香に語りかける。揺らいだのはほんの一瞬だったが、それでもこの五年間で一度も見せたことのない反応だった。
この機を、逃す気はさらさらない。
時間にして三時間だっただろうか。
何がきっかけだったのかは定かではないが、五年ぶりに彼女はその重たい口を静かに開いた。
「————————……どうして……あんな、ことに…………」
その声は蜘蛛の糸よりもか細く、触れてしまえばすぐにでも切れてしまいそうな音をしていた。
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