パン屋の王子
プロローグ
朝の陽ざしが差し込むガラス越しに、香ばしいパンの香りが街に広がる。小さなパン屋「シェ・ノア」の店頭で、東雲直也(しののめ なおや)は焼きたてのクロワッサンを並べながら、いつものように笑顔を浮かべていた。
「おはようございます! 今日も良い一日を!」
通学途中の女子高生たちが足を止め、彼に軽く会釈しながらパンを手に取っていく。直也は何気なく手を振り返しながら、自分には特別な才能や取り柄がないと思っていた。
「パン作りが好きで、ここで働けてるだけで十分だよな……」
しかし、そんな直也の笑顔や接客が、いつの間にかSNSで話題になっていることなど、本人は全く知らなかった。
第一話:王子の朝
ある日、店にやってきた女子高生の一人が照れくさそうに声をかけてきた。
「お兄さん、いつも笑顔で素敵ですね。私たちの間では“パン屋の王子”って呼んでるんです。」
直也は驚いて思わず笑ってしまう。
「王子って……僕には似合わないよ。」
「そんなことないです! お兄さんの笑顔を見ると元気が出るんです!」
その一言に、直也は胸が熱くなった。自分が誰かの元気の源になっているとは夢にも思わなかった。
第二話:小さな幸せの連鎖
その日から、直也は少しだけ自分の接客を意識するようになった。朝の挨拶を一層明るくし、パンを渡すときには「今日も一日頑張って」と声をかけた。
すると、徐々に「王子」を目当てに訪れるお客さんが増え始めた。SNSで「#パン屋の王子」とタグがつき、彼の笑顔が密かに人気を博していることを知る。
クライマックス:支え合う日々
ある日、一人の女子高生が疲れた顔で店に来た。直也は心配そうに声をかけた。
「どうかした?」
「テストで失敗しちゃって……でも、お兄さんの笑顔見たら元気出ました。ありがとうございます。」
直也は驚きながらも、優しく笑った。
「そうか、元気出たなら良かった。頑張ったんだね。」
その言葉に女子高生は涙ぐみながら、焼きたてのメロンパンを抱きしめるようにして帰っていった。
「……俺、誰かの力になれてるんだな。」
パン作りと笑顔が、誰かの支えになっている。直也はその小さな幸せを噛みしめながら、次のパンをこね始めた。
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