第6話 言ってること、転生者だよね?


 うたた寝のせいで眼鏡がずれ、私の姿が認識されてしまった。

 どうやらそれが悪い方向に受け取られたようだ。


「やっぱり……未来は変えられないんだわ」

「そんなことないよ、ディア! 今、はっきり宣言しただろう? 君以外に心を許すことはない、と」


 ディアーナは私を見て絶望的な顔をすると、力なく首を横に振った。


「でもっ……こうして、出会ってしまったじゃない。きっとこれから皆、彼女のことを好きになる。どんなに避けていても運命は変えられないのよ」


 苦しそうに顔を歪め、両手で覆った。三人はふるふると首を振ると、ディアーナの肩に手をかけた。

 これではまるで私が悪役令嬢のようだ。


「どんな状況になっても、俺たちがディアを断罪することなどありえない」

「そうです。ディアーナ様を裏切ることはないと誓います!」


 それでもなお、ディアーナは震えつづける。


「私、やっぱり修道院へ行くわ」

「「「それは許さない!!!」」」


 必死で説得しているようだ。けれど――私、この場に必要ないよね?


 きっちりかけ直した眼鏡効果もあってか、私の存在は薄ーくなっていた。


 堂々と物語の内容を話し始めるディアーナに、私は彼女が転生者であることを確信した。

 そして、おそらく幼少期に転生した彼女が、未来の断罪を回避するために、登場人物たちとの関係改善に努めたことにも気がついた。


 理解はできる。私がもし彼女と同じ立場だったら、きっと同じように断罪を回避するための行動をとるだろうから。


(でもさ。私、何も悪くないのに……いったい何なの? 何もしていない私をそこまで恐れる必要ある?)


 本来の主人公であるアイリーンだったら、軌道修正したり、物語の強制力なんかが働いて、登場人物たちにこだわったかもしれないけど。


 転生者である私にとってはどうでもよいこと。

 ディアーナにいじめられるわけじゃないなら、彼女が王子と婚約しようが、義兄に溺愛されようが、幼馴染と恋に落ちようが、従者と逃避行しようが、そんなの関係ない。


 そもそも、物語の中でディアーナが断罪されたのだって、アイリーンは関係ない。むしろ自業自得なわけで。


(ディアーナが断罪されるようなことをやらなければいいだけじゃない? そこまで必要以上にアイリーンを恐れなくてもいいよね? 嫌がらせしていたのも、傷つけようと画策していたのもディアーナだったわけだし。むしろ、物語の中のアイリーンも、今の私も、被害者だし!!)


 勝手にビビリまくる悪役令嬢にも、それを鵜呑みにし決めつけて、必要以上に冷たく接する登場人物たちにも腹が立ってきた。


(そんな奴ら、こちらから願い下げよ!!)


 邪険に扱うなら無視するまで。もともと登場人物全員から好意を寄せられるなんて面倒くさくてかなわないと思っていたし。


 私は“たった一人の人”に想われたい。


(そうだ! せっかく大好きな世界に転生したのだから物語なんかに縛られず、自由に恋愛しよーっと!)


 こんなにたくさんの美しいものに囲まれた異世界にせっかく生まれ変われたのだから、思う存分、愛でて楽しまないともったいない。


 こうなったら、物語と関係のない“たった一人の人”を探してやる!


 すでに、私の存在を忘れきった登場人物たちに背を向け、落ち込んでいた気持ちと視線を上げて軽やかに一歩、踏み出した。

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