あの夢のことは……

雲条翔

第1話 あの夢と超能力

 

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。



 さて、ここで「あの夢」について説明する。


「あの夢」というのは、代名詞の「あの」と、眠る時に見る「夢」が組み合わさった言葉ではない。


 人名だった。


 僕の従姉妹いとこであり、名前が「宮坂あの」。

 愛称は「あのむー」。


 彼女は三姉妹の長女で、ふたりいる妹の名前は「この」と「その」だった。


 ちなみに、母方に北欧の血が入っている僕のフルネームは「宮坂ジャスティン天応丸てんおうまる」だった。通称「ジャスてん」。親を恨みたい。


 幼い頃はよく遊び、幼稚園の時は同じベッドで寝たり、一緒にお風呂にも入った同い年の親戚が、同じ制服を着て同じ高校に通うというのは、なんともむず痒いもので、僕は彼女との血縁関係を周囲に秘密にしていた。


 彼女は黒髪のショートカット、黒目がちの大きな瞳、快活な弾ける笑顔。

 誰がどう見たって「美少女」であり、スクールカースト最下層の地味な僕と、いつも賑やかなグループの中心にいる彼女とは、釣り合わないからだ。


 それに、「あんな可愛い子と親戚なら、俺に紹介してくれよ」というウザイやつらに絡まれたくないし。


「秘密にしてくれ」と頼んだわけではないが、彼女も僕の意思を汲んでか、僕と親戚同士という事実を誰にも話さずにいた。

 助かるからありがたいんだけど、彼女の場合は、単に周りの友達に知られたくないだけなのかもな、なんて想像もしてしまう。


 実際、学校で会話も目線も交わすことなど一切なく、廊下ですれ違っても挨拶もない。

 お互いに「他人の振り」で過ごす。


 そんな関係性だった。


 イトコが同性で、親しげな兄弟みたいだったら明かしても良いのかもしれないが、男女となると、ヘンに色恋沙汰を噂されたり、嫉妬などが絡んできたり……平穏な高校生活を送るために、少しでもそういう視線を避けたいのが本音だ。



 ある日、高校からの帰り道。


 委員会の仕事を終えた僕がひとりでテクテクと歩いていると。


 人通りのない、薄暗い神社の前で、ひょいと「あのむー」が顔を出した。


「やっほー。天ちゃん、久しぶりだよね。ちゃんと話すのっていつ以来? 今、ちょっと話いい?」


「……いいけど」


 明るく話しかけてくる彼女を前にして、「やれやれ、話につきあってやるか」という態度を取ってしまう。


 内心、ホントはすごく、すごく嬉しいんだけど。


 時折、彼女は、周囲に誰もいないタイミングで、親しげに話しかけてくることがあるのだ。


「もしかして、僕がこの道を通るの、ずっと待ってたの?」


「ううん、違うよ。あちこちに出没して、探してたんだよ」


「出没って」


が、来たのよ。宮坂家特有の」


「ああ……ね。僕もあったよ。先々月だったかな」


「うっそー、先だったの? 勝ったと思ったのにぃー。そんな前だったんだ。なんで教えてくれないのよ」


」というのは、宮坂家や親戚の血族が代々目覚める、超能力のようなものである。

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