9回目はありえない
奈知ふたろ
Prologue
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
ありえない。ありえない。さもない……自分だけ……どうして。
もうこうなったらこの武士の力を思い知ってもらうしかない。
昼休みも残りはあと二十分ほどというところ。
昨夜から読み始めた海外ミステリスパイ小説がようやく佳境に差し掛かろうかという絶妙なタイミングでいきなり教室に駆け込んできた夏海が俺の机に叩きつけるように一枚のメモ書きをおいた。
俺はその文面をひとしきり憮然として眺め、それからおもむろに首を傾げる。
「……なんだこれ」
「クイズ。なぞなぞ。解いてよ。得意でしょ、
「はあ? ちょっとなに言ってるか分からない」
真面目にそう返すと左耳を思いっきり引っ張られた。
「いててててて。やめてくれよ」
「じゃあ、解いてよ」
「なんでそうなるんだ。ていうか、なぞなぞとかクイズっていうのは『これ、なあんだ?』とか文末に書いてあるもんだろう」
「知らないわよ。確かにこう聞こえたんだから」
「聞こえた?」
「うん、廊下から」
彼女の説明によれば四限目を終えて昼休みとなり、友人と弁当を食べているとそのとき廊下を通り過ぎた何者かがくだんのセリフを吐き捨てたのだという。それが何とも暗く不穏な口調だったので気になり、慌てて扉を開けて覗いたものの、もうそこにはそれらしき人物の姿はなかった。あらましはだいたいこういう事らしい。
「それだけ?」
「それだけ。なんか文句ある」
「ある。めんどくさい。バカバカしくてやってられない」
真顔で返すと再び左耳が引っ張られる。
「いててて、なんだよ。だってバカらしいだろ。この文面の意図を推理したところでいったい何の役に立つっていうんだよ」
「そんなのやってみないと分からないじゃない。誰かが雨の中を長く歩いたって聞いただけで殺人事件を解決しちゃうことだってあるんだし」
「そりゃ小説の中の話だろ。リアルでんなことあるわけないない」
ヒリヒリする耳をさすりながらそう返した俺に夏海は不機嫌そうに口を尖らせた。
最近の夏海はミステリ小説にどっぷりハマってしまっている。そして何か気になることがあるたび、俺のところにやってきては推理の真似事をしたがるのだ。
ちなみになぜ俺なのか。
それは幼なじみであることと、あとこれまでに何度となく夏美の探し物を推理だけで見つけてやったことがその要因と思われる。
くるりと踵を返した夏美がトボトボと帰って行こうとしたので俺は仕方なく引き留めてやった。
「仕方ねえなあ。どうせ昼休みにすることもないし。ちょっと考えてみるか」
すると夏美は嬉しそうに駆け戻ってきて前の席の椅子にそそくさと座った。
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