第5話 ひとの恋路を邪魔する奴は・・・1

 カラス、の彼女たちは、彼ら一行の後を追っていた。

この世界の全てを記述するため、現実世界から、憑かれて、この異世界にやってきた一行、を。


 記述、記録、記録の意味は、そこにあったものを、そこにあった事象を、覚える事だけでなく、永遠のものにすること。



 あのハープを持った少女の館から、街道をいくつか超えたところで。

 一行は、小高い丘を越え、邑に入った。

 道すがら畑、田、およそ、栽培しているであろう場所には、農作物が青々と実り、ふらりと、何も知らない者が、立ち寄る限りにおいては、豊かな邑であると、体感的にそう思うような外観であった。


 すれ違う村人はくすんでいた表情を、隠しもせず、往来を行き交っている。


 たまにすれ違う村人は、我々を見て、少し驚いた表情をするが、それも一瞬で、何ごとか、関わり合いたくない、そう言った意味の表情が、あからさまに分かるようだった。


 そう、会う人、人?とよんでいいのだろうか、確かに人、と呼ぶに違和感のない人は確かに往来している、ただ、頭に角、トカゲのそれに似ているしっぽ、または、翼の生えている人と呼べるおおよそ想像の域を超えているものが目の前を、視界の隅を行き来している。


 あの放課後の図書館、本を持っている彼女はブックストア、そして、古本屋から飛ばされた彼女、文字通り三者三様に、立場や、タイミングがそれぞれ違うところから、ここへ来ただけでも信じがたいのに、眼の前のそれ、は。驚く域の範疇ではある。


 今まで生きてきて、あのカラスの化身ともいうべき少女達に幽界に連れてこられただけでも信じ難いのに。

 彼らは未だ頭が混乱していて、この世界である、旅立ったものの、なにをどうしていいか分からないといったところだ。


 少し離れたところにそのカラスの三人娘は付かず離れず付いてきている。

 向こうもこちらの様子を伺いながらと言ったところだろう。


 相変わらず、その往来には先程から、人、人外の者、そうでない物、色々、我々の傍を通り過ぎたり、横切ったりしている。


 暫く行くと往来のかどには高く高札がかけられ、人々は足を止め、それを見上げている様子だった。

 その輪が、一重にも二重にもかさなっていて、街道を閉塞している風だった。


 彼らは立ち止まり、その高札を眺めていた。

 そこには、文字らしきものが書かれているが、今まで、お目にかかっていない、文字言語で書かれており、一見読むことは、叶わないものだと、あきらめていた。


 が、不思議と、暫く見ていると、その文字は文字として認識できるようになり、見たことのない文字のはずなのに、読めるようになって、気がつけば、さっきまで、雑音でしかなかった、人々の、人外の発する言語も理解できるようになった。



 高札や、人々が話し合う事を要約すると、この地を治める、執政官の名のもとに掲げられているものであった。

 曰く近々、女王に新しい婿を迎えるにあたって、村人は、民は、祝福の準備をするようにと、おおよそ、上からの命令で祝福を強制しているとの事。


 祝福を強制することは、中々信じがたいものがあったが。

 行き交う人々のその微妙な表情の訳が少し理解できた。


 その高札の輪の一番外側に陣取っていた彼ら。

 役人を誰かが呼んできたのだろう。

 役人が数名、手に鑓や、刺股、縄を手に、声を掛けてきた。

 見かけない旅の者、手形は持っているかと聞いてきた。

 手形、なんて、その必要性は今、初めて聞いた。

 そう答えると慌てて、手下らしいものが、どこに潜んでいたのかと言う位、飛び出してきて、高札を見ている人数の倍ほどの、人だかりができた。


 ほどなくして。


 怪しい風体の輩、引っ立ててくれる、と言い放つと、その何十人とムサイおっさん達が俺達を取り囲み、神妙にいたせとか言いながら、まあ、多勢に無勢ここはひとつおとなしく従うかと。

 彼女達には、女性の役人が引っ立てているようなので、状況も分からない事も考慮して、おとなしく縄についた。

 暴れるのはここではないか、と彼は思ったのか。


 番所に連れていかれ、貴様たちは何処から来た、何処へ行くなど、答えに窮する質問をして来る、必然、答えのない答えに答える術は無く。


 まるで禅問答の様な答えに、余計怪しまれ、暫くここに留まるよう、その上役らしきものは言い放ち、この番所に拘留されることとなった。


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