第2話
翌朝――私はひどい倦怠感とともに目を覚ました。頭痛こそないものの、全身が鉛のように重い。酒に飲まれた代償がきっちり請求されている。二日酔い特有の不快感が胃の奥から込み上げ、私は布団の中でしばらく唸った。
重い体を引きずって起き上がり、フラフラと台所へ向かう。冷蔵庫を開けると、昨夜の自分が仕込んだのか、ミネラルウォーターのボトルが一本だけ残っていた。私はそれを手に取り、一気に喉へ流し込む。冷たい水が胃袋へ落ちていく感覚に、少しだけ生気が戻る。
続いて洗面台で胃薬を二錠、乱暴に水で流し込んだ。これで二日酔いの朝の儀式は完了だ。気休めかもしれないが、習慣としてやらねば落ち着かない。私はリビングに戻り、ソファにどさりと腰を下ろすとテレビの電源を入れた。
ブラウン管テレビの画面に、騒がしいテロップが映し出されている。朝のニュース番組だ。キャスターが神妙な顔でレポートに切り替わり、事件現場からの中継映像が映った。白黒の規制線と人だかり、揺れる中継カメラ――どうやら殺人事件のニュースらしい。
私は朦朧とした頭でそれを眺めていた。凶悪事件が珍しくなくなった世の中とはいえ、自分の住む街で起きたとなると少し背筋が寒い。キャスターの背後に映る地名に目を凝らすと、見覚えのある文字列だった。――私のアパートから程近い町名が画面隅に表示されている。
「近所で殺人事件、か……物騒だな」私は独りごちた。昨日まで平穏だった日常に、不意に非日常が割り込んできた感覚。だが当の私はと言えば、昨夜の出来事のせいでそれどころではなかった。正直、テレビの中の惨劇さえどこか上の空なのだ。
画面には犯行現場の地図が映し出され、そして被害者についての情報がテロップで流れた。「被害者は近隣に住む14歳の少女」――その文字を見た瞬間、私はぞっとした。
アナウンサーが被害者の氏名を読み上げる。「佐々木朋美さん」。私は思わず正気を疑った。佐々木朋美――サカキの妹トモミさんと同姓同名? いや、サカキ“榊”とテレビの“佐々木”では似てる響きだが異なる。年齢も妹さんと符合しない。サカキの話では妹はまだ二十歳前とのことだったから、14歳では若すぎる。
別人だ、偶然に違いない。私はそう思おうとした。だが、昨夜の出来事と奇妙に符合する部分が脳裏を離れない。「トモミ」という名前――。あの無表情な少女――。私は頭を振って、嫌な連想を打ち消す。テレビ画面では既に現場中継が終わり、スタジオでコメンテーターが何やらもっともらしいことを語っていた。
私はリモコンを手に取り、チャンネルを変えた。別の局でも同じニュースを伝えている。画面隅に大きく「殺人事件」「女子中学生死亡」などの文字が踊っていた。やはり近隣で起きた事件に間違いない。キャスターが繰り返す。「被害者は近くの中学校に通う女子生徒、佐々木朋美さん。発見当時すでに死亡しており……」
名前を聞くたびに、酔いとは別の不快感がぶり返してくる。私は思わずソファから立ち上がり、テレビを消した。ブラウン管がパチンと音を立て、部屋は静寂に包まれる。
「佐々木朋美……」私は声に出して名前を繰り返した。昨夜、目の前で抱き合っていた兄妹の名前。あのトモミさんと全く同じ読みの他人が、こんな近所で殺されたというのか? 胸の奥に澱のようなものが沈殿する。
偶然だ。偶然に決まっている。私は自分にそう言い聞かせた。似た人の名前など世の中に腐るほどいる。
私は無理矢理納得しようとする。しかし拭い難い不安が残った。――サカキに連絡すべきか? 妹さんの安否を確認する? だが、考えすぎだろう。仮にサカキの妹だとしたら、彼は事件を知って大騒ぎしているはずで、私にだって昨夜何か言ったかもしれない。そもそも名字が違うではないか。
私はそれ以上考えるのをやめようと努めた。代わりに別の不安が頭をもたげる。昨夜の出来事は酔いの幻ではなかったのだろうか、と。
ソファに腰を下ろし、額に手を当てる。あの異様な夜の光景が次々に脳裏に甦った。路上のマネキン。サカキの部屋の“妹”。壁際の無機質な人形。そして、最後に見た“妹”さんの震える背中――。
私は目を瞑った。現実のはずなのに悪夢のような断片たち。それらが私の記憶から奇妙な像を結んで迫ってくる。やがてそれは一つの問いに凝縮された――「あれは現実だったのか?」と。
不意に携帯電話の着信音が鳴り響いた。私はハッとして尻ポケットから携帯を取り出す。画面を見ると、表示された名前は「サカキ」となっている。私は一瞬緊張し、息を詰めた。まさか本当にトモミさんに何か……? 胸がざわめき、不安と恐れが入り混じる。
通話ボタンを押し、耳に当てる。「……はい、もしもし」固唾を飲んで声を出すと、受話口からは意外なほど軽い調子の声が返ってきた。「あ、オレだ。大丈夫か?」
サカキの声だった。私は拍子抜けしつつ、「ああ、大丈夫だ」と返す。サカキは続けた。「昨日あれだけベロンベロンに酔ってたからさ、事故にでも遭ってないか心配で電話したんだよ。あいつが……」その瞬間、受話器の向こうでドンという鈍い音と「あ痛ッ」という声がした。どうやら彼は何かに躓いたらしい。
「……サカキ?」私は訝しんだ。「“あいつ”って誰のことだ?」しかしサカキはその問いを聞き流し、「お前、ホント平気か?」と畳みかけてきた。
私は昨夜のニュースの話をすべきか迷った。もしかすると彼はまだ知らないのではないか? おずおずと私は切り出した。「あー……そっちこそ大丈夫か? さっきニュース見たけど、近所で事件があったみたいだな。例の……殺人事件」声が自然と小さくなる。電話越しにサカキは一瞬沈黙し、「なんのことだ?」と訝しげに言った。
私は意外に思い、「え? 近所で起きた女子中学生殺害事件だよ」と説明する。しかしサカキは「いや、その話は知らなかった。ニュースも見てないし……」とあまり関心のない様子だ。それよりもと彼は言葉を継いだ。「お前が昨日酷く酔ってたから、事故とか起こさずちゃんと帰れたか心配でさ。そっちは大丈夫なんだな?」
肩透かしを食らった私は「軽い二日酔いだけど、別に問題ないよ」と答えた。サカキは安心したように息を漏らし、「そうか、それならいいんだ」と笑った。「ヒマならまたそのうち飲みに来てくれよ」と一言付け加えて電話を切った。
私はしばらく呆然と携帯を見つめた。何だったのだろう、今の電話は。結局、彼は私の体調を確認しただけで、すぐに切れてしまった。遊びに誘うでも愚痴るでもなく、ただ「元気か」と尋ねるだけの電話なんて、まるで遠方の母親が息子を気遣うようなものではないか。
それに引き換え、私が尋ねたニュースの件は、まるで聞き流された。サカキの反応から察するに、妹さんは無事なのだろう。もし妹が事件被害者ならあんな平静なはずがないし、第一、名字も違う。やはり他人の空似だったのだ。私は肩の力を抜いて安堵した。
しかし、電話を切ってなお、胸の不穏さは拭えなかった。サカキは“あいつ”と言いかけていた。それはおそらくトモミさんのことだろう。電話の向こうで転倒した音――慌てていた様子――も妹に気兼ねしていたように感じられた。妹に昨夜あんな態度を取られ、彼はだいぶ堪えているのかもしれない。案外、私に電話を寄越したのも、自分のしたことへの罪悪感からかもしれなかった。
私は複雑な気分で携帯をテーブルに置いた。ちらりと時計を見ると、いつの間にか午後三時を回っている。休日だとはいえ、一日中部屋に閉じこもっていると気が滅入る。私は上着を手に取り、外へ出ることにした。
空は澄んだ青。陽光がアスファルトを白く照らしている。季節外れの暑さも収まり、吹く風が心地よい。私は駅前までぶらぶらと歩き、軽く昼食を取ることにした。胃に優しいものがいい。二日酔い明けの身体が求めるのは、脂っこい中華ではなく温かな蕎麦の類だ。
結局、私は馴染みの蕎麦屋に入り、かけ蕎麦を啜った。出汁の香りにほっと一息つき、ゆっくりと食事を終える。店を出る頃には頭もすっきりしていた。
腹ごしらえの後、私はなんとなく街を歩き回った。土曜の午後、繁華街は人でごった返している。雑踏のざわめきが耳に満ち、現実感が戻ってくるようだった。私は昨夜から続く胸のざらつきを振り払いたくて、あてもなく通りを曲がり、知らない路地へと入っていった。
いつの間にか大きな川の土手に出ていた。こんな場所があるとは知らなかった。都市の喧騒から一歩離れただけで、そこには閑散とした川沿いの風景が広がっている。護岸には草が茂り、対岸には無数の住宅と雑木林がモザイクのように連なっていた。
「……ああ、ここか」私は足を止め、呟いた。すぐに気付いたのだ。――これは夢だ。
立っている場所、目の前の景色、吹き抜ける風の匂い、空の色。それらが奇妙に歪んでいる。私は過去にも何度かこの風景を見た覚えがあった。しかし、現実ではない。それは知っている。なぜならこの川も土手も、私の暮らす街に存在しない場所なのだから。
「夢か」私は半ば諦めたように呟いた。気づけば私は夢の中に入り込んでいたらしい。
これはたまに見る夢だ。年に一度あるかないか程度だが、幼い頃から繰り返し見る記憶がある。現実には無い風景なのに、夢の中では見知った場所なのだ。しかし、そこがどこなのか、何を意味するのかは分からない。ただ懐かしく不気味な光景が広がっているだけだった。
「またここか……」私は土手の斜面に腰を下ろした。頭の隅では「なぜ自分が昼日中に寝入ってしまったのか」と訝しむ冷静な自分もいたが、夢の中で考えたところで無意味だ。ここは夢だと自覚してしまった以上、目覚めるまで現実には戻れない。
遠く、川面が陽光を反射して白く輝いている。私は眩しさに目を細めた。ぼんやりと川沿いを眺めていると、土手の下に小さな人影が見えた。少女だ。歳は……中学生くらいだろうか。どこかで見たことがある気がする。私は立ち上がり、土手の上から彼女に声をかけた。「こんにちは!」
こちらに気づいた少女が、はっと顔を上げる。遠目にも彼女が驚いたのが分かった。次の瞬間、少女は駆け出し、土手を駆け上がってくる。子犬が飼い主に呼ばれて走り寄るような、そんな勢いだった。
私は胸の鼓動が高鳴るのを感じた。彼女が誰なのか、私はまだ思い出せない。しかし、この場所で少女と会うのは初めてではないような気がする。幾度も見た夢だ。以前にも彼女と話したことがあった気がするのだ。だが記憶が靄がかかったようにおぼろげで、確信が持てない。
少女は私の目前まで駆け上がってきた。長い髪を揺らし、小さく息を弾ませている。私は微笑んだ。「昨日はちゃんと帰れました?」彼女が先に口を開いた。
「え……?」私は戸惑う。昨日? 何のことだろう。彼女は私の顔を覗き込むように見つめている。大きな瞳が印象的だった。私は返答に窮しつつも「ああ、うん。無事にね」と頷いた。
――誰だ、この子は。私は心の中で反芻する。中学生から高校生くらいの少女。どこかで会ったことがあるような、ないような。不思議な既視感があった。
「よかった……」少女は胸に手を当て、ほっと息をついた。私はそれを見てなおさら混乱する。彼女はまるで私と以前から面識があるかのような口ぶりだ。私はおそるおそる問うた。「君は……誰だっけ?」
少女はきょとんと目を瞬かせた。すぐに「あ……自己紹介、してませんでしたね」と寂しげに笑う。「私、名前は――」そこで彼女の声が不意にかき消された。耳鳴りがして、彼女の言葉が届かない。
「え?」私は首を傾げる。「ごめん、なんて――」
しかし少女は恥ずかしそうに俯いてしまった。聞き返すのもはばかられ、私は話題を変えることにした。「そ、それより……昨日はごめんね。失礼なこと、したかな?」
少女は首を振った。「いえ……私の方こそ。昨日は……本当にすみませんでした」彼女はぺこりと頭を下げた。
私はなおさら混乱する。夢の中の出来事とはいえ、私は彼女に謝罪されるようなことをされた覚えがない。昨日? 失礼? 一体何について謝っているのだろう。私は何も言えず立ち竦んだ。
少女は頭を下げ続けている。まるで許しを請うように何度も何度も。「本当にごめんなさい……!」その肩が小刻みに震えた気がした。私は慌てて「いや、いいんだ。気にしないで」と声をかける。しかし彼女は顔を上げようとしない。
私は困惑して少女の肩に手を置こうとした。だが指先が触れかけた瞬間、彼女がびくりと身をすくめたので、私は慌てて手を引っ込めた。少女は怯えたようにこちらを見上げる。大きな瞳に涙が滲んでいた。私はしまったと思った。不用意に身体に触れようとしたことで、彼女を怖がらせてしまったのだ。
「ごめん……驚かせるつもりじゃ」と弁解しかけるが、少女は勢いよく首を横に振り、「ち、違うんです。私が悪いんです」とまたも頭を下げる。私はその必死さに息を呑んだ。
なんというか、人と会話している感じがしない。こちらの言葉は届いているのだろうか。私は戸惑い、ひとまず話題を変えることにした。
「ええと……君も、この場所によく来るのかい?」浅はかな質問だが、沈黙を破るにはそれしか思い浮かばなかった。少女は顔を上げ、少しだけ微笑んだ。「ええ。小さい頃から、毎日のように来ています」
毎日? 私は意外に思う。私はせいぜい年に一度か二度夢でここに来るだけなのに。夢の中で私は、彼女の言葉をそのまま受け取っていた。「そっか……僕はたまにしか来ないけど、ここ、なんだか落ち着くよね」と合わせる。
少女はぱっと表情を明るくした。「ですよね! ここはすごく落ち着きますよね」と嬉しそうに頷く。「もっと気軽に来ればいいのに」とはしゃいだ声で言われ、私は苦笑した。
「いや、来ようと思っても、なかなか来られないんだよ」私は苦い皮肉を込めて答えた。何しろ夢なのだから、意識して来られるものではない。少女は首を傾げ「どうして?」と不思議そうに問い返す。
「うーん……」私は返答に詰まる。夢である以上、説明しようがない。少女は気にせず続けた。「私は毎日来てますよ。この川べりに座って、空を見たり、遠くの山を眺めたり……本当に好きなんです、ここ」
私はその言葉に引っかかりを覚えた。「毎日?」と念押しする。少女は「ええ」と肯いた。その瞳に曇りはない。私は首を捻る。夢だと分かっているのに、彼女の言葉だけがやけに真実味を帯びて感じられたのだ。
少女は土手に腰を下ろし、遠くの景色に目を細めた。「小さい頃からずっと、ここに来ています。ここにいると、落ち着くんです。嫌なことも忘れられるし……」と語る声は穏やかで、風に溶け入りそうだった。私は隣にそっと腰を下ろし、彼女の横顔を盗み見た。
柔らかな頬、長い睫毛。その姿は現実味を帯びて美しいのに、存在そのものが蜃気楼のように頼りない。私はふと怖くなった。彼女の輪郭がこのままぼやけて消えてしまいそうな予感がしたのだ。
「君は、本当にここが好きなんだな」と私は声をかけた。少女は「はい」と静かに笑みを浮かべる。「ここは私にとって……とても大切な場所なんです」その言葉は土手に染み込むように消えていった。
私はなぜだか胸が締め付けられるような気持ちになった。理由は分からない。ただ彼女の横顔が悲しそうに見えたからかもしれない。何か言わなくては、と焦るが、適当な言葉が見つからない。
気まずい沈黙が流れた。私はポケットに手を突っ込み、煙草でもあればと探った。しかし夢の中では何も見つからない。ただ手探りする指先が虚空を撫でた。
その時、少女がぽつりと呟いた。「私……お兄ちゃんがいたら、こんな感じだったのかな」小さな声。私は驚いて彼女を見る。「え?」
少女は慌てて首を横に振った。「ご、ごめんなさい。変なこと言って」頬を染めて目を伏せる。私は「いや……」と返し、何とも言えない気持ちになった。“お兄ちゃん”……サカキの妹を思い出す言葉だ。
そういえば、サカキの妹トモミさんは今どうしているだろう。私は夢の中でさえそのことを考えてしまう。昨夜、あの兄妹は何を思って抱き合っていたのか。今朝のニュースは結局赤の他人だったのか。まるで整理がつかないままだ。
「ノミヤさん?」少女の呼びかけに我に返った。「え、ああ、なんだい?」私は取り繕うように微笑む。少女は心配そうに「急に黙るから……」と言う。私は「ごめん、ちょっと考えごとを」と曖昧に答えた。
ふと見ると、土手に長い影が伸びていた。夕暮れが近いのか、空が茜色に染まり始めている。私は驚いた。ほんの少し話していただけのつもりが、かなり時間が経っているようだ。
「そろそろ帰らないと……」私は呟いた。しかしそれは現実での話なのか、夢での話なのか、自分でも判然としなかった。少女は寂しそうに俯いた。「もう、行っちゃうんですか?」
「あ……」私は言葉に詰まる。夢から覚めたくないような、しかし早く覚めて欲しいような、奇妙な焦燥があった。「その……また、会えるかな?」と私は口をついて出た。
少女は少しだけ考え込む風だったが、やがて微笑んだ。「ええ、きっとまた……」その言葉を最後に、私の視界はふっと翳った。
耳鳴りが急激に大きくなる。背後で吹き上げた強風に、私は砂塵を浴びて目を瞑った。次の瞬間、身体がぐらりと傾く感覚――。
私は息を呑んで目を開けた。
眩しい夕日が射し込む部屋に、私は横たわっていた。傍らのテレビでは、例の殺人事件のニュースがまだ流れている。どうやら昼食後、私はベッドに横になったまま眠り込んでしまったらしい。
「あれは……夢か」私は額の汗を拭った。心臓がまだ高鳴っている。夢の中の少女の面影が瞼の裏に残っていた。私は頭を振り、その残像を追い払う。
テレビでは事件の続報を伝えていた。だが私はチャンネルを変えた。もはや事件への関心は薄れていた。――夢の少女が気になる。あれは一体誰だったのか。今までにも何度か、似たような夢を見た。だが、今回ほどはっきりと人と対話したことはなかった気がする。
「あの子は……?」私は自問する。だが答えは出ない。どうせ夢だ、と私は苦笑した。現実と混同するなど馬鹿馬鹿しい。
私は伸びをし、時計に目をやった。もうすぐ夜の七時になる。お腹が空いてきたが、今夜は誰かと食事する約束もない。せいぜいコンビニで弁当でも買おうか。
軽く着替えて外に出ると、空はすっかり朱に染まっていた。私は駅前へ向けて歩き出した。夢で見た夕焼けと同じ色だとふと思う。頭を振って妄想を振り払う。現実と夢の境界が曖昧になってはいけない。
――そう、自分に言い聞かせながら、私は雑踏の中へと紛れていった。
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