第10話9.危機一髪

いわき平のダイニングバークイーンのチーズリゾットの次は広野町の瓢タンの宿舎の前にあるスナックで飲んだ。

そこは土木の除染作業者たちもやってくるスナックで、彼らと同じカウンターはかなり騒がしいので座敷に移動してテーブルをはさんで飲み、話した。

「いや~、危なかったけど、不幸中の幸いとはことのことだよ。」

そう言いながら瓢タンは排気筒遠隔解体最大の危機について語り出した。

「遠隔切断も10回目くらいに差し掛かって、無線も調子よくなって、円周を細かく切断しながら排気筒の歪みを避ける工夫もわかってきた頃に考えられないことが起こったんだよ。」

私は角瓶を瓢タンのグラスに注ぎながら興味津々で聞いていた。

「遠隔操作は排気筒から200m離れた高台にバスを設置してそのバスの中にコンピュータを並べてある。バスの前方近くには大熊通りと言って1F原発の真ん中を東西に谷があるんだ。バスの中は装置の故障や状態を監視するためのカメラがいくつも設置してあるんで監視のモニターもいくつか設置してある。サーバーも置いてあるんでその発熱が大きいので夏は結構暑苦しい。バス内は管理区域に設定せざるを得ないのでサージカルマスクとタイベックスーツと手袋着用している。室内エアコンを使うからエンジンはつけっぱなしだ。」

と言ってグラスを呷って続けた。

「問題はバスが中古車だったってことで、100万K走っちゃうとメーカー保証しないんだな、あとからわかったけど。ある日エンジン着けた途端に1stにいきなりギアが入ってしまって、バスが動いちゃったんだ。発車しちゃったわけ。バスは大熊通の谷む向けていきなりダッシュしちゃったんだよ。バスの1stって馬力が凄いんだな。突進力は半端ないように作られている。一瞬で谷底めがけてダッシュしたんだ。」

ふ~~と一息ついてから続けた。

「通常ならそのまま操作者5人乗せたまま谷底に転落して命もどうなったかわからんけど、運よくそのときのエンジン掛けたエンジニアが運動神経が良かったんだろうなあ。谷に落ちる前にハンドル左に切ってからブレーキかけることができたんだよ。」

私は疑問をぶつけた。

「エンジンかけるときはニュートラルだろ。それがなんでいきなり1stに入っちゃうの?」

すると瓢タンは言った。

「変則ギアは後部車輪の下にあるんだが、後日、日野自動車の検証を行った際に立ち会ったんだが、エンジン掛けっぱなしにしていると何かのはずみで1stに入ってしまう可能性があるらしい。でもバスは走行距離から考えてメーカー保証外だから、じゃないか?でしかない。」

私は疑問をさらにぶつけた。

「でもさ、そもそも100万キロ走った中古バスを使わなくたっていいんじゃない?何兆円も税金投入して復旧させるんだろ。」

「まあ、それはそうだが、予算が決まるとさらに経費を安くあげようってことかなあ。メーカー保証もないようなバスを運転して原発までよく走って行ったなってこともあるけど。とにかくそのときに運転席に運動神経のいい技術者がいたのが不幸中の幸いだった。他の人間ならバスとその中の技術者もろとも谷底落ちて1F最大の重大災害になっていたところだった。」

そう言うと瓢タンは、ふ~~と胸をなでおろすようにしてからグラスを空けた。

運命はどこでどう転ぶか、誰もわからないものだ。今回の事象で言えば、保証のないようなバスを使うなということだろうか。

それはどうとして、スナックのママはソープランドの経営者だったこともあるということで、私は女の話に話題を振った。

「それで女の方はどうなってる?」

「ああ、あの行為の女な。最近行為が先行してもそれはそれで相性なのかなと思うよ。ただし日常の生活で折り合いが付ければだね。」

「と言うと?」

「愛とか言っても、日常の積み重ねが愛情に変わるんだと思うよ、だから何気ない日常でうまくいくなら、あとは時間さえ経てばそれでいいんじゃないかな。」

「好きか嫌いかと言えばどっちになる?」

「行為以外には嫌いなところは見当たらないんだ、今のところ。」

そうか瓢タンはその女と所帯を持ってもうまくいきそうだと私は思った。ただし、お互いの両親兄弟など十分確認した方がいい。行為先行はとかく身持ちが気になる。

「行為と言えば俺はAVにお世話になってる。ネットで無料で配信しているのがいてそれをよく見るよ。無料じゃなくて有料でいいんだが、DVDを買うのは面倒なんだ。お金払うならAV女優に投げ銭で払いたいよ。AVメーカに払ってもいいけどDVD買うかどうかになっちゃうから、無料で配信しているのがあればそっち見る。」

「俺もAVはネットで無料で見るなあ。特にストーリーのあるエッチがいい。夏海エリって言う女優がいるんだけど、どこか近所のお姉さんていう感じがいいね。」

「AV女優に気が引けるから、ネット募金してみようかな。でも集めた金をどうやって女優に払うかだが。」

「セクハラとか強姦まがいの事件が多いが、男はオオカミ、歩くパンツの中はおっ立ちロケット生殖器、AVの利用の仕方がわからないのかな。常に溜まった精液抜いておかないから襲いたくなるんだろうな」

すでに二人とも酩酊していてその後どういう話になったかは覚えていない。その夜、私は瓢タンの住む寮の狭い4畳半の間に寝ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る