第6話 ヒアイル2

 天才魔道具師であり第二王女のヒアイル・ストレイジは王宮の小ダンスホールの隣の部屋から二人の様子を覗いていた。

 その口元はニヨニヨと楽しそうにしている。


(来たわね。リステン、ミルルちゃん。クフフフッ)


 今日、ダンスの練習を二人でするように話をつけたのはヒアイルだった。

 リステンとミルルミルの恋を応援するため、一肌脱いだというわけだ。

 そして、この小ダンスホールを選んだのも理由がある。

 ダンスホールに取り付けられている大きな鏡。

 その裏には小部屋があり、そこから覗き見ることができるのだ。


 これはヒアイルが昔開発した魔法鏡である。

 元々はリステンの部屋に仕掛けて覗くために開発したのだが、そのことが執事にあっけなくバレた。

 ただ、有用性を認められて、王宮のいくつかの部屋にはこうして覗き部屋が作られることになったのだ。


(恋愛はポンコツでもダンスは上手いよねぇ。わざわざ改良した蓄音機を持ってきた甲斐があったわ)


 リステンとミルルミルのダンスはヒアイルも見惚れるようなものだった。

 ちなみにヒアイルはダンスが苦手なので、ダンスに誘われても全て断るタイプである。


(まっセレモニーワルツは踊れるよね。手も触れないんだし。ここからだよ!)

 

 スタンダードワルツに曲が変化する。

 リステンとミルルミルは手を取り合って優雅に踊り始めた。


(やっぱ上手いなぁ……じゃないよっ! あんたたち動揺とかしないわけ!? すました顔しちゃって! んっ?)


 小ダンスホールの中を動き回るため魔法鏡に近づいてくることもある。

 その時に頬を染める二人の顔が見えた。


(やっぱ照れはあるんじゃん! もうちょっとこう態度に出すとかさぁ、あるでしょ? ないか。あの二人だからなぁ。頭の中はお花畑の癖に見た目は極寒なんだから。にしても、このままじゃ困るわね)


 実はこの件はヒアイルが計画したことだった。

 また、ミルルミルとリステンのベッドに細工をして同じ夢を見続けさせることにより、意識をさせる計画。

 また、ミルルミルの侍女やリステンの執事に協力を頼み、バレずに遂行している。

 前回のヒアイルプロデュース『お茶会でラブ撫で計画』が上手くいったこともあり、非常に協力的だった。


 ただ、今回はダンスである。

 侍女と執事に協力を要請しても動ける範囲は限られており、計画を手助けしようにもできないところだ。


(まぁいいか。こんな時のために特別な靴を用意しているんだからね)


 ヒアイルは杖を手に取る。


(うん! ミルルちゃんが後ろに足を引いた時が良いわね! ちゃんと受け止めてよ、リステン! んーーー今!)


 ヒアイルが杖を振った瞬間、ミルルミルの履いていた靴のヒールが折れた。


(ほらっ! そーう!! いいよっ! おっおおう! お姫様抱っこ!! 我が弟ながら最高じゃない! ここから……あれっ? どうした?)


 リステンの横顔を見ると表情が信じられないほど固い。

 リステンの表情はわかりにくいが、ヒアイルであれば多少はわかる。

 そして、今回はわかりやすいほどにリステンが反省していることを読み取った。 


(おおーい! 喜べよおおおおお! 抱きつかれてんだぞ! 最高のシチュエーションを用意したんだからあああ!)


 ヒアイルの心の叫びも虚しく、リステンはミルルミルをお姫様抱っこして意気消沈しながら出ていった。


(あのくそ真面目が! せっかく頑張ったのに! 一昨日徹夜で仕込んだのに! 遠隔で合図を出すと瞬時にヒールが取れる靴を作るのって意外と難しいんだぞ!)

 

 ヒートアップしたヒアイルは「スウウゥゥゥウ、ハアアァァァァア」と一度深呼吸して落ち着く。


(仕方ない。ヒアイルの考え方を予想するべきだったわ。それにミルルちゃんは嬉しそうだったから、まっ成功よね。可愛いミルルちゃんが見れたんだから、あのくそ真面目がっ! じゃなくて、次よ次。なんていっても街中デートなんだから気合い入れて行くしかないわ!)


 ヒアイルは今から作業を開始するため自室へ急ぐのであった。

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