第六章 国母オギヤカ
第1話 密命下る
大時の
葬列には、王府からの参列者も少なくなかった。
大時は、表向きは罪人である。むろん冤罪ではあったが、極刑であっただけに、王府も安易に過失を認めることはできない。おそらく取ってつけたような罪名が付されることになる、と予想された。
いずれにしても、罪人の葬儀に王府から正式に人は送れない。
彼らは、木田の呪いを恐れていた。
木田を
あの場のなりゆきで極刑が下された。みずからが加担した
尚真王もまた、非公式ながら護国寺の僧侶を
葬儀といっても、現在の告別式のような式典を
木田を惜しむ、白く長い葬列。(この時代の喪色は、黒ではなく白だった)
もの悲しく
そしてそのころ、首里や
木田の野辺送りのあと、府内では、
それでも、人の口に戸は立てられぬ。木田がはめられたらしいことや、孕んでいたネズミの子の数まで言い当てたこと、故意にウソの
そんな中で、あることが、男らの口の
葬儀のとき、龕のすぐうしろに、ひとりの麗人があったという。
女性が葬列に並ぶときは、
「おう、それならワシも見ましたぞ。あれはいったいどなたでしょうかな。大時のうみない(姉妹)でしょうかの」
「おや、ご存知ありませんでしたか。なんでも、木田どのの
「えっ。木田どのはてっきり
「ええ、ちょうど首里に迎える矢先であったとか」
そんな会話が、男らの雑談のまにまにかわされた。
その話はやがて、ある女神官の耳に入った。
悲しみの
それだけなら、俗な男どものたわいもない
だが、
木田との結婚が決まっていたというその女は、棚原の若ノロで、驚くべき霊力を持つという。
なんでも、自由に雨を降らせたり、人々の病を治したり、これから起こることを言い当てたりするのだという。木田もおよばぬほどの神術仙術の使い手なのだという。
苗はもうノロではなかったが、まだ「棚原の若ノロ」として名がとおっていた。
「ほう、それなら今度
男らは、そんな
その話は、女神官から、王母オギヤカに耳打ちされた。
「なんじゃと?!」
それを知らされたオギヤカの顔が、ひきつった。
神々を
そんなものを気にして、政り事なぞできるか。
みずからへも
そのような死霊生霊と通じる
木田の呪いも気がかりだったが、
たしか王子が
そのような女であれば、木田を殺された
オギヤカは、そうかんがえた。
みずからが
しばし、にがにがしい面持ちで思案していたオギヤカが、チッと舌打ちひとつ。
老顔にきざまれた
「わかっておるな。くれぐれも、内々に、の」
女神官はごくりとつばをのみ、ははっ、とオギヤカの前に平伏した。
女を、殺せ――。
オギヤカの鋭い眼光が、そう命じていた。
幼童の尚真を王位につけて権勢をほしいままにした、かつての女帝オギヤカ。
「
「出遊する王母は、
とある。
「少し遅れて後ろにつづいた年十余歳ばかりの幼君は、輿ではなく馬にのっていた」
と、当時のオギヤカの権勢ぶりを伝えている。
しかし尚真王は、いつまでも母親にあやつられているほど愚鈍ではなかった。成長とともに、王たるにふさわしくふるまいはじめた。
オギヤカもまた、愛する我が子の成長を頼もしく思いながらも、自身の勢威が
そして、棚原の若ノロ暗殺、という密命をおびた刺客が、棚原村へと向かっていった。
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