第10話

彼女と再会してから、彼女は、僕に色んな事を話してくれた。


彼女がいなくなった理由。


彼女は獣医の資格を取ってこの街に帰ってきたこと。


<大学>と言うところで知り合った人と今お付き合いをしていること。


そして、その人ともうすぐ結婚すること。


それから、それから……、これからは僕と一緒に暮らしたいということ。


彼女は全部話した後、微笑みながらこう言った。


「わからないかな?わからないよね……。」


僕は、全部の話が、ちゃんと理解できたわけではないけれど、最後に彼女が言ったことは、ちゃんと理解できたから、めいっぱい首を横に振って、めいっぱいしっぽを振った。


彼女はそんな僕の仕草の意味を分かってくれたようだ。


彼女は確認するようにゆっくりと、一言一言丁寧に言った。


「ワンちゃん、私と、もうすぐ私達とになるけど……、一緒に暮らしてくれるの?」


僕はしっぽを振って答える。


僕も彼女もその日はずっと笑っていた。




僕は今、彼女と、彼女のだんなさんと一緒に暮らしている。


ずっと野良犬だった僕には夢のような生活で、毎日が幸せだ。


「彼女とずっと一緒にいたい」


この夢を今やっと叶えられた。


それから、僕にはひとつ分かったことがある。


僕が彼女に抱いていた気持ちの名前。


それは『恋』というものらしい。


いつだったか、彼女が通っていた学校から出てきた女の子が言っていた。


いつもその人のことを思っていて、ずっとその人と一緒にいたいと思って、その人に会えた日はとってもハッピーになる、そういう気持ちは、『恋』なんだと。


僕の『恋』は叶わなかったけれど、


別の願いは叶えられた。


いつも夢に見ていた、「一緒にいる」ということ。


僕は今、とても幸せ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る