第33話 Restartの合図

 社長の、出来事から一ヶ月がたった。大きく変わったことと言えば、リンさんが副社長になったこと。彼は、副社長として沙羅さんと寄り添い、助け合ってLeliveを支えていくことに決めたらしい。


「絶対、あの2人付き合ったほうがいいと思うんだよね〜。」


 メリサさんは、コソッと私にいった。私も、彼女と同意見だ。2人は、昔からの知り合いらしいし、最近、一緒に出かけることも多くなった。(会社での立場が近くなったこともあるが)


「まぁ、ゆっくり見守りましょうよ。」


 ユーゥさんが、話に割り込んで言ってくる。それに対して、彼女が反論をした。


「VTuberなんて、ぶっちゃけ結婚するのは大変なんだぞ! 完全に室内のインドアな仕事だし、結構ハードなスケジュールだし。私なんか、週に2回しか自炊できてないんだから!」


「まぁ、まぁ。メリサさん……。」


「良いよね! 結愛ちゃんは、まだ未来あるし。私なんか、あっという間にアラサーだよ。」


「一番の年上、僕なんだけどなっ!」


 そんな、会話をして笑い合う、Lelive。そして、


「話してないで、さっさと仕事をする!」


「は〜い」


 と、言い合えるような社長がいる、Lelive。私が求めていたものだ。


 ***


 平穏な日常が戻ってきた時、不意に思い出した。自分のことだ。あの声の言葉、【Skillが使えるようになるよ。】と言っていたことを。


 そういえば、まだ自分のSkillが使えなくなってから、1回もSkillを使ったことがなかった。


 都合が良いことに今日は、Leliveの事務所が空調設備のメンテナンスを頼んでいるので、仕事は特にない。久しぶりにダンジョンへ、行ってみたい。


 しかし、未成年なのは変わりないし……。単独での探索は認められてないだよな。


 そう思いながら、ダンジョン配信を見ようと配信アプリを開くことに。そして、目に留まるのはある配信。サムネイルに、大きく書かれているのは、


【視聴者参加型】


 という文字だ。ダンジョン配信での視聴者参加型配信は、その実況者(ある程度人気の人に限られる)が一つのダンジョンを1日だけ貸し切って、全員でダンジョンの攻略を目指す一大イベントである。


 配信予定なのは、4時間後のお昼の2時。配信場所のダンジョンを調べると、電車を上手く乗り継げば3時間くらいで着くことができるだろう。


「行くしかないな。」


 私は、そう言って素早く荷物をまとめ始めた。


 ***


 丁度三十分前にそのダンジョンに着くことができた。辺りには、私のように子供のダンジョン配信者姿や、しっかりとした人気配信者の姿もチラチラ確認することができた。


 この企画を運営しているダンジョン配信者の所属事務所の方たちが、参加者のSkillランクや、もしあるなら、所属事務所を聞くアンケートを実施している。もちろん、私のところにも彼らは訪ねに来た。


 しかし、こっちは単純なプライベート。所属しているLeliveは、関係ないものだ。


 そのため、配られたアンケートの紙にある


「なぜ、この企画に参加しましたか?」という問いに


「趣味」と、書いておいた。


(もちろん、Leliveに所属していることは記入している。スタッフさんに聞いたところ配信はしていないので、特に問題なくプライベートとして、取り扱ってくれるらしい。)


 ある程度のアンケートに答えて、辺りを見渡す。それぞれが、配信の準備をしているがある程度の人数でチームを作りダンジョン攻略するらしい。


 特にここは、ランクは中級ダンジョンでも死亡事故が多いダンジョンである。何回か、ダンジョン協会のランク再審査が行われたが、出てくる魔物も、構造も中級レベルのもので違いなかったらしい。


 少し、気を取り直さないとな。そう言って、背負ってきたリュックを背負い直した。


「参加者の皆さん。少し聞いて下さい!」


 大きな声があまりに広まり、ダンジョンの前に筋肉質の男性が台に立って話している。


「皆さん。お集まりいただいてありがとうございます。僕が、この企画の主催者であり、本企画の責任者を務めます。ダンジョン配信者のGOLNゴルンです。


 今回の探索では特に大きなルールはありません。それぞれで、すぐに移動してもらって結構です。しかし、最後の階層であるラスボスは、企画上僕が倒したい山場なので、もしも僕より先にボス部屋に着いてしまった場合は、勝手に一人で挑まず、待っているか、別の階層に移動してもらっても結構です。


 4時間後の午後六時には、ダンジョンから出てこれるように行動してください。ダンジョンを貸し切りしているのは、今夜の八時までなので、身勝手な行動は慎んでいただけると嬉しいです。


 それでは、皆さんでダンジョンを楽しみましょう!」


 彼の声に、たくさんの掛け声が合わさる。まさに、場は盛り上がっているのだ。


 しばらくして、時間なりそれぞれの配信者たちはカメラを回し始めた。生配信らしい人もいるし、動画勢の人もいるようだ。


 クセからカメラを避けながら、ゆっくりとダンジョンに潜っていく。この、ダンジョンの配信は何回か見たことがあるので、少し構造は分かっている。そのため、急いでまだ人が来ていない階層に下り、目につけているメガネを外した。


 試しに近くにあった、植物を見てみる。枯れるような現象は起こらない。やはり、まだSkillは戻ってきてないのだろうか。


 いや、試さないとわからないだろう。私は、リュックの中から短剣を取り出すと、もっと下の階層に走り出した。

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