第34話 司教と生贄と

「悪いこととと言うのはですね、コソコソやるからバレる物で、堂々としていれば人は気にしない物なんですよ。

 気にすることは無いんです。それが悪い事だと思ってるのは相手で、自分は悪いこととは思ってないのですから」


 ジュニパーという名前の彼は、魔法師団長という肩書きの割には、随分と気さくな男だなと私は思った。


 ……いやそれ、本人が悪いことをしてるって、自覚あるじゃん!という言葉は飲み込んで。


 今は朝の7時くらい。

 空は青く、街は早朝の市場が終わり、王都民の街から観光の街に切り替わろうとしている。


 散歩をするには良い時間かもしれないけれど、自分が置かれた状況は憂鬱以外の何物でも無い。


 昨夜、彼に連れて行かれた部屋には先客がいた。

 水色のドレスを纏った、金色の髪を輝かせた少女。

 一目で、この人が第一王女なんだな~と分かった。


 彼女は頭を下げて、私達を巻き込んだ非礼を詫びた。

 そして、これからのことを教えてくれた。


 それから三年前にやって来た先代勇者のマリトッツォさんのこと。

 いや、明らかに偽名でしょ!

 随分前に流行ったお菓子じゃん!


 そう言ったら、王女様も「私もそう思ってました」と笑っていた。

「だから、……今でもあの人の本当の名前すら知らないんです」と言った時には、ああ、彼女は彼が好きだったんだなと思った。


 でも馬鹿馬鹿しいのは名前だけで、彼はいい人で、王女様達に色々教えてくれたと。


 それが、王の馬鹿げた作戦で死んだ。


 その王が、今度は私を人体実験するんだって。

 何なのよ、この国。


 それで私を逃がす為に、ジュニパーさんが申請を出して、王女様が裏から手を回してくれるって。


 皐月……ナリちゃん達のことも、影から助けてくれるって言ってくれた。


 私はこの城の人達は信用していないけど、彼等の目を見ると、信じていいかなって思った。


 そして今、ジュニパーさんと二人で教会に向かっている。


 表向きは「私の【女神の枷】を、【聖女候補】の力で緩めることは出来るのか」という検証実験の為。

 実験が失敗して私が吹き飛ぶまでが織り込み済み。


 ホントは、こっそり逃げるため。

 一度修道女に化けて、ほとぼりを冷まそうという事らしい。


 大聖堂が見えてきた。


 皆、無事に向こうに帰ろうね!


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 暗い暗い空間。

 空気が淀んでいるから、地下かしら?


 気がつけば、ゼラは自分がT字の柱に固定されたまま立たされていた。


 大聖堂と同じ位の広さだろうか。

 よく分からない金属と、硬いロープの様な物があちこちに見える。

 金色よりも鈍い、銅で埋め尽くされた部屋。

 それが、この部屋のイメージだった。


「ようやく目覚めたかね」


 聞き覚えのある声が響く。

 そちらを向くと司教様がいた。


 いや、もう様なんて付けてあげない。

 この人は、ただのフォーブランだ。

 ゼラは司教を睨みつける。


「そう怖い顔をするな。自分がどの様になるのか知らないままでは可哀想と、待っていてあげたんだからね」


「では教えてください。どうしてこんな事を?」


「君は聖女を……聖女とは何なのか、知っているかね」


「聖女とは、人々を癒し守る女神リーンファーレ様のしもべです」


 だがその答えは、フォーブランが望む物ではなかった。狂ったように「違う、違う、違う、違う、違う!」と叫びだした。


「違うのだよ、ゼラ。全ては根本から間違っていたのだよ。

 聖女に力を授けたのは、女神などではないのだ。

 聖女に力を授けたのは、この世界の真の創造主たる三柱の神。

 聖女とは世界初を統べる為の生贄だよ。

 その贄を以て、今こそ聖なる三柱の神をこの世界に再び呼び戻すのだ!」

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