第32話 追いかけっこと失踪
王都の外に出るためには、門番の検閲を受けなければならず、それなりに時間がかかってしまう。
その為、追っ手の目を盗んで王都の外に出るのは不可能……という結論は容易に出た。
路地と呼ぶには広い、人が二人並んで歩ける程の道に入ったオレ達は、まだ大通りに残っている七原達に別れを告げる。
「それじゃ、まずは足止めの【ウォール】!」
と道の入り口に魔力の透明な壁を作る。
突然の事に通行人の何人かが、見えない壁にぶつかって困惑するが、御免!と言うしかないな。
もう少しすれば巡回騎士が来るだろうが、この壁に気づいて回り道を探すまで、時間を稼げるだろう。
魔力の壁は放っておいても数分で消えるので、そのままにしておく。
「よし、行こうか!」
と進行方向を向いた時、タイミングを見計らったように、上から顔を包帯で隠した四人の男が降ってきた。
グレイが剣を抜くと、周囲で通行人が悲鳴をあげる。
剣を避けようと距離を取ろうとするが、如何せん左右が建物に挟まれた、決して広くは無い通りだ。
しかも一方は魔法で通せんぼしてしまっている……オレが。
本当に申し訳ない。
「ダメだグレイ!」
この広さで長い剣を振れば、無関係な人に被害が及ぶ可能性があると、グレイを制したオレは自分の愛剣であるファルカタを抜いた。
ダンジョンでも振りやすいサイズで、少し反った形のファルカタは、グリップの先端に魔石をはめた特注品。
魔力を通すと刃を水が包む。
この水を厚く硬くすれば、人を叩く事は出来ても斬ることは無い。
両刃の剣でも峰打ちモドキが出来るって寸法だ。
しかし、そんなオレの心を全く読まない弟子は、
「師匠。斬りますか?」と訊ねてくる。
まあ、無関係な人を巻き込まなければ斬ってもいいんだが、往来で殺人は見た目にも拙かろう。
「一般人にショッキングなのはダメだ。オレが行く!」
オレはファルカタを逆手に持つと、体を回転させて先頭の男を蹴飛ばし、その勢いのまま隣の男の頭をファルカタでぶん殴った。
そのまま体を低くして、返す勢いでファルカタを三人めの脇腹に叩き込み、四人めの足を払って転ばせる。
最後に転んだ男の頭にファルカタを振り下ろして意識を奪った。
「一瞬ですか……」
と呆れた様子のグレイが呟く。
セルディは「流石、師匠です♪」と笑っていた。
貴族令嬢が神経太いのか? セルディが特別なのか?
まあ今はどうでもいいか。
「行き先は教会でいいよな。近場があれば、そっちでもいいぞ」
と訊ねれば、
「東教会が比較的近いですが、小さい教会ですので不向きかと。教会に戻るしか無いですね」
グレイが答える。
しかし、広い王都でピンポイントで狙ってくるとは……。
「コッチの動きが筒抜けなんじゃないか?
先日の誘拐未遂といい、大丈夫か?」
「返す言葉がありません。しかし他に行ける場所は王都にありません」
グレイが渋い顔をする。
教会関係者は、全員教会に住んでいる。
日常もほぼ教会内で完結しているので、外との繋がりは殆ど無いのだろうが。
「宗教が民衆に寄り添う物なら……ってのも含めて、今後は在り方を考えた方がいいかもな。
んじゃ先頭はオレ、三人でゼラを守って
「クウォン殿にお任せします」
「殿任されました」
誰が裏切り者か分からない以上、部外者が指揮を執った方が安全だろう。
騎士達はオレに従うこととなり、教会を目指した。
巡回騎士との遭遇は、美夜の尻尾ナビでなんとか免れたが、その分遠回りになった。
さらに突然民家の窓や小道から現れる包帯男達には手を焼いた。
美夜は隠れ場所を把握出来ていたかもしれないが、離れていたのでコミュニケーションを取る手段が無いのが痛かったな。
路地を彷徨いはじめて自分の現在位置があやふやになって来たので、目的地までの誘導を優先したというのもある。
結局、何とか教会に辿り着けたのは、日が傾きはじめた頃だった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「どう言うことですか?」
珍しく皐月が声を荒げる。
王城に帰ってきた彼等を待っていたのは、城の兵士達による拘束だった。
彼等を指揮する騎士団長。
その隣には魔法師団長がいた。
騎士団長は一歩進み出ると、皐月達に冷たく言った。
「貴方方には、逃亡の容疑が掛かっています」と。
「そんな! 逃亡なんて考えてません!」
悟史が兵士を振り払おうとするが、力では敵わない。
教会までは良かった。しかし、冒険者ギルドで身分証を作った事に疑惑を持たれたらしい。
「無実であれば、抵抗されない方が身のためです。容疑が晴れるまでの措置ですので、暫くの間だけのことですので。
それまでは、
それでは」
と、騎士団長が皐月と悟史を拘束する兵士に指示を出し、歩き始めた。
「私達だけ? ミクは?」
皐月の声に騎士団長は、
「【弓の勇者】殿は、魔法師団長の担当です」
とだけ告げた。
有無を言わさず引き離される皐月達と友美。
友美は「大丈夫だよ。すぐだよすぐ!」と軽く手を振っていた。
それが、皐月達が見た友美の最後の姿だった。
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