第1話

ーprologueー







あの夏は夢だったんじゃないかと、




今でも思う。





どこまでも続く青い空。





太陽、波の音、風、潮の香り、水面の煌めき。








そしていたはずの彼も。








その全てが、シャボン玉が壊れるかのように、



パチン



と、一瞬で消えてなくなった。



そこから




時計の秒針が一秒ずつ進むように、



一定のリズムで



時を刻んで流れていった。







もう…何十年とたっただろうか。







五月も半ばを過ぎ、



街路樹の新葉が陽に光り



水々しくキラキラとしていた。





カラッとした風が気持ち良い。





普段と変わらない




見慣れた風景、見慣れた道を、




私は自転車で走っていた。






風が頬を通り過ぎる。








夏の始まる匂いがした。







自転車を漕ぎながら、






空を見上げる。






まだ



夏の日差しとは程遠い太陽の周りには、



澄みきった青空が、



眩しいくらいに広がっている。





目を閉じれば、





霞んでみえる笑顔の彼がいた。






キキィーっと、ブレーキをかけ自転車を止めた。





遠い記憶の中、




胸の奥で





ずっと、ずっと





忘れることができない想いがこみ上げる。









「逢いたいよ… 迎えにきて」









今も伝えられない想いに、




苦しくて




苦しくて、





倒れそうになる。

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