第47話

「昨夜、ジーヴル様が僕のことを守ってくれるといったとき。とても嬉しかったんです……でも、守られるだけの存在は嫌だと思って。もちろん、魔法では遠く及ばないけれど、それ以外の部分で少しでも、僕もジーヴル様を守れる存在になりたいと思ったんです。そのためには、父に関する傷と向き合わないといけないと思って。だから、実は、今日、どこかで父に遭遇できないかなとは思っていたんです。そして、実際会えたのは、運が良かったです」

 父と別れた後、さすがにそのまま公園で過ごす気にはなれず、クラネとジーヴルは邸に戻ってきた。

 クラネにあてがわれた客室でベッドに横並んで座って残りのパンを食べ終えてから、クラネは昨夜に考えていたこと、そして父と話したことを話した。

「意気込みは素晴らしいが、お前を待っている間も駆けつけた時もひやひやしたぞ」

「う……すみません。それに、結局、ジーヴル様に守ってもらっちゃいました……ありがとうございました」

「私がお前を守るだけで済んだのは、お前が頑張って戦ったからだ。それに、私を守りたいだなんていうのは、お前くらいのものだ」

 ジーヴルはクラネの頬をそっと撫でて、黄金の瞳を細めた。

「そして実際に私を守ってくれたのも、お前だけだ。お前はもう、何度も、私を守ってくれている。ありがとう。クラネ」

 自分は、大したことはできていないのに。

 それなのに、目の前の人はたっぷりの愛おしさを込めてクラネを認めてくれる。望んでくれる。胸が締め付けられすぎて、苦しくなるほどに。

「疲れただろう。星を見るまでにはまだずいぶんと時間があるし、しばらく休むといい——」

「あ、の」

 ベッドから立ち上がろうとしたジーヴルの袖を、クラネは掴む。

「……さっき。お手洗いに行く前なんですが。本当は、ジーヴル様にキスをしたかったんです」

「ああ、私もされるのではと期待していた」

 う。まぁ、あれだけ顔を近づけていたら、バレて当然か。

「今も、ジーヴル様が愛しくて……したくて。あの、キス、してもいいですか」

 瞬いたジーヴルは浮かせていた腰を戻すと、クラネの方に顔を寄せる。

 そのまま唇が重ねられるかと思ったら、すんでのところでジーヴルは止まった。

「ああ、お前がしてくれるんだった。私も愛おしさ余ってするところだった」

「えっと……一緒にしますか?」

「ふ、それはいい」

 そしてどちらからともなく、クラネとジーヴルは唇を重ね合わせる。

 熱くやわらかに、何度か角度を変えて重ね合っているうちに、ジーヴルの舌がクラネの口唇を割って入ってくる。

 くらくらするキスが、くる。緊張するけれど、当然嫌なわけではない。

 自身の舌にジーヴルの舌が絡んでくるのを必死に受け止めながら、時折与えられる息継ぎの間に精一杯酸素を吸い込んだ。

 キスを何度も交わしていくうちに、その熱に溶かされるように体からも力が抜けていく。

「ん、ぅ……ん……」

 じゅ、と舌がジーヴルの舌に吸われると、クラネの全身に甘い痺れが走り、そのままくったりと背後に倒れてしまう。それを追うようにジーヴルはクラネの体に覆いかぶさった。青みがかった淡い緑色の髪が、カーテンのようにクラネの傍に垂れる。

 舌が絡み合う深いキスが続く。頭がくらくらとしてきて、熱い。けれど、なんというか……とても、気持ちがいい。

 気づけば腕が勝手にジーヴルの方に伸び、彼の背に手を回していた。

「ジーヴル様……」

「……クラネ。これ以上すると、おさえがきかなくなりそうだ」

 これまでにも何度か、ジーヴルはクラネにそんなことを言っていた。おさえがきかなくなると、もっとクラネに触れたくなると。

 抱きしめて、キスをして、これ以上触れることはできるのだろうか。クラネには分からないが、ジーヴルはそれを、知っているのだろうか。知っているのなら。

「おさえなくて、いいですよ」

 キスで乱れた呼吸の中、クラネがそう言うと、ジーヴルの瞳がにわかに、獰猛なきらめきを宿した。

「本当に、お前は……」

 深く息を吐いたジーヴルは、これまでのキスでさえも激しかったのにそれ以上に、噛みつくようなキスをクラネに注いだ。

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