第2話 自宅謹慎って異世界にもあるんだね

「あなたが、宮廷魔術師……?」

「そう」


ぽかんとした私の顔をどこか楽しそうにフェルドは眺めている。


「だとして、どうして私を……?」

聖女とかって、国の危機を回避するために王命で召喚されるようなものなんじゃ……」

「……君はほんとうに、怖いくらいに物知りだね」

今度はフェルドがぽかんとする番だ。


「あぁ、えっと……なんていうか、異世界召喚モノが流行ってて、一般常識になっているというかなんというか……」

「流行っている?」

フェルドは美しい眉毛をハの字に寄せると、ぶつぶつと呟き始める。

「そうか……少なくとも僕たちの世界とリイサの世界があるわけだから、それ以外の異世界が複数存在してもおかしくはない、のか。そして頻繁に召喚が行われるほどにリイサの世界の住人は聖なる力を潤沢に持った人間が多いと。なるほど……」


日々自堕落に生きてて聖なる力とは程遠そうな人が大半ですとは言えない。

全然なるほどではないけど、納得してくれたようでなによりです。


「まぁ、そうだね。うん。話が早いのは助かるよ」

しばらくぶつぶつと呟いた後、ややあってフェルドは私の方へ向き直った。


本来、国家レベルでの召喚儀式が執り行われ、聖女は厳かに迎えられるべき存在であることは間違いないようだ。

フェルド曰く、今回はとある村に瘴気の被害が蔓延し、被害拡大の阻止および村の救済のために聖女召喚を国王に進言したが受け入れられなかったと。

被害規模の小ささや、現状の国家予算の都合とか、色々な事情があったにしろ、しつこく聖女召喚をと進言してくるフェルドを疎ましく思った大臣の策略で、「私欲のために聖女を利用しようとした」として彼は現在自宅謹慎を食らっている真っ最中らしい。


「それで、個人で召喚を行ったと?」


「そう、緊急事態だったからね。

 今瘴気被害にあってるのは……ここ、僕の故郷であるリント村なんだ」


そう言いながらフェルドは、窓から外の景色を見るように促す。


窓枠から覗いた村の景色は一見のどかだったけれど、どこかモヤがかかったように灰色がかっているような…。

遠くに見える畑には、その灰色のモヤが一層濃くまとわりついて濁っているようにも見えた。

なにか嫌な感じがして、私は窓から一歩後ずさる。


「見えたんだね?」

「灰色の…濁ったモヤが…」

「それが瘴気だ。魔力のない一般人にはほとんど見ることはできないものだよ。」


魔力なんて言われても全くピンとは来ないけど、あのモヤが「よくないもの」だというのは、直感的に解る気がした。


「聖女には、瘴気を浄化する力があるはずなんだ」


高い位置にあった整った顔立ちが、すっと低い位置に移動して、必然的に私はフェルドを見下ろす形になった。

先ほどまで少し揶揄うような素振りのあった美しい男が真剣な表情で私の足元に傅いている。

窓から入る陽の光で、いっそ輝いて見えるイケメンっぷりだ。


「聖女リイサ。改めてお願いしたい。

 故郷リントを、君の聖なる力でどうか救って欲しい」


「……ひゃい」


あまりの顔面力の強さにドギマギしすぎて、返事が間抜けになったかもしれないのでそこは聞き流してほしい。

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