第10話 叛逆龍リベリオンフレア・ドラゴン
後攻7ターン目 門屋イツカ
「ドローします……」
イツカは山札からカードを引く。
手札に加わったのは《パイルバースト・ドラゴン》。
本来ならこのカードで再びチノの場を一掃できるのだが、《守護大帝エイゼル》によってそれは不可能となっている。
他に持つカードも今は役に立たない。
伏せられているエースに手を振れる。
だが何もすることなく手を放した。
「僕はコストを獲得してターンを終わります」
《パイルバースト・ドラゴン》を墓地に送り、コストを獲得。
それでイツカはターンを終えた。
先攻8ターン目 望月チノ
「ドロー!おっ、これはこれは……」
チノは引いたカードを見てニヤリと笑う。
「私は《守護伝令サプライー》を召喚!
場にあるガーディアンの数、カードを引くでござる!」
《守護伝令サプライー》を含めチノの場にガーディアンは5体。
山札から5枚引くことになる。
そしてその中から1枚、イツカにカードを見せつけて使用した。
「ダメ押しでござる!私は《守護大帝エイゼル》を召喚!
効果により私のガーディアンは場を離れないでござる!」
「2体目っ!?」
「複数積むべきカードは積んでおくべきでござる~。
これで仮に《パイルバースト・ドラゴン》が出ても問題ないでござるな。
さーて攻めるぞー!まずは最初に出した《守護大帝エイゼル》で攻撃!」
《守護大帝エイゼル》が横向きにされ、攻撃を繰り出す。
防ぐことのできず、そのままガードポイントを削られていった。
「チェックします」
山札の上を捲る。
1枚、2枚とカウンターは無く、手札に加わる。
そして3枚目……。
「カウンター!
《パイルバースト・ドラゴン》!」
「残念!私のユニットは無敵でござる!
《守護共鳴リンクス》で攻撃!」
攻撃は止まらない。
勝ちを確信しているのか、浮かべた笑みを崩さない。
だが、イツカは最後まで諦めてはいなかった。
「チェック4枚目、無しです
5枚目……きたっ!!カウンター!」
「ふふっ、何が来ても赤のカウンターでは私の軍勢は止められないでござるよ」
「そうですね……確かに赤のカードならダメだったでしょう」
「ござっ?」
その言葉にチノは首を傾げる。
イツカは手に持つカードを見せつけた。
カードの色は黄。
「なぁ!?」
「術式≪神罰極光≫!!効果により相手のユニットは全て行動済みになる!」
「光のカード!?赤のデッキに!?」
「確かに色を混ぜるのは珍しいことですが、無いことじゃないでしょう?
現に、ほら」
隣でプレイを見ているウタウを見る。
ウタウはそれに対してやれやれを首を振りながらも少し嬉しそうにしていた。
「水紋後輩の入れ知恵でござるか!」
「言い方悪くないですか?」
「でござるが、まだ状況はこちらが有利!
私のユニットはいまだ健在ゆえ、次のターンで仕留めるでござる!
ターン終了!」
後攻8ターン目 門屋イツカ
「僕のターン!ドローしてコストを獲得。
1コスト使用して、術式≪弾丸突撃≫!
これによって次に召喚するユニットに速攻を与えます!
エースシステム起動!エースカードを公開して使用!」
エースカードを表側にし、バトルエリアに出す。
そのカードは《デストラクション・ドラゴン》でも《マグマヴォルケーノ・ドラゴン》でもない。第三のエース。
「《叛逆龍リベリオンフレア・ドラゴン》!!」
叛逆龍リベリオンフレア・ドラゴン コスト:8
タイプ:ユニット カテゴリ:フレイム・ドラゴン
【効果】
このユニットがバトルに勝った時、相手のガードポイントを1つ破壊する。
このユニットの攻撃が終わり、攻撃中にユニットとのバトルに勝っていたらこのユニットを待機状態にしてもよい。
パワー10000 ブレイク:2
「続けて術式≪勝利の鼓舞≫を発動!ユニット一体に『攻撃する時、墓地の赤のユニット一体につきパワーを+1000する』効果を与えます!
選ぶのは《リベリオンフレア・ドラゴン》!」
「まさか連続攻撃でござるか!?」
「離れないのが仇になりましたね。先輩のユニットにはサンドバッグになってもらいます!
《リベリオンフレア・ドラゴン》で《守護大帝エイゼル》に攻撃!
付与された効果によりパワーが上昇し、バトルに勝つ!
《リベリオンフレア・ドラゴン》の効果でガードポイントを破壊!」
チノは苦い顔でチェックを行う。
カウンターは無い。
「《リベリオンフレア・ドラゴン》の効果で自身を待機状態に。
再び《守護大帝エイゼル》に攻撃!」
「うぐぐっ、チェックを行うでござる……カウンターは無し」
「もう一発!」
「チェック……カウンター!術式≪神罰極光≫!
これで門屋後輩のユニットを全て待機状態に!」
「ですがその効果の後に《リベリオンフレア・ドラゴン》は起き上がります!」
「ぬわー!?」
続けて《リベリオンフレア・ドラゴン》の攻撃により、チノのガードポイントを全て削り、残るはダイレクトアタックのみとなった。
「これでダイレクトアタック!」
「と、止められないでござる~!!」
チノは大きく仰け反り、攻撃を受け止めた。
ピンチを乗り越え、逆転勝利。
高鳴る鼓動を感じながらグッと手を握った。
■
「いやぁ~、流石は水紋後輩の後輩。
先輩の先輩として鼻が高いでござる」
「すんごいややこしい」
広げたカードを片付けながらチノはイツカを褒める。
褒め方が少々変だが、悪くない気持ちになった。
その横からウタウが手を伸ばし、イツカのカードを何枚か取る。
「でもあれね。流石にガーディアンを意識しすぎかもしれないわ」
「んー、そうですかね?
《パイルバースト・ドラゴン》はいい感じに仕事したと思うんですけど」
「それでも4枚差し込むのは多いわ。
《コール・ドラゴン》いるなら2枚ぐらいでいいんじゃない?カウンターも《神罰極光》があるんだし」
「うーん、でもなぁ」
「変にトラウマ植え付けられてるわね……」
反省会兼次のデッキ構成をあーでもないこーでもないと言い合いながら構想を練っていく。
二人の様子を見てチノはクスリと笑った。
何事かと二人がそちらを見ると「あぁいや」と手を振る。
「そうやっているのを見るとここにいた時のことを思い出してでござる」
「そうなんですか?」
「そうでござる。いやー、懐かしや懐かしや」
チノは腕を組みうんうんと唸る。
「さて、門屋後輩の腕前を見たことだし私はここらへんでお暇するでござるよ」
「もう?せっかくだから私とも対戦してくださいよ」
「え、嫌でござる。水紋後輩は勝っても負けてもアホほど時間盗られるし」
「ちょっと?」
「ははっ、冗談でござるよ。ちょっとこの後に用事があるでござる」
「そうですか。じゃあしょうがないですね」
「また今度対戦するでござるよ。
それでは、アデュー!!」
チノは別れの挨拶と共に教室を出て行った。
その背を見送り、デッキを見直そうとカードを纏めていると「あれ?」と気が付く。
「どうしたの?」
「先輩、望月さんに僕のことを話しました?」
「えっ?いや、話してないけど……どうして?」
「望月さん。最初に『新たな後輩の顔を見に来ようかと』って言ってましたよね?
それに」
『赤の速攻デッキと聞いていたでござるが、さっきデッキをいじっていたのを見るに戦い方を変えたでござるな?』
「ちょっと考えすぎですかね?
一応、小さなとはいえ大会に出てるからそこで知ったとか言われたらまぁ、そうかって話なんですけどって先輩!?」
いつかの言葉を聞いてウタウは駆けだしていった。
イツカもその後を追いかける。
教室を抜け、旧校舎の昇降口まで。
そこでウタウは立ち止まっていた。だが、チノの姿は無い。
「先輩、急にどうしたんですか?」
「……いや、何でもない。
そうね。きっと大会に出てたから情報が回ったのでしょう」
「そう、ですね?」
そういうが、ウタウはどこか納得していないようだった。
しかしこれ以上追及しても意味が無いのが分かっているのか、何も言うことは無かった。
「まぁそれはそれとして次の大会に向けてデッキ調整するわよ」
「えぇ、僕もう疲れたんですけど」
「デッキが割れてるってことは対策されやすいって事よ」
「それこそ考えすぎじゃないですかね?」
「生意気言うなら無理やり黙らせてもいいけど?」
「ヨロシクオネガイシマス」
「素直な後輩で嬉しいわ」
横暴だ。と思うがそれを言葉にしたら何をされるか分かったものでは無いのでイツカは胸の内にしまっておくことにした。
■
学校から離れ、道を歩くチノ。
その隣の道路に白いリムジンが通りかかる。
リムジンのドアが開き、チノはその中に乗り込むと車内には茶髪の男が足を組んで座っていた。
「様子はどうだった?」
「元気そうでござったよ」
「そうか、それはよかった」
「しかし、わざわざ私に行かせるくらいなら自分に会いにいけばよいのではござらんか?」
チノは呆れた顔で男を見る。
男はフッと笑い髪をかきあげた。
「僕は妹に嫌われてるからね。
あったら顔が潰れてしまう。物理的に」
「どんだけ嫌われているのでござるか貴殿……」
「で?あの子に近づいた虫はどうだった?」
なるほど、これは嫌われる。
なんとなく納得したチノはため息を付きながら正直に答えた。
「普通にいい子でござったよ。
むしろ門屋後輩の方が振り回されている感じでござる」
「何だそれはけしからん。羨ましい」
「けしからんのは貴殿では?
……ただ」
「ただ?」
「あのカードを持っているのは間違いないでござるよ」
「へぇ?間違いないのかい?」
男の言葉にチノは1枚のカードを取り出す。
それは先ほど対戦に使用したカードではない。
チノ本来のエースカード。《死忍 ハンゾウ》。
それは淡く光っていた。
「色は?」
「そこまではわからなかったでござるが、まぁ使用デッキを見るに赤だと思うでござるよ」
「おいおい、そんな曖昧じゃ困るよ」
「そんなに急かさなくても近いうち陽の目を浴びるのではござらんか?
水紋後輩の夢はプロチーム結成なんでござるから、そのうちわかることになるでござ」
「はぁ~、しかたない。その時を待つことにしようか」
「そうするでござる。
じゃ、帰るから下ろして」
「なんだ、せっかくだからご飯でもと思ったが。
他のチームのみんなを誘ってさ」
「他にやることあるでござるよ」
「そうか……」
男は社内の壁をコンコンとノックするとリムジンがゆっくりと減速し、停車する。
自動でドアが開き、チノは降りた。
「じゃあまたよろしく」
男の声だけがチノを送りってドアが閉まり、リムジンが走り出す。
遠ざかっていくリムジンを見届けながらチノはぽりぽりと頭を掻く。
「《プロジェクト・エース》の開発元、ビルドサモナーズのCEOの湊カオル。
彼が水紋後輩の兄者とは、世の中わからないこともあるのでござるなぁ」
リムジンが見えなくなってもその場に立ち尽くし、ぽつりと呟く。
すると手に持つカード、《死忍 ハンゾウ》が明滅した。
「おっと、そうでござるな」
チノはカードをデッキケースにしまい、増えていく人混みの中にその姿を消した。
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