第8話 かつての

「そういえば先輩」

「あにー?」


 同好会で使用されている教室にて。

 イツカはカードとにらめっこし、ウタウはノートパソコンを開いていた。

 あれからイツカはいくつかの大会へ出場し、経験を少しずつ積んで力をつけていっている。

 次の対戦に向けて、カードがあるこの教室に足を運ぶのは日常になりつつある。

 多くのカードを見て、ある疑問が頭に浮かんだ。


「先輩ってなんでこの同好会に入っているんですか?」

「んっ?どうしたのよ急に」

「いや、先輩は既にプロでしょう?

 なんで同好会になんで所属しているのかなって。

 放課後なんてここに来るよりどこか別のカードショップとかに顔出すとか、家でカードの調整とかしないですか?」

「あー、それね」


 ウタウはノートパソコンを閉じ、ポットを手に取ってお茶を湯飲みに入れる。

 それを片手にイツカの正面に座った。


「この『ボドゲ同好会』には他に人がいたのよ」

「その人たちは?」

「みんな卒業しちゃった」

「あぁ~、そういやそんなこと聞いたような」


 最初にウタウを探すときに、ウタウの友人に聞いたことを思い出す。

 つまり最初から一人で作ったわけではなく、元々あったところに入ったというわけだ。

 ウタウは懐かしそうな顔をしながらイツカが広げているカードの一枚に触れる。


「別に私は入るつもりはなかったんだけど、当時の先輩たちがプレイヤーでね。

 まぁ近場で腕を確かめるには丁度よかったの。

 ちなみにこのカードたちは先輩たちの置き土産」

「へぇ~、だからこんなにあるんですね」

「私が集めたのも混ざってるけどね」

「他に人を集めようとは思わなかったんですか?」

「別に思わなかったわね。

 私がプロ活動する上で都合のいいカードの保管場所ってだけだから人を増やそうとは思わなかった」

「……そもそもなんでプロってことを隠してるんですか?

 学校とか他の生徒にバレないようにあんな格好までして」


 ついでとばかりに前々から思っていたこともウタウに問う。

 ウタウは「うっ」と少し気まずそうな顔をして湯飲みを置いた。


「この学校ってバイト禁止なのは知ってる?」

「そうらしいですね……えっ、それ気にしてるんですか?」

「いや、一応お金貰うようなことをしてるからバレたらどういった処分を受けるかわからないし」

「なんでこの学校に来ちゃったんですか」

「知らなかったのよ!

 プロ資格をとってから知ったの!」


 意外と抜けてるとこがあるんだなと思い、カードを動かす手が止まる。


「待ってください。

 先輩、そんな校則違反になりそうなことを僕にもやらせようとしてるんですか?」

「変装道具渡したでしょ?」

「あれってそういう!?なんかあったら嫌ですよ!?」

「大丈夫よ。まだバレてない」

「変な自信をつけてる……」

「水紋後輩は昔からそういうとこあるでござるからな」

「昔から暴君と」

「失礼ね。またコテンパンにしてあげましょうか?」

「話に負けそうになるとカードを取り出すのやめません?」

「そうそう。それで負けると勝つまでやるから厄介でござるのよな」

「……あの、どちらさまですか?」


 ナチュラルに会話に混ざってきていた『ござる』口調の女性に顔を向ける。

 その女性はいつの間にか淹れたお茶をズズッと一気に飲み干し、湯飲みを置く。

 そして両手を前に出して組み合わせる。


「あいや失礼した新たな後輩。

 私の名前は望月チノ。ここのOGでござる」


 普通の洋服を除けばコッテコテのニンジャイメージを張り付けた女性だった。

 イツカはウタウの方を見ると何も気にしてない様子でお茶を啜っていた。


「えっ、ノーリアクション?」

「チノ先輩が唐突に顔を出すのは今に始まったことじゃないから」

「そんな寂しいことを言わないでほしいでござるよ~。

 最初の頃はあんなにびっくりしていたのに」


 およよ~とウソ泣きをしながらウタウに抱き着こうとし、それを防がれてる。

 OGということはここの卒業生で、会話の内容からするにこの同好会の一員だった人だろう。


「ところで何しに来たんですか?

 またカード取りに?というか、そろそろ他の人にもカード取りに来るよう言ってくれません?私が卒業する時に全部片づけられませんよこれ」

「その時はどっかのショップに売却していいって言ったじゃないでござるか」

「また適当な」

「まぁそのうち伝えておくでござるよ。今日は別件で来たでござる」

「別件?」

「うむ。新たな後輩の顔を見に来ようかと」

「僕ですか?」


 完全に蚊帳の外に置かれていると思っていたので、急に話を振られて驚く。

 いったいどういうことだろうか?と首を傾げているとチノは腰に付けたデッキホルダーからデッキを取り出した。


「駆けつけ一戦。どうでござるか?」

「いきなりですか」

「プレイヤー同士の挨拶と言えばこれに限るでござる。

 互いの性格も、気持ちもこれで伝えることが出来るでござるからな」

「いいじゃない。チノ先輩はプロではないけど腕は一級品よ。揉んでもらいなさい」

「はぁ、しょうがないですね」


 イツカは広げたカードをまとめ、デッキにして対戦の用意をする。

 不満げな顔になりながらも対戦を受け入れるイツカは既にプレイヤーの気質に染まってきていた。

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