中田家の屋敷にて
いつの間にか夕刻が近づき、日に照らされてできる地面の影が伸びてきている。
「やあ、立成」
声をかけてくると、情侑は手にしていた
「なぜ、ここに」
「俺は俺の方法で、
情侑は話しながら屋敷に目を向ける。
「俺がわかったのは、この屋敷にいる誰かが文を書いたということだけ。君は何を掴んだ?」
「ここは我が家の重臣、中田家の屋敷。ご子息の
「なるほど、ね。化け物との戦いで、何らかの呪いを受けたのかもしれない。そう考えると納得はいくよ」
情侑はそれから、立成に向かって片目を閉じてみせた。
「ということで立成。俺もこの屋敷に入りたいな」
「入れればいいが。俺の屋敷に迷惑をかけて、出入禁止になったのを忘れたのか。その話が広まっていたら駄目かもしれない」
「まあ頼むよ立成。そこをなんとか。……人の命がかかってるんだ」
最後の言葉だけ、笑いが全く含まれていなかった。立成はその様子を見て頷き、中田家の門に近づいていく。
中田家の門番は情侑のことを知っていたものの、情侑が立成の屋敷で起こした事件については知らなかったようで、情侑のことも通してくれた。
「ほら、杞憂だったじゃない」
何やら情侑が言ってきたが、立成は聞かなかったことにした。こういう時は相手にするだけ無駄だとわかるくらいには、付き合いは長い。
立成が、雅に会いに来た旨を伝えると、門番は嬉しそうに取り次いでくれた。
「最近、若は元気がなさそうなものですから。どうか、元気づけてやってください」
門番たちは、雅が今日、立成の屋敷を訪れたことは知らないようだ。
立成が雅の部屋を訪れるのは初めてのことで、一人の門番が
「この先が、雅様のお部屋です」
門番を先頭にして、立成たちは廊下を歩いていく。道中、情侑が立成にささやいてきた。
「立成。間違いない、この先に呪いを感じる。気をつけて」
ちょうど、門番が雅の部屋の前で止まった。
「雅様。立成様とそのご友人の術師を連れて参りました」
「わかった。お前はそのまま下がれ」
「承知致しました」
門番は
立成は情侑に目配せしてから、襖に手を掛けた。
「雅殿。失礼致す」
すっと襖を開けると同時に、情侑が息を飲む。まだ夜ではないのに、部屋の中には寝具が出されていて、その上に雅は座っていた。
「これはこれは立成様。お久しぶりです。そして、術師殿。お初にお目にかかる、中田雅と申す」
雅は立成と同い年のはずだが、武人にしては線が細い。心なしか顔色が悪いように見える。
「術師殿、もしや、落とした文が届いたのか」
情侑はその問いに答えなかった。怪訝に思った立成は振り返り、情侑が部屋の1点を見ていることに気づいた。
視線の先、机に置いてあるのは鉢に植えられた花だ。紅い花で、百合に似た大きな花弁を持った美しい1輪。
その花を見た瞬間、立成の脳裏に浮かぶものがあった。文に書かれていた、繰り返し見る紅い夢。
立成がよく見ようとして、花に近づこうとした時だった。
「近づかない方がいい」
情侑がようやく声を発する。
「それが、呪いの根源だ」
答えるように、紅い花弁がわずかに揺れた。
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