02


  ──そこに書かれていたのは、かき揚げのレシピだった。

 かき揚げ。覚えている。祖母の得意料理のひとつだ。ある時はざる蕎麦と一緒に、またある時は天つゆをかけて丼に。

 『材料』の項目を見る。祖母が作るかき揚げは4種類の具材が入っていた。

 玉ねぎとにんじん、大葉。ただし俺の分だけ、大葉ではなく三つ葉だった。一番下に書かれた文の通りに。大葉が苦手だった俺のために、祖母はわざわざ違うものを作ってくれたのだ。

 それから、具材はもうひとつ。

 「オトナギ……」

 脳裏に記憶が甦る。


 祖父母宅に行くと、いつも玄関に木製の檻が置かれていた。

 大きさは小型犬が1匹か2匹入る程度。かなり古いものなのか、ヒビ割れや釘を抜いたような跡、赤褐色のシミのような汚れが目立っていた。普段は空っぽの状態で置かれていたが、月に数回ほど、祖父が『仕事』で捕まえてきた生き物が中に入っていることがあった。

 狐のような耳を生やした、全身が真っ黒で頭と尾がそれぞれ3つある、細長い魚の形をした生き物。

 人間の手によく似た形で、内側に牙がびっしりと生えた丸い口を持ち、そこから伸ばした黄色い舌で格子を舐め続ける生き物。

 三角形の目玉をぎょろぎょろと忙しなく動かして、まるで命乞いのように粘ついた赤い涙を流す、手足のない生き物。それらは全て、祖母の手によって食材として調理され、食卓に並んだ。

 祖父は言っていた。あの人が作るものは世界で一番うまいんだ、と。どんな食材を使っても美味しくできてしまうんだ、と。


 そこまで思い出して、俺は気付いた。

 俺はあの生き物たちの捕まえ方を知らない。思い返せば、祖父が生き物を捕まえる場面を、一度も見たことがない。

 気が付けばいつも、あいつらは檻の中にいた。

(……できるのか?これ)

 不安になってきた。ここに書かれている通りの食材がなければ、祖母の料理を再現することができない。何か別のもので代用したとして、記憶の中の味とは程遠い、ただの平凡な料理が完成するだけだ。あの生き物たちを使わないと。

 でも、どうやって……。

侑哉ゆうや。何やってんの」



 

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