第3話 私に足りないもの

「そうなんだ、遊颯にそんなことを」

「はい……」


 私はマネジャーに呼び出されていた。

 怒られるのかと思っていた。

 だけど違った。まるで怒られる雰囲気がない。


 それどころか、笑われている。

 完全に失望され、嘲笑の的にされていた。

 こんなのはあまりにも惨めだ。私は悔しくて、拳を握った。


「夢芽なら」

「えっ?」

「アイツなら、もっと上手くやれるって言うんですか! 歌も踊りも演技は全て私が上の筈ですよね! マネジャーも知ってますよね!」


 私はついムカ付いて、勢いで叫んでしまった。

 心に火を点けると、爆発三秒前のダイナマイトと同じ。

 今にも吹き飛んでしまいそうな怒りで我を忘れ掛けるも、マネジャーはいつもと変わらない。


「そうね。実力もキャリアも貴女が上だけど」

「だけどなんですか! それじゃあダメなんですか!」


 私は力強く答え、マネジャーは困り顔を浮かべた。

 少し言い過ぎた? いや、そんな筈ない。

 マネジャーは私よりもアイツを、《天下無双》を待ってるんだ。私なんかじゃ、アイツには勝てない。アイツの引き立て役バーターになれって思ってるんだ。


「冷火、少し落ち着いて」

「落ち着けません。私とアイツ、一体なにが違うんですか!」


 私はマネジャーに強く当たった。

 するとマネジャーは黙り込んでしまう。

 困った顔をすると、私も我に返る。


「あの、ごめんなさい。私も言い過ぎたみたいで……」

「そうね、少し言い過ぎよ」

「反省します」


 シュンとなった私は、今すぐ消えたいと思った。

 だけどそんなことができない。私は魔法使いじゃない。

 唇を震わせていると、マネジャーはこう言った。


「冷火、少し外の空気を吸って来なさい」

「は、い?」

「そうね、公園にでも行って来たらどう?」

「公園、ですか?」


 如何して公園なんかに。

 この私がトレーニングでもないのに行く必要があるのか。マネジャーの考えていることは、全く分からなかった。


「あの、そこでなにをしてきたら?」

「なにもしない」

「えっ?」

「なにもしないで、ただボーッとしてくればいいわ。そこに、貴女に足りないものがある筈よ。多分ね」


 私に足りないもの? そんなのがあるの?

 分からない。そんな当てのないものが、昼下がりの公園にあるの?

 今日は休日。日曜日。あんな人が多い所に何もない。私は拒否しようとするが、マネジャーの指示を無碍にもできず、私は機嫌取りのためにも、一応こうえんにむこった。

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