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 基地の担当ホールより蜥蜴型甲級が確認された。当該個体は掃討戦など他作戦の妨げになると判断され、速やかに討伐作戦が立てられた。既に作戦の一部は実行され、隔離エリアに当該個体の孤立を完了。討伐に参加するチームは五人全員が特待生である。それ以外のレナトスは隔離エリア外周の警備に当たる。


 一人のレナトスは同時に二体以上のクリーチャーと敵対状態にならない。たとえクリーチャーの群体の真ん中でサングイスを顕現しても、敵対化するのは一体のみである。では何のための警備かといえば、やはり凶暴種エストルスなのである。人間を手あたり次第に襲う凶暴種エストルスは、可能性が低くとも必ず考慮しなければならない。もう一つ特殊な性質があって、他のクリーチャーと戦闘中のレナトスとも重ねて敵対化してしまう、というものがある。見境なくどんな状況でも敵対化する。それが凶暴種エストルスである。


 この特異種が甲級との戦闘に入り込むことは、二体目の甲級の誕生を意味する。よって警備は非常に重要な任務だと言える。重要だが、しかし、凶暴種エストルスは約六十三分の一の確率でしかホールから排出されない。またそもそもが好戦的だから、掃討戦が終った時点でいないと考えるのが普通である。つまり念には念を入れてというわけだ。甲級討伐に当たるチーム以外のレナトスが戦闘することはほぼない。そして戦闘要員になれない盾職スクートムは、仕事はあっても監視と救護だけ。ただ歩哨に徹するのみだ。危険なことは何一つなく、今日の作戦は終るだろう。


 普通なら……。


 ……。


 私は今日、殺されるだろう。


 いつかの掃討戦と違い、トラックの中は明るかった。薄墨色のユニフォームに包まれた彼女たちは談笑に興じ、誰一人として神に祈ったりしていなかった。眼を瞑っているものは黙祷ではなく、睡眠不足からだった。戦場に赴くときは、いつもこうであって欲しいなと思った。恐怖で動けなくなるのではなく、朗らかに打ち克って欲しい。きらきらしたものだけ考えて欲しい。そういう類のことは、この世界ではとんでもなく難しいことなのだけど。子供であるうちの今くらいは。


 大人になることもなく。


 私は今日、殺される。


 納得できないが仕方ない。


 私の話はこれでお終いだ。仕方ない、全く。

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