グレイッシュなセパレートユニフォームの生地は、ごわごわした感触とは裏腹に通気性が良い。耐水性もあるので不意の雨でも活動可能だ。クリーチャーの攻撃はサングイスでしか防げないから、これはあくまで廃墟や地面など環境による擦過傷を防ぐためである。烏の濡れ羽のように真っ黒な戦術グローブやブーツも、見た目通り頑丈だが軽く、機動性は高い。釘なんか踏んでもへっちゃらで、私がスラムで履いていたお古のスニーカーとはえらい違いである。


 ヘルメットには単眼視の外界センサーと、クリーチャーを解析する人工知能が搭載されている。AIなんてサイエンス・フィクションにしか登場しない技術だと思っていたけど、どうやら私が生まれるずっと前からあったらしい。こめかみには骨伝導スピーカーが装置され、クリーチャーの階級、敵対状態について伝達する。側頭部にスイッチカバーがあって、開いて操作すると仲間と通信もできる。視覚情報処理や脈拍測定、カメラ、マイクロフォンなど、入力と出力が集積された機能ユニットはサイドレールで取りつけられており、ヘルメットから外すことも可能。機能ユニット単体での装着もできて、ヘルメットを被るか否かは個人に任されている。身軽さを捨てて頭部を守った方がいいのか、自身の資質によって変わるからだ。相手は銃弾ではなくクリーチャーなのだから、装備自体ほとんど無意味ではないかという意見も根強い。しかし、私を含めたレナトスのほとんどはヘルメットを被っていた。落石や戦闘中の転倒、クリーチャーの攻撃による破砕物で死亡した例もあるから、一概に無駄と言えないという判断だろう。本来、機能ユニットとヘルメットは別物であるが、セットで装着するレナトスが多数なため、「ヘルメットで通信する」という誤用がまかり通っているくらいである。


 マニュアル通り個人ロッカーに収められた装備を点検。破損はないか、動作は不備なく良好か。カノンと共に機能ユニットの通信機能を確認して、一通り終える。大人の手によって一度点検されているから無意味に思えるが、先生が言うには大切な儀式らしい。自身の命を守る装備の点検は、確かに身が引き締まる気分になる。


 行動食や単眼鏡などに加えて、盾職スクートムは簡易的な救急キットも持ち歩く。だからチームで私だけ背嚢を背負うことになっている。丁級戦に向いていないタイプは負傷したレナトスに医療班が到着するまで、応急処置をしなければならない。基地に来て真っ先に習ったことだ。リンを介護してやれたら溜飲が下るだろうと、私は夢見ている。


 午前中、三年生が先にクリーチャーを倒している間、二年生はストレッチやランニング、アジリティドリルを済ませ、進軍の用意をする。ウォーミングアップを終えた後は消化にいいペースト状の昼食を摂り、一時から作戦が始まる。掃討戦ではこんな日が一週間ほど続く。運よく生き残れたら普段の生活に戻って、勉強やら部活やら訓練やらに精を出すことになる。クリーチャーとの戦闘を伴う作戦はこれから二か月に一回ほど。上級生になればもっと増えていく。卒業するまで、もしくは壊れるまで、戦い続ける。

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