第4話 魔石集め
瞑想場所で胡坐をかきながら、考えを巡らせる。今後をどうするべきか。
「モンスター化をどうにかするべきかな」
どうしても、独りになると独り言が多くなる。
「もう一つの力を体に巡らせているときは、あまり苦しくない」
魔蝕病に対抗するにはこれが鍵になる気がする。魔蝕病と診断されてから、呪いのような感覚が付きまとっている。だが、この力を体に巡らせている時だけ体が軽くなる。この状況から脱却するために、僕はいろいろ試した。
周囲から流れを汲み取り、体内の力を操作する。ダンジョンに流れる力に同調し、意識を内へと沈めていく。
「はぁっ」
さらに深く力を操作しようと試みる。だが、流れが乱れた。自然と拳の内側に集中していた感覚が、弾かれるように散った。
「……くそっ」
狼を倒したときの感覚がよみがえる。殺戮に快楽を覚えるような、そんな感覚が心に巣くう。この感覚を振り切れなくなった時が僕自身の終わりになるだろう。
いつの間にか閉じていた目を開ける。ダンジョンの内側から離れたここの景色は何も変わらない。森が広がっているだけだ。上を見上げても太陽はない。太陽がないのになぜか明るい。
「ダンジョンは不思議だ」
こんな体になったのはダンジョンのせいだ。一瞬、怒りが込み上げてきたが、すぐに深く息を吐き、熱気を外に流した。
「前に進むしかない」
自分に言い聞かせるように呟いた。立ち上がり、軽く体をほぐす。魔蝕病の影響で体の奥に重さが残る。
もっと中心に潜るしかない。ダンジョンの中枢に。そうすればきっと掴める何かがある。
荷物の中から炭酸飲料のペットボトルを取り出し、飲みながら移動する。
森から商業施設に景色は変わっていく。黒いツタが這い回る魔獣特化型ダンジョン。このC級霧雨ダンジョンは五階層からなる。この五階層目に主がいる。
僕にダンジョンの主を撃破する気はない。なぜなら、撃破と同時にダンジョンがなくなってしまうからだ。ダンジョンの消滅とともに症状が最後の形態に至ってしまう。
ダンジョンの攻略組に出会ったらどうしようか。生きるために攻略の邪魔をする。でもきっとそれをしたら、僕は人類の敵になってしまう。
この地域に前哨基地がある以上、政府はこのダンジョンの破壊を望んでいる。おそらく、渋夜のグラウンドゼロに近いからだと思う。グラウンドゼロというのはダンジョン始まりの地だ。政府はグラウンドゼロを抑えるので精一杯だと思ってたんだけどな。
「ん」
近くに魔獣がいる。一層目のモンスターは弱い魔物ばかりだ。森で相対した個体は強かったけど。あれは特殊個体だ、と信じたい。あれがうじゃうじゃいたらすぐに殺されるだろう。
息を潜め、足を止める。視界の端に、轟く影が見える。
黒いツタが絡みついた狼。体の随所から異形の枝が突き出し、歪なシルエットを形作っている。
鼓動が少しだけ早まるが問題ない。呼吸をして力を練る。気配を消すように、静かに忍び寄る。狼の側面、死角に回り込んだ。
「はっ」
露出した首筋に向かって拳を振り抜く。狼の体が地面に叩きつけられた。体から出ていたうごめくツタも停止し始めて、魔素へと変換される。小さな魔石だけが残った。
「よっし」
小さな魔石は安く買い叩かれるが、これはこれで使い道がある。魔石と付与は相性が良い。僕は謎パワーを使って物体に何かしらの効果を付与できる。今日の狼との戦闘では、石に破裂を付与して使った。かなり便利な力だ。
試しに魔石に付与してみる。掌の上で転がしながら、発火のイメージを送る。炎を生む力を。
「あ、ミスった」
魔石がピシッと音を立てて割れた。細かなひびが一気に広がり、脆く崩れていった。
「うーん」
相性の良い魔石でもたまに失敗する。これが戦闘時に起きたらまずい。
「身体強化と合わせて練習するべきかも」
その後眠くなるまで魔石を集め続けた。
一層目で狼を狩り尽くしたと思う。寝ても大丈夫なくらい制圧した。狼を倒しながら、寝床に最適な場所を探していた。
商業施設のフロアの端っこ。黒いツタに囲まれた薄暗い場所に人が一人ぐらいすっぽりと収まる空間があった。寝る場所に手を付き、付与を行なう。
付与を成功させるつもりはない。意図的に失敗させる。
「よし」
崩れた床はちょうど一人分のくぼみになった。ツタと合わさって、外から見ても人が眠っていることに気づきようがないだろう。
これで周囲の振動が直に伝わるし、何かが近づけばすぐに目を覚ませる。襲撃者の気配もなかったし、狼はあらかた倒した。
深く息を吐き、まぶたを閉じた。
「おやすみ」
静寂が広がる中、僕は眠りに落ちていった。
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