第三章

第34話 魔王

 魔族達が暮らす魔界。その最奥にそびえ立つ古城の玉座の間にて、配下の魔族――『十三大魔族』の一体が己の主に報告を行おうとしていた。

 しかし、その『十三大魔族』の声は震えていた。何故ならば、肝心の報告の内容が自分達魔族にとって。それに耳を傾ける魔王の機嫌を損ねると分かっていたからだ。

 それでも伝えなければならないことであるので、彼は死んでいった元同僚に内心恨み言をぶつける。



「ま、魔王様。至急お伝えしなければならないことが……」



 玉座に腰かけていた魔王はつまらなそうな表情を浮かべていて、言葉を発することなく視線で話の続きを促した。その何気ない動作だけでも、周囲の魔族達はびくりと体が反応してしまう。

 配下にそんな反応をされているのにも関わらず、魔王は何の感情も見せる様子はない。本当に何もかもが、どうでもよさそうであった。



 ――自分達の都合で魔王を勝手に復活させたのに、復活させれば猛獣扱いか。それでいて魔王の力は利用する下心が透けて見える。苛々する。

 昔は忠誠心が厚いと思っていたが、どいつもこいつも結局は自分のことしか考えていないような連中だ。魔王にとっては、何のプラスにもならない――むしろマイナスで目障りでしかない。

 今すぐにでも、ここにいる連中を全員殺してしまおうか。そうすれば、少しは魔王の周りも静かになるだろうか。

 その後は暇潰しにでも魔界の各所でも見て回るのも良いだろう。数百年振りの外界なのだ。ただのお飾りとして、魔王城で今代の『勇者』一行が来るのを待つだけなのは勿体ない。

 というか、魔王が直接見に行くのもアリなのでは! 前の『勇者』とはあんまり良い思い出がなかったがな! 今回はマシであってくれよ。そう言えば、『聖女』もいるという話だし、魔王好みの美少女だったら嬉しいんだけど。



 ――いや、思ったよりも感情豊かであった。ただその興味の対象の中に、同族であり忠実であったはずの『十三大魔族』にすらほぼ入っていない時点で、魔界の命運はあまり明るくはないのかもしれないが。



 そして当事者の末端の魔族から、かつては腹心の部下であったはずの『十三大魔族』すら、魔王の心境の変化・・・・・に気づいていない。

 すれ違いが起きているのに、魔王のことを「無能な部下がミスをして怒っている上司」としか思っていない。数百年前の、当時の『勇者』と会合する前の魔王と何一つ変わっていないという認識であった。



「――様。魔王様。報告は以上になります」



 ――あ、意識を他のことに飛ばし過ぎていた。えーと、確かカミューラを含めて、『十三大魔族』が既に五体も・・・・・倒されているとかだっけ? いやー、今代の『勇者』や『聖女』は強いなー。

 この時点で魔王の勝ち目なくね? 早めに単身で会いに行って、命乞いでもしてくるか。うん。そうしよう。



 己の配下――しかも最高幹部の位置づけに近い者達が複数人も殺されているのに、つくづく(色んな意味で)救いようのない魔王である。



 一方の報告を行った『十三大魔族』は、碌な反応を示さない魔王にビビり散らかしていた。先に死んでいった同僚の失態に対する叱責を自分が受けることになり、最悪この場で自分は死んでしまう。

 そう思っていた。



 だが、今の残念な魔王がそんな面倒くさいことはよっぽどのことがない限りはしようも考えない。

 尊大というか傲慢そうな雰囲気を維持したまま、適当な相槌を打ち玉座の間から一体残らず配下を退出させる。



 一人っきりになった魔王は、先ほどまで考えていたことを実行することに決めた。つまりは人類と敵対しているはずの魔王が魔界を抜け出して、不俱戴天の敵であるはずの『勇者』や『聖女』に単独で会いに行こうとしているのだ。

 はっきりと言って、考えなしと言っても過言ではない。よくあれで数百年前から現在に至るまで、魔王が務まったものだ。

 魔王の思考を覗ける者がいたら、そう思ったことだろう。



 ――では、行くとするか。魔王がいないことに気づいた配下達が多少騒ぐだろうが、すぐに落ち着くはずだ。

 そのぐらいには優秀だからな。多分大丈夫だろう。多分。



 そんな言い訳を誰も聞いていないのに、ぶつぶつとしながら。魔王の姿は魔界のどこからも消えてしまった。





「――あらあら。もしかして、魔王の性格が前情報と違うって考えているかしら? やっぱり図星? 残念だけど、その答え合わせはもう少し後になるわね」

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