第5話 断章 救いようのない一回目①


『初めまして。私の名前はクリアよ。よろしくね!』



 そう初めて声をかけてくれた貴女の声を覚えている。



『ねえねえ、マリー。アレンとはどこまで進んだの? ……えー、まだキスもしてないの? もうちょっと、積極的に行きなさいな。

 ……もしかして、他に好きな人でもいるの? いや、冗談冗談。え、どうして顔が赤いの? マリー』



 友人として交わした貴女の声を覚えている。



『……確かあのモンスターの弱点は――』



 どんな強敵と相対しても、冷静に状況分析をして弱点を暴き出して、それを告げる貴女の声を覚えている。



『魔王は何とか倒したけど、最高にくそったれな置き土産を残してくれたわね……!』



 世界の平和を乱そうとする元凶――魔王を倒して、一息吐こうとした瞬間に発した、鬼気迫った貴女の声を覚えている。



『うーん。これしか方法がないみたい。凄く嫌だけど、元々そのつもりだっだしね』

『……クリア。本当に他の方法はないのか? もしもないのなら、俺が代わりに――』

『はい、ストップ。笑えない冗談はよしなさい、アレン。というか、そもそもあんたじゃ、アレ・・は処理できない。私がやるわよ。

 あんたはマリーことを守ってやりなさい。今も、これからもずっとね。頼んだわよ』

『……ああ、分かった』



 魔王が自身の死をトリガーに発動する魔法。それは、この世界を一撃で滅ぼす『何か』を空の彼方より呼び寄せる魔法。

 その『何か』に対処する為の相談をしていたアレンや貴女の声を覚えている。



 思い出したくない一場面が再生される。魔王との戦いで限界を超えて回復魔法や補助魔法を行使したせいで、魔力不足に陥り一時的な行動不能状態になっていた私。役立たずな私。



 そんな私のことを、アレンは優しく抱きかかえる。いくら私が女性とはいえ、あまりにも簡単に私を持ち上げる彼の力強さに対して。場違いにも、時間の流れの早さや幼馴染みの成長ぶりを感じていた。

 眼前の現実から、目を背ける為に。



 もう分かっているはずなのに、私はアレンに尋ねる。



『ねえ、アレン。クリアさんは一緒に逃げないのですか?』

『……すまない、マリー。俺にもっと力があれば……』

『そんなことは聞いていないんです! クリアさんは――っ!?』



 私の質問にアレンは見当違いな返答する。それに苛立ちをぶつけようとした瞬間。アレンの手刀が私の首元に叩き込まれる。

 意識が闇に染まろうするまでの間に。黒色のローブを着た貴女はゆっくりと振り返り、笑顔を向けてくる。まるで、これが最後だと言わんばかりに。



『――――』



 貴女の口が、ぱくぱくと動いているのを見た。しかし距離が遠かったせいか、私の意識が落ちようとしていたせいか。その言葉を聞き届けることはできなかった。



 嫌だ。行かないでほしい。いつも助けてくれた貴女がいないと、私は――。



 それを言葉にすることはできず、私の伸ばしかけた右手は何も掴むことはなく。完全に私は意識を失ってしまった。




















 あれから、どのくらいの時間が経ったのだろうか。意識を取り戻した私の傍に、大切な貴女の姿はなかった。



「ああああああああああああああああ!?」



 誰もいない部屋に、自分の絶叫だけが虚しく響く。



 ――思い出したくもない、一回目・・・の光景。だけど、私にとって。これは地獄の入り口に過ぎなかった。





――後書き――


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