チューター

 ガンに関する座学が終わったら、次はチューターとの顔合わせをする事になった。

 チューターは私たちの研究活動のサポートやアドバイスをしてくれる人であり、また受験や大学生活についても色々と教えてくれるみたい。


「えーっと、花園さんと柚島さんだよね?」


「「はい」」


「オーケー! 二人がウチのやな、よろしゅうな!」


「「よろしくお願いします」」


 この人が私たちのグループのチューターなんだ。自信を持った声色でハキハキと話すその様子は、まるで大きな商店の店長さんみたいだと、私は感じた。


「まずは自己紹介にしましょかー。ウチは野上すず、○○大学医学科3回生や! 学部生やけど病理の研究室で活動してるから、ある程度研究の事は分かってるつもりや。それと、確かどっちかがプログラミングが好きなんやっけ? ウチもAI使った研究してるから、後で色々話せたらって思っとる!改めてこれから4か月くらい一緒に頑張ろうな!」


「よろしくお願いします。えーっと、それじゃあ私から。私は柚島佐兎と言います。○○高校2年生です。生命科学に興味はあるものの、具体的に何かをしている訳ではなくって、この機会に医学に触れれたらと思っています。絵を描くのが趣味なので、それを何かに活かせたらなと思ったりしています。よろしくお願いします」


「おおっ~、イラスト得意なんや。ええやん~。ウチ、スケッチが下手過ぎて、病理の成績めっちゃ悪かったわ~。病理教室行ってるのに!」


「ええっと、すみません。病理って何ですか?」


 野上さんが時々言っている「病理」が何なのか分からず困っていたところ、佐兎ちゃんが聞いてくれた。ありがとう、助かったよー!


「ああ、そうやでな。うっかりしとったわ。簡単に言うと顕微鏡をのぞいて病気の診断をするんや。例えば『この細胞はガンっぽい細胞やな』とか『この細胞は問題ないな』とか」


「「ほえー」」


「っと話が逸れてもうたな。ええっと、ほんならもう一人の君が花園さんで合っとる?」


「はい。わ、私は花園夏芽です。佐兎ちゃんのクラスメイトです。プログラミングが好きで、ゲーム開発とかアプリ開発とかやってます。最近少しAIの勉強をしています」


「なるほど~! ちなみに開発言語は?」


「ゲームはPythonライクな言語で書けるオープンソースのゲームエンジンを使ってます。アプリ開発はWeb系の物です。Java Scriptとかですね」


「なるほどなあ。いやあ、ウチは専らPythonしか使えんから、色んな事出来るのは羨ましいわあ」


 それから暫く趣味についてやお互いの学校生活についての話題で盛り上がった。

 野上さんの大学生活の話はなかなか興味深かった。授業にはほとんど出席せず、ほとんどの時間を研究室で実験したり、シンポジウムの運営スタッフをしたりしているらしい。「授業出んで出なくてもテストさえ受かればOKなんよ」との事で、かなり自由な時間が多いみたいだね。


 そうそう、医学科は研究室に所属するかどうかは任意なんだって。卒論を書く必要もないらしい。けれど、野上さんみたいに自主的に研究する学生もそこそこいるそうだ。みんな勉強熱心なんだなあ


「ちなみに二人は医学科志望なん?」


「はい、私は一応そのつもりです」

「私は工学部かなあって思ってます」


「なるほどなあ。医学科やったら面接あるからな、そこでこのシンポジウムの事とか話せるから、めっちゃいい経験になると思うで! ここでいい成績修めたら、総合選抜型入試で合格できるかもせえへんし!」


「あはは、実は先生にも同じこと言われました」


「そうなんや! ちなみに、ウチは総合選抜型で受かったんよ。やから、もし柚島さんが総合選抜型受けるつもりなら、色々アドバイスするで! 話せる範囲で、やけど」


「そうなんですか! 凄く助かります!」


 なんと、野上さんは総合選抜型入試で合格した猛者らしい。凄い!



 女が三つでかしましいとはよく言ったもので、私たちは沢山おしゃべりした。思わず本来の目的を忘れそうになるくらい。

 しばらくして野上さんが「やっば、もうこんな時間やん!!」と叫び、私たちの方を向き直って言った。


「そろそろ本題に入るで! 具体的な研究内容とプランを決めていこか!」


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