マラソン大会は出ません!

 3学期になりました。えっ、冬休みの思い出ですか? そうだなあ……アプリ開発が思ったよりも楽しくて、ずっとプログラミングしてたよ。


 あっ、それとゲームのリリース! 『タナトフィリアはここに実る』が無事完成したんだ!

 プレイヤーからの反応も上々で作ってよかったと思ってる。一部「一作目の焼き増し」とか「一作目が当たったからって調子乗ってる」とか言うアンチもいるけど、ああいう人は他者を否定しないと自分を肯定出来ない惨めな人だから憐みの目を向けてあげよう。



 さて、うちの学校は三学期になるとマラソン大会がある。確か6kmらしいよ。私にはけど。

 実はこの学校、進学校を謳っているだけあってマラソン大会は任意参加なんだよね。運動部の人とか走るのが好きな人だけが参加して、柚島さんとか私みたいな運動嫌いは参加しなくていいの。


「これはホントにありがたいですよね」

「ホントにね! 中学の頃は強制参加だったのだけど、ただただ嫌だった記憶しかないわね。思い出すだけで憂鬱」


 と柚島さんと話していると、一人のクラスメイトが話しかけてきた。


「えーっ! 二人ともマラソンしないの?! ま、まじで? す、凄いね……」


 この子は赤羽さん。パソコン室で隣の席だった子だね。最近は赤羽さんとも話せるようになったんだ! ――柚島さんも一緒にいるとき限定だけど。

 二人きりだと気まずい空気になっちゃうのはなんでだろ?


 赤羽さんは運動部って訳でも無ければ、走るのが好きって訳でも無いはず。それなのにマラソン大会には出るらしい。熱心だねー。


「あれだよね、マラソン大会出ないって事は『数学コンテスト』を選んだって事だよね? あれ、めっちゃキツイって先輩が言ってたけど……。試験時間5時間あって、途中で寝ようとしたら起こされるらしいし」


 赤羽さんが言うように、マラソン大会に出ない人は代わりに「数学コンテスト」という種目に出る事になるの。大学入試やジュニア数学オリンピックの過去問から抜粋された全16問を5時間かけて解く行事だよ。


「確かに過去問を見た感じ満点は厳しそうでしたね。私、10時間かけても12問しか完答できませんでした」

「それでも十分凄いじゃない! 私、どれだけ頑張っても8問が限界だったよ」


「いやそういう事ではなく……。あっなるほど、この人達は問題が目の前にあれば何時間でも頭を動かせるタイプなのね……」


「「?」」


 赤羽さんが珍しい物を見るような顔をしていたけど、どうしたんだろ?



 1月の第三金曜日にマラソン大会と数学コンテストが開催される。マラソン大会を選んだ子が校庭で準備運動をしているのを横目に、試験が始まった。


「それでは試験時間は5時間です。途中でトイレに行きたくなったら遠慮なく手を上げてくださいね。それでは――試験を始めてください」


 さあ、はじまった! 過去問を見る限り、毎年第一問は簡単な問題だからサクッと取っておきたいところ。

 さて、気になる問題文は……?



【1】What is the smallest positive integer whose cube ends in 777?

(1988/AIME(アメリカ版ジュニア数学オリンピック)より改題。解答は日本語でよい)



 はいっ?! いやいや、英語で出題されるとは聞いてないよ?! 問2以降を見ると日本語で書かれている。よ、良かった……。全部英語だったら問題用紙を投げ出してたよ。ふぅ。


 これは捨てようかなと一瞬思ったけれど、よく問題を見てみると意外と読めそうに思えてきた。

 というのも、この文中に出てくる英単語ってプログラミングでも使う用語なんだよね。えーっと、“positive”は「正の」って意味、“integer”は「整数」って意味だね。まさかプログラミング歴がこんなところで活きるとは。

 そして“cube”については、普通「立方体」って意味だけど、文脈的に「立方(3乗)」って意味だと思う。


 以上を踏まえるとこの問題文は「三乗すると末尾が777になる最小の正の整数は?」って意味だね。1の位、10の位、100の位と順に絞っていく事で答えが導けるよ。


 次の問題は確率漸化式かな? 漸化式ってDP(動的計画法)みたいで面白いよね。


……

………


「はい、そこまで。ペンを置いてね」


 えっ、もう終わり?! 目の前に問題があれば、5時間なんてってあっという間だね!

 解答用紙を回収したら今日はこれで終わり。放課後自由になったので、さっそく私は柚島さんと解答の確認をする。


「なかなか難しかったですねー」


「だね! 答え合わせしない?」


「はい、お願いします。まず問一は――」


「うん、同じだね。問4は解けた? 私、これ解けなかったの」


「問4ってどんな問題でしたっけ……。ああ、これは方べきの定理のを使えば解けるんですよ」


「うわっ、そんなのあったなあ……。なるほど、そう考えるとこことここが相似になるから、それであとは方程式でも立てて出せるのね。いやあ、全く思いつかなかったよ……」


 柚島さんと答え合わせした感じだと、完答出来たところは全部あってそうだったよ! よしよし、良い感じ! あとは残りの4問でどれだけ部分点を貰えるか次第って感じかな?


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