第46話 不目根田町 攻略作戦ー10

 ───なんて情けないんだ 俺はッ・・・


 アラタはレベル99であっても、ダンジョンボスを倒せないという己に絶望する。


 レベル99に達するためにはただモンスターを倒すだけでは時間がかかりすぎることにアラタは気づいていた。


 5回目の人生を過ごした自分はきっと人も殺したはずだ。


 モンスターを倒すより、レベルがある程度ある人間を倒した方が経験値の稼げる効率は良いだろうと。


 皮肉にも教祖が人を殺している姿を見て──自分が教祖を手にかけたのを経て──アラタは自分ならやるだろうとなんとなく察していた。


 だからこそ受け取ったこのレベル99の肉体の重みは桁違いのものだった。


 時間が巻き戻ったとはいえ、血まみれの罪だらけの自分を犠牲にしてアラタは今戦えている。絶対に成功させなければならない。


 レベルを99に上げることに比べたらはるかに簡単なことだ。


 きっとレベルを99に上げ切った世界の自分なら、楽にこのダンジョンボスも瞬殺できていただろう。


 にもかかわらず、今のアラタはボスを倒すこともできず、町民を──ミナを殺してしまいそうな危機に陥っている。




「くそおおおおおおおおお」


 なんて自分は無能なんだろうか。


 力を借りても、満足に目的を達成することすらできない。結局、何もアラタは変われていない。


 アラタは叫ぶしかなかった。


「もしかして、9人違う人間がとどめを指す必要があるんじゃないですか?」


 町民の中から誰かがアラタに向かって叫ぶ。


 どうやらアラタが手こずっているのは言わずともわかっているようだった。


「こいつ、もぺぺに似てます!!」


「も、もぺ──?」


 アラタは意味不明な単語に困惑する。


 が、聞き覚えはあった。


 数日前──というか昨日、アラタもプレイしているモペットクエストに追加されたはずの新キャラの名前だ。


 ミナに知らせようとしたが、そのままミナは部屋を出ていってしまっていたことを思い出す。


 つい最近のこと───昨日の朝のことなのに、随分と昔のように感じる。


「モペットクエストに出てくる、複数の首を持った蛇の化け物です!!」


 続けて声が聞こえた。しかし、アラタは戸惑う。


 今ダンジョンボスはアラタが再生する前にミンチにしており、町民たちはダンジョンボスがどのような見た目をしているか知らないはずなのだ。


「まさかっ──」


 アラタは辺りを見回すと、切り飛ばした肉片の一つが広間の端で大きくなり、蛇の頭を形成し始めていることに気がつく。


 蛇の頭は動かないものの、アラタのミンチにしている本体の方へ肉体を伸ばして合流しようとしているところだ。


 アラタは急いでその頭も八つ裂きにしたあと、本体の方へ戻ってミナに向かって叫ぶ。


「ミナ!!その人から話を聞いて攻略法を見つけてくれっ」


 アラタは追加されるということを知っているだけで、昨日はゲームをプレイしていないため、攻略法については全くの無知だ。


「わかった!」


 どこにいるかわからないが町民の群れの中からミナの声が聞こえると、後ろで話し合いが始まっているのがわかった。


 しばらくするとミナの声がアラタに向かって放たれた。


「お兄ちゃん!そいつを一旦首まで再生させて!!!

 それぞれ違う人間が、それぞれの頭にとどめをささないといけないみたいっ」


 その攻略法が果たして合っているのかわからないが、もう信じるしかなかった。


 既存のゲームのキャラに似てると言って考え出された攻略法だが果たして攻略法が被るなんてことはあり得るのだろうか。


 が、世界が「ゲーム化」しているのならば当然モンスターの倒し方もゲーム化していても何もおかしくはないとアラタは気付かされる。


 絶妙に元ネタがわからないステータス画面や武器だが、元ネタがわかるようなものがあったって不思議じゃない。それは討伐法にも当てはまるはずだ。


 アラタは攻撃をやめ、ダンジョンボスの再生を促す。


 が、圧によって町民が死んでしまうため、アラタは首の根元が生えてきた段階で一旦その根元を9つに切り飛ばして広間にぶちまけた。


 ぶち撒かれた肉片は先ほどのように蛇の頭の形を形成すると、肉片を伸ばして本体と繋がろうとする。


 この状態ならば本体がなくとも首だけを先に再生することができる。


 これならば圧で町民が死ぬことはない。


 ──が、それでも町民の中で頭を切り裂いて殺せるような人間がいないことをアラタは分かっている。



 ───どうするっ・・・


 すがるようにアラタはミナたちの方を見る。が、そこにはド派手な装備で身を包んだ数人の人間たちの姿があった。


 ───あれは・・・


 それはアラタが塔のモンスターを倒した際にドロップしたアイテムから作ったであろう装備の数々だった。


 アラタは塔のモンスターを討伐したあと、すぐさま使えそうな武器がないので特に回収せずに置き去りにしてきたのだ。


 どうやらアラタがダンジョンボスに挑んでいる間、ダンジョンリミットで化け物が出現するまでにあの塔の中に入ってアイテムを回収した者がいたらしい。


「これとスキルを使えればなんとか倒せるよっ!」


 武器を持った一人──ミナはアラタにそう言うと、装備を持った人々はそれぞれの頭に散って攻撃を始めた。


 アラタはそれを見ると楽にとどめをさせるよう、蛇が絶命するギリギリを狙って、皮膚を切り裂きアシストした。


 端から順番に八個の頭を攻撃してアシストする。一瞬の出来事で1秒もかかっていないだろう。


 アラタは八個の頭は町民たちに──ミナたちに任せ、9つの目の頭に刃を向けて突進する。


「やっぱり、俺はミナがいないとダメだよ。」


 アラタはポツリと言葉をこぼすと9つ目の頭を貫いた。


 アラタの背後では一つの頭に装備を持った人間の他に複数の人間が集まり、同時に攻撃を仕掛ける。

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