第39話 不目根田町 攻略作戦ー3
吹き飛ばされてきた人間は腕が通常ならば絶対に曲がらない方向へと曲がっており、またその腕も真っ赤に染まって煙を吐いていた。
回復要員の魔法によって、みるみるその腕は元通りになっていくも、その治療された人間はかなり満身創痍の状態のようで、自分のステータス画面を開くと、ミミミツカの方へと向け、無言で己の状態を知らせる。
ステータス画面を見ると、その男のMPはそこを尽きており、回復要員の魔法のおかげで、戦闘自体を続けることは可能になっても、もうこれ以上大した火力が出せないようであった。
「───おやおや、これは・・・火力がさらに必要のようだねえ」
二人とともに戦いを眺めていた指揮官のミミミツカは、この事態を受けて、着ていたシャツとズボンを脱ぐとそれらを二人に押し付け、パンツ一丁になってモンスターの方へと駆けていった。戦闘に加わるつもりのようだ。
「私のシャツとズボン、破けちゃうから君たちが持ってなさい。」
「ちょっ──」
ミミミツカが先頭へと加わると、前方で起こっている数々の爆発がさらに激しさを増していく。もう何をやっているのか茶髪出っ歯の男と、ガタイのいい男にはわからなかった。。
二人は飛んでくる風で吹き飛びそうな体を必死に地面に押さえつけるので精一杯。
しばらくその場で自分たちの方へ向かって流れ弾が飛んでこないか前方を見つつ踏ん張っていると、次第に前方からモンスターたちの絶叫が増えていき、やがて絶叫が聞こえなくなると、今度は激しい振動があたりに響くが、最後に大きく広間全体に衝撃が響いたと思うと、前方から爆発音が聞こえなくなり、急に当たりが静まり返っていった。
・
「何─?2名も死んだのか。」
「えぇ。それもかなりレベルの高かったやつが。」
現在、塔の──中ボスの攻略が終わり、攻略隊一行は消えゆく塔の前で状況確認を行なっている。
攻略班の中にはどうやらこの戦いで50レベルにまで到達した者もいるようだった。
まだ攻略が終わっていないというのに、その男は宝くじでも当たったかのように感の声を上げている。
消えた塔の跡には空き地ができていた。
その周辺では、その塔の中にいた中ボスがドロップしたアイテムを使い、早速簡易的な装備を作っている者もいる。
「すごかったすね」
「あぁ。だが、それでも2名亡くなってしまったようだ。我々も巻き込まれて死んでしまわないよう、気をつけないとな。」
茶髪出っ歯の男とガタイのいい男は、お互い討伐ではなく生き残ることに目標を切り替えると互いに固い握手をした。
レベル50を超えていた例の男もちょうどレベルが上がったようだった。
ステータスバーを開いて情報を確認しているのが出っ歯茶髪パーマの目から確認できる。
レベル50越えの人間がレベルアップする瞬間は貴重だ。
くだらないことで運気を使ってしまったかもと茶髪でっぱの男は後悔する。
だが、男のステータス画面から一瞬見えたレベルの数が高すぎることに疑問を持った。
きっと見間違えのはずだが、その男のステータスバーに記されていたレベルの数は98だったのだ。
60レベルでさえ公には存在が確認できていないというのに流石にそれはあり得ないだろうと茶髪出っ歯の男は一人「くだらねっ」と小言を言って笑い飛ばす。
同時に、「98もあれば地球を粉々に砕けちゃうだろうな」とも妄想した。
だが、そう思えばそう思うほど、やはり男が98レベルに達しているというのはあり得ないことだった。
それほどのレベルを持っているにしては男の戦闘力が逆に低すぎるためだ。
98もあれば塔のなかにいた恐ろしい3体のモンスターも簡単に殲滅できただろう。
男がわざわざ手を抜く必要が見当たらない。
第一、経験値を得ることに快感を見出していそうな奴らなのだ。
それほどの力があればとっとと一人でダンジョンに潜入してモンスターを一人で全滅できる。わざわざ攻略隊に加わる必要がない。
──そう、見間違いだ。そうに決まっている。
もの悲しそうに塔が消えた後の空き地を眺めているレベル50越えのその男から目を離すと、茶髪出っ歯の男は空を仰ぎ、指揮官の方を向いて次の指示を待つのだった。
・
攻略隊一行は、次にダンジョンボスのいる神社へと向かう。
神社は塔があった場所の奥の山道から行くことができるようで、山の中にあるため、木々が邪魔になって塔のように素早くボスの元へ行くのが困難であった。
大人しく攻略隊一向は神社までの道のりを知る者を先頭にして、歩いて移動することとなる。
山の中を攻略隊が歩いていくと、途中で分かれ道があり、今回不目根田町のダンジョンを攻略するにあたって地図を持ってきたからいいものの、初見では無駄にわかりづらい場所に神社は位置しており、油断すればダンジョンリミット発生まで山の中を彷徨うことになりそうだった。
本来、ボスのいる場所は独特な「圧」を発しており、だいたい居場所を感じ取ることができるのだが、このダンジョンのボスはあまりにもその「圧」が強力すぎるため、この分かれ道へとくる頃には、「圧」がどこからきているのかわからなくなるほどになっていた。
分かれ道に遭遇した際、先頭の地図を持ったものがチッ図を見てどちらの方向へと進むべきか確認していたのだが、その際ミミミツカは、レベル50越えと思われる例の男が進むべき道の方向を迷わず向いていたことに対して妙な印象を覚える。
ミミミツカはこの攻略隊の中でおそらく一番レベルが高い人間であった。
例の男は自分のレベルを50と名乗っていたが、少なくとも、51以上はあることをミミミツカは感じ取っており、それでもミミミツカと同じくらいのレベルであるはずだった。
そんなミミミツカでさえも、分かれ道に遭遇した際、どちらに進むか迷ったため、圧によって進むべき場所がミミミツカより先に、例の男に分かるはずがない。
───この男はこの分かれ道のことを知っていたのか・・・?
ミミミツカはそのような疑問を頭に浮かべるも、考えるだけ無駄だと判断して、ダンジョンボス攻略のために思考を切り替えた。
間もなくして攻略隊一向はダンジョンボスのいる場所へと続く、神社へと到着する。
歩きで地図を見ながらここまで移動してきたと言っても、常人が歩くよりは───レベル一の人間が歩くよりかは遥かに速い速度で攻略隊たちは移動してきたため、そう時間はかからなかった。
5分もたっていないだろう。
攻略隊一向は神社の前に立つ。
神社の御扉は開け放たれ、中には広大な空間が広がっているのが見えた。
塔と同じで別の次元へと続いている。
「・・・入ってもバチ当たらねえよな?」
「何言ってんだ。
こんなとこに空間作って神様気取ってるモンスターが一番罰当たりだよ。さらにいうとこんなとこをダンジョンのギミックにした『ゲーム化』そのものがな。
逆に俺たちはそんな奴らをぶっ倒す側だ。いいことあるかもよ」
「つーか『ゲーム化』現象って神が引き起こしたんじゃねえの?それしか考えられねえよ。
・・・なら罰当たりもクソもねえな!」
人々が色々と喋っている横で、攻略隊指揮官───ミミミツカは、先ほどと同じように攻略隊に突入を命じる。
ボスのいる空間に入るのは指揮官が最後だ。
「こいつを倒せば俺たち出られるんですよね。」
茶髪出っ歯の男がガタイのいい男に言う。
「あぁ。
ボスの強さは違えど、ダンジョンの攻略法は同じだ。
中ボスを倒して、手に入れた鍵でダンジョンボスのいる空間を開放、ダンジョンボスを無事に倒せばこの不目根田町のダンジョン化は無事解除され、俺たちも外に出られるってわけよ。」
ガタイの男は答える。そして感じた。この空間の先にいるダンジョンボスの異様な圧を。
塔のモンスターも、特に広間にいたときはとてつもないものを感じたが、この圧は文字通り格が──レベルが違った。
「行くぞおお!」
誰かが叫ぶと同時に皆ボスのいる空間へと突入していく。
先ほどとは打って変わって木製の広大な廊下が続いている。しかも今度は縦に異様に広い。
そして先ほどよりも短い廊下の先にそれはいた。
「「奴が──ここのダンジョンボスか・・・」
誰かが呟くと指揮官も空間に入り終え、出口が閉じていくのが見えた。
皆、足に力を入れ、塔の時のようにボスのいる広間へと傾れ込んでいく。戦闘が始まった。
先ほどよりも広間が狭く、流れ弾に当たりそうだった茶髪でっぱとガタイのいい男たちは、指揮官に広間の前で待機を命じられた。
とはいえ、廊下の部分にも普通に攻撃が飛んでくる。二人は広間の巨大な柱の影に隠れると戦いを死なない程度に見守った。
指揮官自身も先ほどと同じようにシャツとズボンを脱ぎ、今度はステータス画面をいじって禍々しい装備を身につけた上で戦闘に加わっている。
この戦闘の際に発せられる無数の塵は、廊下の柱に隠れる二人の肉体を貫き命を奪うのには十分すぎるものだった。
二人はもう見守ることすらできず、ただ柱の後ろに隠れて自分たちに向かって流れ弾が飛んでこないことを祈ることしかできない。
「・・・ひょっとしてこれ、世界で一番難易度高いダンジョンなんじゃね──?」
茶髪出っ歯の男がぽつりとこぼす。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます