第14話 ドラゴン討伐ー3
現在、アラタたちの家とアラタの間にドラゴンがいるという立ち位置になっていた。
ドラゴンの翼は破け、飛び去ることができないようだが、それが逆にアラタに対して絶望感を漂わせる。
逃げる手段を失ったドラゴンがここで代わりに暴れ回ることが簡単に予測できたためだ。
案の定、ドラゴンはアラタの方を睨みつけている。
アラタの出せる最大火力である「奥義」が効かないとわかった今、もう討伐を諦めて母親の救出に向かうことに切り替えるべきなのだが、ドラゴンに標的にされてしまった状態ではそうはいかない。
山の木々の中へ逃げ込もうとしても、そこまでは少し距離がある。逃げ込む前にドラゴンに捕まるだろう。
───戦うしかない。だが、勝てそうにないぞ・・・
アラタはごくりと唾を飲み込み、2度目のリトライを覚悟する。
が、突如ドラゴンとアラタの前に巨大な岩が通過し、その思考は吹きとばされる。岩が飛んできた方向を見るとそこにはミナの姿があった。
「ミナ!!」
ミナは茂みから出て魔法を放っていた。
おそらく、先ほどの攻撃で距離を詰めないとろくに岩が当たらないとわかったからだろう。
しかし、それでも岩はドラゴンへ当たることはなく、アラタとドラゴンの前を通過してドスりと山の中の草むらで落下する。
「うぉぉおおっ」
落下と同時にアラタはドラゴンへ再び切り掛かった。
MPゲージは現在ちょうど半分。「奥義」はもう一度放つことができる。
首の根本では大した効果がなかったが、流石に頭や頭に近い首の部分に斬撃をくらえばタダでは済まないだろう。
──今度は当てるっ
アラタは声を押し殺してミナに気を取られているドラゴンの方へと突進した。が、ドラゴンはそのまま胴体ごとミナの方へと向きを変える。
「なっ──」
突進し、前のめりになったアラタの前に、体の向きを変えたことでドラゴンの翼が突如現れアラタは翼と激突するとそのまま後ろへ跳ね飛ばされた。
10レベルだからここまでで済んだものの、おそらく常人───レベル1ならこれでミンチになっていたところだろう。
アラタは地面に倒れ込むと急いで体を起こす。
ドラゴンはものすごい形相でミナの方へ向かっていた。
「逃げろミナぁあっ」
咄嗟にアラタが放った声は裏返って間抜けにあたりに響いた。
ドラゴンの鉤爪がミナを襲う。
アラタは思わず目を背けた。
「起動ぉっっ!」
その一声にアラタは目を大きく開き、ミナの方を向きなおす。
そこには杖ではなく腕を突き出してスキルを発動させているミナの姿があった。
ドラゴンの動きは──停止している。
───ミナのスキルは・・・「空間の凍結」。
これ以上のチャンスはない。アラタは叫びながら全力でドラゴンの方へと駆け出した。
───スキルがいつまで続くかわからない。この習慣にドラゴンの息の根を止めなければっ
「アラタ・・・もう持たないっ」
悲鳴に近いミナの声があたりに響き、それに呼応するようにアラタは地面を蹴って飛ぶ。落下する位置にはドラゴンの頭──ではなく、ミナの姿があった。
「奥義っ─」
ドラゴンの頭が動き出す。
動いた頭の位置はアラタの落下する位置──ミナの位置と重なった。
アラタは剣を落下地点に目掛けてに向けて思いっきり振る。
先ほどまでのことを学習し、あらかじめ斬撃が到達することを読んで放った一撃は見事ドラゴンの頭へと直撃した。が、まだドラゴンの皮膚は裂け切らない。
「うおおおおおおおおっ」
「奥義」によって飛ばした斬撃でできた傷目掛けて今度はアラタが
剣はドラゴンの頭を貫通し、ドラゴンの頭部は貫通したアラタの剣ごと地面へと叩きつけられた。
鉤爪はミナに到達することはなく、辺りには静けさが戻る。
そこには息を切らしたアラタとミナ、そして討伐された真っ赤な飛龍の姿があった。
・
「ごめん。もうこんな無茶なことはしないよ。」
アラタは消えゆくドラゴンの死骸を前にミナに謝った。
「モンスターって倒すとこんなふうに消えちゃうんだね。なんだか勿体無い。」
ミナは興奮してアラタの言葉があまり耳に入っていないようだった。ドラゴンの死骸は粒子のようなものになって空へと散っていく。
そしてそれは二人の体へと吸収された。
「見てよアラタ!これ──」
どうやら直接トドメを刺したものでなくとも、ダメージを与えていれば少しだが経験値は入るらしい。
ミナのゲージがものすごいスピードで加速していき、レベル7の途中で停止した。
「っ・・・うおおおっ! すごいよアラタ!なんだか体がすごく軽い──」
ミナが瞳を輝かせてはしゃぐ。はしゃぎながらアラタの方を見てアラタはどうなのか目で訴えかけてきた。
「・・・俺も──13レベルだ。・・・ははっなんだ苦労した割にはそんな上がらなかったな。もう20くらい上がってくれればいいのに。」
アラタはドラゴンとの戦闘で負ったわずかなかすり傷が癒えていくのを確認する。
「けど、それでもないよりあったほうがいいことに変わりはないな。ありがとうミナ。これでどんなやつが出てきても大丈夫だ。」
朝日が顔を出す中、二人は早朝からいきなり得た達成感を噛み締めた。
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