絶対に凄い召喚士になるんだ!

蒼井星空

第1話

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


「おめでとうございます。よくあんな夢に何度もチャレンジできますね。尊敬に値します。そして、9回も見たあなたには"アリの降臨"がプレゼントされます! ようやくこれであなたも召喚士ですね♪」

 えっと……?


 ようやく夢にまで見た召喚士になれる。受付係の綺麗なお姉さんにお祝いされて高揚していた気分が一瞬で萎える。


 アリ?


 そんなのあり?


 すまない、あまりのショックについ……。



 えっと……誰か教えてほしいんだけど、アリってあのアリだよね?

 そこらへんの地面を這いずり回っているあの虫……。


「モンスターでもなんでもないアリを出現させて、何か意味があるのか?」

 きっと戦えないし、盾にもならないし、その……非常食にもならないのに?


「えっと……」

 お姉さんの表情も固まる。ですよね~みたいな困った表情。

 どうやら無理やり気分を高めて……きっと適当に流そうとしたんだろうな。


「"アリの降臨!"」

「やめてください、リュートさん。こんなところで召喚魔法は……まぁ、アリくらいならいいですけど」

 もうやけくそで試しに使ってみた。

 いきなりギルドの中でモンスターを出したりしたらマズいだろうけど、アリならそこら中にいるし、問題ないっぽい。


「あのぅ、そんなに落ち込まないで? ねっ? 頑張ればきっといいことあるからさ」

「くそっ、もっとあの夢を見れば……あの夢に挑めばもっと強いものを降ろせるようになりますかね!?」

「あぁ、え~と。それは……たぶんね」


 俺は落ち込んだ気分でその日は帰宅した。


 こうなったら不貞寝だ。

 とりあえず寝て、明日また考える。

 今日はもう何もしたくない。


 そうと決まれば寝るぞ!?


「リュート! なにやってんだい!? とっとと朝ごはん食べて父さんの手伝いをしな!」

「かっ、かあさん!?」

 寝かせてはもらえなかった。


 なんで召喚士になって探索に出かけようと思っている俺より、ただの農家の妻の母ちゃんの方が力が強いんだよ……って、もし今見てる人がいたらきっと思うんだろうな。


 俺も思う。


 でも仕方ない。

 俺より母さんの方が力が強いのは事実で、無理やりテーブルに座らされて朝食を押し込まれて叩き出された。

 

 うん……逆らったらまずいし、言われた通り父さんの手伝いをしてこよう。



 くそぅ。こんなことをしている間に憧れのあの子は……。



 俺には幼い頃から一緒に育った幼馴染がいる。

 隣の家のメリアさんだ。


 彼女は歳は俺より3つ上で、面倒見が良くて、明るくて、優しい理想の女性だ。


 昨年、俺より先に冒険者になった。

 俺はメリアさんに誓ったんだ。


 俺も必ず冒険者になって一緒に旅しようって。


 メリアさんも待ってるって言ってくれたんだ。


 なのに……。


 俺、まだダメっぽいよ。


 せっかく召喚士になる方法が描かれた巻物を発見し、それに従ってとんでもない夢の中での試練をこなしたのに、できるようになったのが"アリの降臨"だけ。


 なんの役にも立たない。


「これ、リュート。もっと気合入れて鍬を振れ!」

「わかったよ!!!?」


 こうなったらヤケクソだ。

 そう思ったのに、視界の端に映るのは歩いて村に帰って来たメリアさん……と、冒険のパートナーであるクソ剣士だ。


 なぜクソなのかって?


 俺のメリアさんを狙う憎きキザな野郎なんて、クソ以外の何物でもないだろ?


 なのに、手をつないで……



 チクショーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!?



 悔しさを力に変えた俺は今日もあの夢に挑む。


 こうなったら凄まじいモンスターとかを降ろせるようになるまで、ひたすら挑み続けてやるぜ!!!!?










 あの夢を見たのは、これで107回目だった。

 

 どうだ!?

 そろそろ凄いモンスターが来ただろ!?


 俺の中には半ば確信のような形で新しいスキルが芽生えている感覚がある。


 朝になって、母さんの制止をなんとか振り切った俺はギルドに突撃し、受付のお姉さんに頼んでスキルを見てもらった。





「おめでとうございます!」

「おぉ!?」

 今回の反応は前回とは違うぜ!

 前回は明らかに取り繕ってる感じが出てたけど、今回はそんな様子はない。


 これはもしかして!?



「リュートさんは"トリの降臨"をゲットしました!」

「おぉすごい! これで毎晩鶏肉が食べられるな。母さん、喜んでくれるかな? ひゃっほう!!!!」

「うんうん。良かったですね。もしお肉が余ったらください」

「あぁ! ……じゃね~よ!!!!!!? なんでこんなに頑張ってトリなんだよ!? そろそろドラゴンとか骸骨剣士とかもっとあるだろうがよぉ!? なんでまだモンスターにすらなんねぇんだよ!?」

「わかりません」








 あの夢を見たのは、これで365回目だった。


 もう1年も経ったのか……メリアさんは結婚しちまうし、最悪だよチクショウ。



 あの夢を見たのは、これで1,186回目だった。


 もう3年……どうせまた空振りだ……って、おい!?

 この感覚は間違いない。

 忘れかけてたものだけど、俺の中に新しいスキルが生えてるぜ!?



 久しぶりに訪れるギルドでは、相変わらずあの綺麗なお姉さんが受付をしている。

 行き遅れかな?


 とか言ったら鑑て貰えなくなりそうだからもちろん言わない。



 そしてドキドキしながら鑑定の結果を待った。


「おめでとうございます」

「おぉ!?」

 今回こそは……頼む。

 お姉さんの雰囲気は……読めない。

 読めないけど、どこの国の言葉か知らないけど、3度目の正直ってやつがあるんだろ!?


 俺は絶対に召喚士として華々しくモンスターを倒しまくってやるんだ!


 それでメリアさんよりもっと良い人を探すんだ!



 しかし結果は残酷だった。


「あなたは"シリの降臨"をゲットしました……」

「なんだよシリってよぉ!!!!!!?」

「ふふふ」


 受付のお姉さんですら、受付という職業の仮面を取り払って笑っている。


 チクショウ……。


 アリ、トリときてシリかよ。

 なんで韻を踏んでんだよぉぉぉぉ。




「あっはっはっは。ウケる」

 割り込んできたのは今ギルドに入って来たばかりのクソ野郎……憧れのメリアさんをNTRしていった野郎(注:NTRではなく、本当はBSSなので彼は悪くない)に笑われた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る