第10話 高見沢ダンジョン(下)

 長輔は自分のチャンネルの配信を始めるために準備をすすめる。一応外でも何度も操作を覚えるために何度もテスト配信した。高見沢ダンジョンに入ってからも配信していたのに、どうしても手間取ってしまう。戸惑う長輔を、見かねたらしい心春が横から教えてくれる。


「長輔、そうじゃなくて、こっちのアイコンだよ」


「あ、そうだった。お、準備中の画面でた。これで大丈夫かな」


「長輔、ボクにこうしてほしいとかある?」


「うーん。適当に話を合わせたり、質問とかしてくれると嬉しいかも」


「おっけー! あとね。長輔に言っておきたいことがあるんだけど」


「うん?」


「長輔のチャンネルが『ぐうたら』なのはわかってるけど、もうちょっと戦ってる感は出したほうがいいかも?」


「どういうこと?」


「例えばさ、回復系とかバッファー系の人だと、基本的には戦闘中に暇なタイミングも多いでしょ? だからって気の抜けた顔してたりすると、リスナーからみると『真面目にやれ!』ってなるからさ。長輔も手で印みたいの組んでキリッとした顔してるだけでもだいぶ違うと思うんだよね」


「なるほど……。言いたいことはわかった」


「うんうん。配信の大先輩も言ってたもん『ダンジョン配信は、能力で攻略するんじゃない。顔で攻略するんだ』って」


「了解。やってみるよ」


 ちょうどタイミングよく一匹のモンスターが現れた。長輔は心春が言ってた通り、引き締まった表情を作って手で印を組もうとする──。しかし、すでにモンスターは青竜のブレスで倒されたあとだった。


「いけ! 青竜!」


「遅いよ! というか顔を作る前に秒で消し飛んでたよ!」

 

「弱めのを沢山喚ぶ方向のほうが良いのかも……」


「あとでどうするか相談しよ。ほら、もう配信始まるよ長輔!」


 牛鬼が拾ってきた魔石を受け取ったところで配信がスタートした。


「長輔のぐうたらダンジョン配信。始まりました! みなさん引き続きよろしくおねがいしますね」


「みんなー。よろしく! こっちの長輔のチャンネルも登録してあげてね」


〈はーい〉〈よろしくー〉〈登録ボタン一〇回押した!〉〈それ最終的に解除してるw〉


「今日の僕の配信では、ダンジョンで採掘をやりたいと思ってます。採掘ポイントまでもうすこしだから移動しますね」



 何度か戦闘をこなして、ついに目的地へとやってきた長輔たち一行。さすがにこの採掘ポイント付近ではひっきりなしにモンスターが襲いかかってくる。


 心春に指摘されたポイントも忘れない。モンスターが現れそうな気配がしたら、即座に表情を引き締めて手印を組む。長輔なりにうまくやれていると思う。心春の反応を見たくて視線を向けると、なんとも言えない苦笑いを浮かべていた。どうやらまだまだ合格点は貰えないらしい。


「それじゃ集まってくるモンスターは白虎たちに任せて、僕たちは採掘をやっていきたいと思います。この場所ではダンジョナイトが取れるんですよ」


「うんうん。ダンジョナイトは女の子の憧れの宝石だよ」


「心春が言うように宝石としても価値が高いけど、工業用途でもかなり注目されてるんだよ。この鉱石のおもしろいところは、成分的に珍しい元素が含まれてないんだけど、ダンジョンでしか取れない鉱石ってところだね」


「へえ。なんでだろう? 長輔知ってる?」


「まだ良くわかってないんだけど、炭素が特定の条件下でのみダイヤモンドになるように、魔力が関係するなんらかの条件があるんだろう。とは言われてるね」


「そうなんだ。じゃあ長輔、さっそく掘ろうよ」


「そうしよう。はい、これ心春の分のツルハシ」


〈なんか教育番組的な話してるけど、後ろで暴れてる青竜白虎が気になって仕方ない〉〈わかる〉〈なぜか話が頭に入ってこない〉


 長輔と心春はツルハシで採掘をはじめた。黙々と採掘を続けるけど、ダンジョナイトはなかなか姿を表さない。


「あ、これ! みてみて長輔。これダンジョナイトじゃない?」


 心春がそういって見せてくれたのは、四ミリくらいのサイズの透明の石。照明ドローンの光を浴びて七色にキラキラとかがやている。間違いなくダンジョナイトだ。


「間違いないね。僕も早く見つけないと家賃が……」


〈家賃稼ぎww〉〈こはるんおめでとー〉〈そんなことより後ろの血みどろの戦いが気になって仕方ない〉〈牛鬼と猫又がせっせと魔石運んできてるのかわいい〉


 三十分ほど掘り続けた結果、そろそろ予定の採掘時間が終わろうとしている。長輔はなんとか二つのダンジョナイトを見つけることができた。心春の方はどうだったかというと……。


「どう長輔。ボクは九個も見つけたよ! 長輔は何個見つけたの?」


「えっと、二個だけだね。僕の負けだよ」


「ほらっ、これ見て! おっきいのも取れたんだあ」


「これは……。かなり大きいね」


〈うわっ、デカっw〉〈値段を聞くのが怖いレベル〉〈いちおう二個とれたんだ? 家賃おめ〉〈成功した配信者が買って見せびらかすやつ〉〈家賃じわる〉


 心春が見せてきたものは、一〇ミリ近くある大粒のダンジョナイトだった。おそらく、これ一つで高級車が買えるくらいの価値があるだろう。


 手に入れたのはたった二つだけど、長輔はかなり満足していた。これでも売れば一年分くらいの家賃になるだろう。時給で考えれば今までの生活とは桁違いの稼ぎだ。


「二人で十一個だから、半分で分けても十分だね。でも、この一番大きいのだけは、ボクの買い取りってことでいい?」


「え? ダメだよ心春が見つけた分は心春の取り分じゃないと」


「でも、アレの半分もボクがもらうわけだし、ダンジョナイトも分けるのが公平だと思うよ? それに長輔は知ってるでしょ? ボクがコラボするときは毎回半分ずつ分けてるって」


「確かに心春はいつも半分で分けてたけど……。さすがにこれは釣り合いが取れないような」


 そういって心春が指差したのは、牛鬼と猫又が積み上げた魔石。流石にモンスターが多いエリアだけあって、ちょっとした小山になっている。あれだって全部売ればそれなりの金額にはなるけど、心春が譲ると言っているダンジョナイトに比べれば微々たる額だ。


「それにほら、次同じような企画をやる時には、ボクの方が少ししか取れないかもしれないし……。その時はたくさん採れた分は長輔独り占めするの?」


「わかったよ。半分で分けよう」


 ダンジョナイトは戻ってから分けることにして、長輔と心春は小山になっている魔石をバッグに詰めていく。バッグに詰め終えたところで、牛鬼と猫又が追加の魔石を持ってくる。このままではきりが無いから、長輔と心春は移動を開始した。


「ねえ長輔。このあとの予定って、本来は戻りながら雑談コーナーをやろうって話だったでしょ?」


「うん。そうだけど、なにかやりたいことでもできた?」


「ここからなら遠くないし、ボスも倒していかない? ボス倒せばポータルで入口付近まで帰れるし」


〈ボスいくの?〉〈C級ダンジョンとはいえ、二人でボスは無謀じゃない?〉〈うんうん。確か記録ではAランク三人が最小人数クリアだよね? このダンジョン〉〈青竜と白虎がかなりチートだしいけそう感ある〉〈こはるんがレコード塗り替えるところみたい〉〈なにげにこはるんボス挑戦はじめてじゃね?〉


 長輔は少し考える。たしか、下調べした時にみた資料には、高見沢ダンジョンのボスはハイオークと書いてあった。ハイオークというと、氾濫のときのトロールよりも格下のモンスターだから、いざとなれば貴人きじんを追加で喚べばなんとかなるだろう。


「じゃあ、行ってみる?」


「うん。危なそうだったら、他の強いのも喚んでね」


「大丈夫。だけど追加で喚ぶとさすがに魔力キツくて数分しか維持できないと思うから、そのときは速攻でおねがい」


 覚悟を決めてボス部屋の扉を開くと、長輔と心春は一歩中へと踏み込む。


 部屋の中央に陣取っている巨大な戦斧せんぷをもったハイオーク。人のような姿でありながら突き出した豚鼻。口元には巨大な牙が覗いている。ボロのような衣服をまとったハイオークは、縄張りに侵入した長輔と心春に怒りの視線を投げつけている。


 長輔と心春の背後で扉が閉まっていく。ハイオークか長輔たちか、どちらかが命を失うまでこの部屋から出ることはできない。さすがの長輔も緊張しながら、手印を組んで白虎と青竜に指示を出す。


「白虎! 青竜!」


 白虎が繰り出したパンチが見事にクリーンヒットしたボスは、倒れ込んで苦しそうな声を上げる。そこへ青竜のブレスが発射されて、ハイオークの横っ腹に巨大な穴があいた。長輔は気を抜かずに心春にアイコンタクトを送る。


「最後はボクに任せて! 炎雷!」


 心春が放った炎雷が、ハイオークにトドメをさした。戦闘時間一分も掛かっていない。思っていた以上に楽に勝てた。ボスが立っていた場所にはかすかな焼け焦げと魔石。それと手に持っていた戦斧が残されている。


「よし! ボクたちの勝ちだよ!」


〈はやっ!〉〈これ最少人数と最速記録と同時に塗り替えてない?〉〈長輔やるやん〉〈やったのは青竜白虎こはるんだけどな〉


 こうして長輔の初配信、初ダンジョンは終わりを告げるのだった。

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