十一回目
第4話 お迎え
「……!」
唐突に、目が覚めた。
ハッとして胸に手をやると、心臓はしっかりと動いている。
まだ俺は、生きているのだ。
充電コードに差したままのスマホは、十二月九日の午前五時四十五分を示している。
――繰り返しの一日の始まりだった。
「……ああ、またか」
うんざりしながら、目を閉じる。
――このまま二度寝してしまおうか。
そういえば、何だかんだと言いながら今まで家に閉じこもったことはなかったし、もしかしたら、家に引きこもるのも一つの手かもしれない。
俺は深く布団をかぶり直すと、再び目を閉じた。
ピンポーン。
インターフォンが鳴る。
時刻は、午前十時五十四分。
随分と眠っていたらしい。
両親はもう仕事へ出ている時間だ。
このまま居留守を使おうか。
ピンポーン、ピンポ、ピンポ、ピピピピピ……――。
嫌がらせのようにインターフォンを連打され、思考の邪魔をされる。
それでも無視を続けたが、三分経っても、五分経っても連打は止まない。
根負けした俺は、仕方なしに玄関へと向かった。
「はい?」
いつも通り、チェーンをかけたままで玄関の扉を細く開ける。
「おはよう」
笑顔でそう言ったのは、紛れもない。
あいつだった。
「……っ!」
「ねえ、これ外してくれる?」
あいつは細いチェーンを軽く指でつまむと、笑顔で俺に語りかけてくる。
俺は咄嗟にドアノブを引き、扉を閉めようとした。
それを引き留めようと侵入してきたあいつ指が、鈍い感触と共に扉の隙間に挟まる。
「痛っ……」
初めて聞くあいつの人間らしい声に、思わずドアを開けてしまった。
その隙を見逃さず、あいつは指は引っ込めるどころか腕までこちらへ滑り込ませてきた。
「ねえ、開けてよ」
肘まで侵入してきた腕は、指先の感覚だけでチェーンを外そうと蠢いている。
ドアに挟まった衝撃で折れてしまった指が、触手のように不規則に動いていた。
その光景に耐えられなくなった俺は、数歩後ずさりしてそのままリビングへ逃げ込んだ。
しばらくすると玄関の扉が閉まる音がして、辺りは静寂に包まれた。
……どうなったんだ?
あいつはどこへ――
ドンドンドンドン。
突然、家を揺さぶるような衝撃が響き渡る。
見れば、あいつがリビングに面した窓を拳で何度も何度も打ちつけていた。
拳では窓が割れないと悟ったあいつは、手頃な大きさの石を手に取ると躊躇なく窓ガラスに投げつけた。
ガシャン、と鋭い音が部屋を切り裂き、割れたガラスに切り付けられながらあいつが部屋に侵入してくる。
「どれだけ待っても君が来ないから、迎えに来たよ」
「やめろ……、来るな……!」
あいつの握り締めた拳からは、真っ赤な血がぽたぽたと垂れている。
およそ正常な人間の行動とは思えない。
俺は逃げようとするが、恐怖で足がすくみ、どうしても踏み出せなかった。
「なんで制服着てないの? ほら、早く着替えておいでよ」
「……は?」
「学校だよ、学校。もう授業が始まってるよ」
呆気に取られる俺をよそに、あいつはずかずかと俺の部屋へ向かい、鞄と制服を持ってきた。
「ほら、急いで」
差し出された制服を、戸惑いながら受け取る。
そして、俺が着替え終えるまで、あいつは俺を監視するように目を光らせていた。
「よし。じゃ、出発しようか」
あいつは満足そうにそう言うと、玄関へ向かおうとした。
「おい、待てよ」
俺はあいつを呼び止める。
「ん? 何?」
ふと足を止めたあいつは、こちらを振り向く。
「これ……、どうしてくれるんだよ」
粉々に砕け散ったガラスを見下ろしながら言った俺に、あいつはおかしげに笑いを漏らす。
「そんなの、明日になれば直るでしょ?」
「……!」
あいつは、知っていたのか?
俺が何度も同じ一日を繰り返していることを。
「ほら、行こう」
愕然と立ち竦む俺の腕を、あいつは無理矢理引っ張って歩き出す。
俺は何もすることができないまま、あいつに連れられて家を出た。
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